ロマコメに全然ワクワクしない

@Ecko_Okino

第1話: 観察者の決意

重田ムダナ (しげた むだな) は、どこにでもいる普通の高校生だった。


彼の人生には、大きな事件もなければ、劇的な展開もない。ましてや、運命的な出会いなど一度も経験したことがなかった。


そんな彼がかつて心をときめかせていたのは、ロマンスの物語だった。

マンガ、アニメ、小説—— 彼はそれらに夢中になり、登場人物たちの恋の駆け引きに一喜一憂した。

甘酸っぱい告白、すれ違いの誤解、偶然の再会…… それら全てが彼の胸を熱くした。


しかし、二年前——


何も感じなくなった。


かつて心を震わせたロマンスが、今ではただの「ありふれた話」に見えてしまう。

どの物語も同じような展開ばかりで、ワクワクする気持ちがなくなった。

何度も繰り返されるパターンに飽きてしまったのだ。


—— しかし、彼は考えた。


「フィクションで楽しめないなら、リアルで楽しめばいいじゃないか。」


いや、恋人を作るという話ではない。

彼は物語の主人公ではないし、サブキャラですらない。


彼の計画は、もっと単純で、もっと奥深いものだった。


"モブキャラ" になること。


教室の片隅で、他人の恋愛を観察する。

まるで、リアルなラブストーリーを鑑賞するように——


照れくさい視線の交差、告白前の緊張、叶わぬ恋、そして意外な再会と和解。

フィクションではなく、現実に生まれる感情の機微を感じることができれば、

もしかしたら、自分の中で失われた「ときめき」を取り戻せるかもしれない。


こうして、彼の "観察者" としての新しい生活が始まった。





シンプルな恋の後押し


新学期の始まり。

新しい学校生活、そして何より、新たな舞台。


重田ムダナは席につき、片手で頬を支えながら静かに微笑んだ。

彼の目はすぐに教室内のターゲットを捉えた。


「…いたな」


ターゲットは二人。田中ハルト と 星野ミサキ。


ハルトはまさにラブコメの主人公そのもの。

明るくて、親しみやすく、ちょっとおバカだが心優しい男。

周囲から好かれる存在だが、恋愛感情に鈍感すぎるのが難点だった。


そして、幼なじみのミサキ。

彼女の視線はハルトに向けられ、奥底には長年秘めた想いが見え隠れしていた。


「幼なじみヒロインの定番ルートか…」


ムダナは心の中でメモを取るように呟く。


だが、ここにもう一人のヒロインがいた。


羽川リカ。


彼女は別のクラスの生徒だが、何かと理由をつけてハルトのクラスに現れる。

理由は明白。彼女もハルトが好きだった。


しかも、すでに告白済みである。


問題は、ハルトがまだ答えを出していないことだった。


「待たされる側のヒロインか…これはキツいな。」


経験上、このままいけばハルトはミサキを選ぶ。

だが――


「もし、このクライマックスを早めてしまったら?」


ムダナは悪戯な笑みを浮かべ、静かに立ち上がった。


トイレに行くふりをしながら、彼は二通の手紙を書き上げた。





> 「ミサキ、放課後体育館の裏で会いたい。―ハルト」

「ハルト、放課後体育館の裏で会いたい。―ミサキ」







完璧な筆跡。


ムダナはそれぞれの下駄箱に手紙を忍ばせた。


「さあ、どう転がるかな?」



放課後。


ムダナはモブキャラのように自然に紛れながら、二人の動きを観察した。


ハルトが手紙を読む。

瞬間、顔が真っ赤になる。


ミサキも手紙を読む。

両手で口を覆い、震えながら涙ぐむ。


計画通り。


二人はそれぞれ、体育館の裏へ向かった。


ムダナは近くの茂みに隠れ、完璧な観戦ポジションを確保。


先に着いたのはハルト。少し遅れてミサキもやって来た。


視線が交わる。


言葉はない。

だが、明らかに緊張と期待に満ちた空気が漂っていた。


ハルトはごくりと唾を飲み込む。


「ミサキ… 俺… その…」


だが、次の瞬間――


「ハルト!」


唐突にリカが現れた。


「えええええええええ!?」


ムダナは叫びそうになり、必死に息を飲む。


計画外の展開だ。



【作者のコメント】


「ここまで読んでくれてありがとう! この作品では、ラブコメの定番をちょっといじってみました。

主人公・ムダナは恋愛に興味がないくせに、他人のラブストーリーを加速させるのが大好き!?

普通なら何年もかかるような関係も、彼がちょっと手を加えれば、たった一日で進展するかも…?


次はどんな恋を後押しするのか…

ぜひ感想を聞かせてください!コメントも大歓迎です!」


ー 著者: エコ・オキノ

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