第2話 突然の異世界
目を覚ますとそこは知らない場所だった。どうやら鏡に吸い込まれた時に、意識を失ったらしい。外にいたはずだが、薄暗い屋内にいた。部屋全体が石で作られているようだ。
「どこだ、ここは?なんでこんなところで寝てたんだ?ひよりと桃花はどこだ?」
思わず呟いてしまった。人間一人だと独り言が多くなるらしい。よくわからない展開だが、意外にも頭の方は冷静のようだ。パニックにならずに色々と考えることができている。ポケットからスマホをとりだしライトをつけた。ついでに時計を見ると午後の1時。ひよりと桃花と登校していたのが、7時前だから6時間ほど眠っていたようだ。
「ひよりと桃花が近くにいないって事はを巻き込まなくてすんだみたいだな。」
鏡に吸い寄せられる直前に2人を突き飛ばした。勢いよく突き飛ばしたから怪我はしたかもしれないが多めに見て欲しい。
今の状況は全くわからないが、ここにじっとしていてもしょうがないので移動をすることにした。今いる部屋はあまり大きくはない。学校の教室くらいの大きさだろうか。スマホで辺りを照らしてみたが、特に何もなかった。椅子やテーブルもなく、壁に何か書いてあるということもなかった。隣にも部屋があるようなので移動してみる。その部屋も同じような作りであった。いったいどんな用途で作られた建物なのか見当もつかなかった。そういう部屋をもう2つ過ぎると外に出た。建物は昔のアステカ文明の祭壇のように高い石段の上に建っていた。日本の建物の6階に相当するだろうか。そうとう高い建物だ。だが俺はそんなことよりも目の前の光景に圧倒されていた。
「すげぇキレーだ…!こんな景色見たことがないぞ!」
そこには広い草原が広がっていた。その先に森があり、森の奥に広がる大きな湖。森の手前には街のようなものも見える。今立っている建物から見える風景だけでもとてと美しい光景が広がっていた。この世のものとは思えないほど綺麗だった。それこそファンタジーのような世界がそこにはあった。その時、
「ッッ!?」
思わず息を呑んだ。俺の頭上を俺よりも大きい鳥が飛んでいった。見つかったら喰われそうな見た目をしていた。ワニのように大きい口、鷲のように鋭い眼、そしてバランスが悪く見えるほど大きい前足。ゲームやアニメでしかみたことないような存在がそこにはいた。幸い、その怪鳥は俺に気づくこともなく飛び去った。恐っ!何アレ!こっわ!?
「薄々思ってたけど、異世界ってヤツに迷い込んじゃったのか。ゲームの中って線もあるけど。」
実は俺は自他ともに認めるアニメ、マンガ系のオタクだ。最近人気なのが異世界転移又は異世界転生ものだ。俺は死んでないから今回は転移の方だろう。多分。
「マジかよ…。どうやって帰るんだよ俺…。てか生きていけるのかよ…。」
景色は綺麗で心踊ったが、家に帰るのが難しいことに絶望した。最近の漫画だと、異世界に来るときに威厳のある神様や美しい女神様が出てきて、ごめーん間違えて殺しちゃった!てへっ!チート能力あげるから異世界で頑張ってねーってのがテンプレだ。でも俺そんな人たちに会ってないんだよなぁ。会ってみたいなぁ女神。
とはいえ可能性はなくはないので試してみることにした。今いる石段の頂上からゆっくりと草原のところまで降りる。石段もかなり急なのでゆっくり降りた。転がり落ちたら死ぬ高さだ。草原まで降り立った俺は周りに何もないこと、誰もいないことを確認し、まずはステータスウインドウが出てくるか試した。ゲームの世界って可能性もあるからな。目の前を注視したり念じたり、手を前で振ってみたりログアウト!って叫んだりと試した。出なかった。
次に能力を使えないか試してみた。神には会ってないけど異能力が備わった可能性あるし!手を前にだし、
「ファイアボール!!」
出なかった。次に大きくジャンプして
「アイッ!キャンッッ!!フライッッッ!!!」
飛べなかった。次に手を前に出し
「か〜め〜は〜○〜波!!」
出なかった。
他にも走ったり物を持ち上げたり等色々試したが、足が速くなっていたり跳躍力が上がっていたり、力持ちになったり、五感が良くなったりとそういうことを期待したが、そんなことはなかった。
「嘘だろ…。いつもの俺じゃん…。異世界転移ハードモードじゃん!」
神様イベントがない時点で少し察してはいたが、もしかしたらって思っていた。ほら、男の子ってそういうことに憧れるじゃん?
落ち込んでいても仕方ない。今できることをしよう。今の装備は、学校指定のバッグにスマホ、筆記具とノートとペットボトルの水のみ。正直これだけの装備でどうすればいいのだろうか。絶望感は増すばかり。くよくよしていてもしかたないので歩くことにした。森の手前に街みたいなものが見えたので、まずはそこを目指して歩く。人が居そうなところへ行かなくてはどうしようもない。今はとにかく人に会いたい。ここが異世界だとすると、必ず自分が思い描く人間じゃない可能性もあるが、今はコミュニケーションのとれる人に会いたかった。寂しいんだ、1人で。そして怖い。広い草原だがモンスターのような存在は見えない。あの怪鳥みたいな存在が他にもいないとも限らない。出くわす前に街までいきたい。石段の頂上から見るとそんなに遠くないように見えたが、街まではかなり距離があったようだ。数時間歩いたが未だに着く気配がない。
「はぁ…はぁ…。まだ着かないか。暗くなる前に着かないと終わりやん…。」
つい弱音を吐いてしまう。それもしかたないよね、こんな状況だし。朝から何も食べてないので腹も減っている。水はまだあるが節約をしておきたいところだ。今日食べられなくても死にはしないだろうけどしんどい。
そう心が折れかけながら歩いていると、遠くの方で何かが動くのを見た。自然と体が緊張しその場で立ち止まる。その何かはこちらに近づいてきているようだ。なんだろう、凄く嫌な予感がする。こういう時の勘ってよく当たる。
前からやってきたのは、
「ガウッ!ガウッ!」
と叫びながら棍棒のようなものを持った何かの集団だ。その何かはオオカミのような見た目で、腰に布が巻いてあるだけの格好で、右手に棍棒。全部で3体いる。3体とも血走った眼でこちらを見ていた。明らかに友好的な関係を築ける種族ではなさそう!オオカミっぽい見た目なのに二足歩行でこちらに走って来た!
「ヤバっ!!??」
急いで引き返し、逃げた。必死で、それこそ死に物狂いで走ったが、オオカミ男達の方が若干早い。追いつかれるのは時間の問題だ。何よりどこに逃げればいいっていう問題もある。あの建物まで戻るしかないのか?追いつかれたら棍棒でめった打ちにされるのは目に見えている。そうしたら命はない。なのに
「アェウッ!!??」
こけた。え、普通このタイミングでこける?振り返るともう目の前までオオカミ男達は迫っていた。え、このまま俺の人生おしまいなのか?訳の分からない場所に1人飛ばされて、ひよりや桃花に再会できないまま?力、力さえあればこの窮地を脱出することができるのに。そうだよ、今だよ。今だよな、力が発現するのは!異世界召喚なのだからここで力が出なくてどうする!
「うあああああああああああああ!!!???」
無様にも俺は喚きながら目の前のオオカミ男に向かって殴りかかった。
「ワウ?」
と、オオカミ男も戸惑い気味の声を出した。あまりにも効かなすぎたらしい。
「ガウッ!」
「ぐふうっ!!?」
棍棒が振られ腹に直撃した。そのまま後ろへ飛んでいった。ちくしょう、やっぱりダメか…!何も食べてなかったのが幸いした。吐くものもなかったからだ。しかし今ので心が折れた。俺に奴らはどうすることもできない。このまた棍棒で滅多打ちにされて餌にされて食われるのだろう。そんなのは嫌だ。いやだけどどうしようもない。非情にも目の前のオオカミ男は棍棒を振りかざし、
「ワウ!?」
その振りかざした腕が宙をまった。棍棒を持ったまま。オオカミ男は驚き振り返った。なんだ、何が起こっている?
「ようやく見つけた。」
女性の声が聞こえた。力強く、透き通る美しい声。
「はぁあっ!」
何かキラキラと光った思ったら、目の前のオオカミ男は胴の部分から真っ二つになった。目の前で中々ショッキングなものを見たが、そんなもの気にならないくらい今の状況に驚いていた。そこにいたのは剣を横薙ぎにしたであろう体勢の女性だった。その女性はとても美しかった。年は俺と同じか少し上、長い銀色の髪に銀色の瞳。そしてスラッと伸びた肢体、だが出るところはしっかり出ている。顔立ちは海外の女優、いやそれ以上にすごく整っていた。
「後2体!」
仲間がやられているのを、ぼうっと見ていた残りのオオカミ男達も今の状況に気づいたのか、棍棒を振りかざし、女性に襲いかかった。流石に2体同時は無理なのでは!?と思ったが、
「はぁあっ!やぁっ!」
軽やかなステップで右へ左へ移動し、手に持った輝く二振りの剣でオオカミ男達の胴を切り裂いた。あまりの美しい早業に俺は見惚れていた。女性は二つの剣を鞘に戻すとこちらを見た。どこか神秘的にも見える彼女に俺は見惚れていた。異世界召喚されてから初めて会う人間。いや、もしかしたら妖精なのかも知れない。それほど人間離れした美貌をしていた。俺はこの瞬間を生涯忘れないだろうと思った。それほど女性は美しかった。
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