みにくい雪夜姫

子猫の小話【コバナティ】

みにくい雪夜姫

昔々ある所に、それはそれは日差しの強い国がありました。

その国は日差しはとても強いですが雨も多く、土地は肥えており、様々な作物が育つ恵まれた土地でした。

そして、人々は豊富な作物を輸出し豊かな暮らしをしていました。


その国の王様にある日、娘が生まれます。

お姫様として生まれたその娘の母親は王様の2番目の側室でしたが、出産後に体調をくずし、そのまま命を引き取ってしまいます。

物心つく前に母親を亡くした、そのお姫様は他の子とは違った特徴がありました。

その国の人々は強い日差しに耐えるため浅黒い肌をしており、髪と瞳も黒い色をしています。

しかし、そのお姫様だけは肌と髪が真っ白で瞳は薄い赤色をしていました。

そして、その白い肌は日に当たると赤く焼け、お姫様に痛みを与えます。

そのため、お姫様は火の出ている間は外に出ることが難しく、とても不自由な生活を送ります。

父親であるはずの王様も他の子と肌の色が違うお姫様を遠ざけました。

お姫様は王様の4番目の子で、上に腹違いの兄が2人、姉が1人いました。

姉や下の兄は、ことあるごとにお姫様にきつく当たりました。

姉や下の兄の母親は王様の1番目の側室で国内の有力な貴族の娘です。

そのためか、お城の使用人たちも、お姫様を粗略に扱うようになります。

国民も他の王族が揃う式典等でも姿を現さず、噂に聞く真っ白で日差しに弱いお姫様を呪われているようだと不気味に思うようになりました。


ただ一人、年の離れた上の兄だけはお姫様に優しく接してくれました。

上の兄の母親は隣国の姫で王様の正妃でした。

その正妃様は上の兄が幼いころに亡くなっています。

上の兄は頭が良く、勉強熱心で若くして王様の仕事を手伝っていましたが、体が弱く時々寝込んでしまうため不自由な生活をしていました。

上の兄はお姫様に自分の境遇を重ねたのかもしれません。

仕事の合間に、お姫様と遊んでくれたり、勉強を教えてくれたりしました。


そんな風にお姫様は、人と見た目が違って肌が弱いため外に出られず、友達も作れず、父親から無視され、上の兄以外の兄弟からいじめられ、使用人たちからも必要最低限のお世話しかされずに育ちます。


ある日、その国と新たに国交を結んだ遠くの国から使節団がやってきました。

使節団の人々は、お姫様と似たような白い肌をしていて、髪は薄い茶色で、瞳は青い色をしていました。


そんな使節団の歓迎式典とその後の夜会に、お姫様は出席することになりました。

お姫様はそれまで、海外からのお客様をもてなす場はおろか、国内の夜会にすら出たことがありません。

どうして今回は出席することになったのか、お姫様には伝えられませんでした。

お姫様は式典や夜会に参加するためのドレスを持っていませんでしたが、上の兄が準備してくれました。


式典当日、生まれて初めてドレスを着たお姫様を見て、上の兄は嬉しそうに褒めてくれました。

一方で姉と下の兄と彼らの母親は、いつものようにお姫様を馬鹿にしました。

どちらに対しても、お姫様は静かな笑顔で、その言葉を聞いていました。

王様はお姫様を見ても何も言いませんでした。

その王様に対しても、お姫様はいつも通り、静かな笑顔を向けました。


夜会ではお姫様の周りに使節団の参加者がかわるがわる訪れ、誰もがお姫様を美しいと褒めました。

その様子を上の兄は嬉しそうに、姉は悔しそうに見ていました。

その間もお姫様は静かな笑顔で使節団に対応していました。

使節団は夜会の翌日から数日の間、王様や大臣たちと外交に関する交渉を行いました。


使節団の帰る日が近づいたある日お姫様は突然、王様に呼び出され、使節団の国へ留学に出すと言い渡されました。

留学は公に発表されないまま、お姫様は使節団の帰還と共に留学に出発しました。

見送りに来たのは上の兄だけ、使用人は全て留学先で用意されることとなり、一人も着いては来ませんでした。

見送りの間もお姫様は心配する上の兄に向って静かな笑顔を向けていました。


留学先の国は、お姫様の故郷より日差しが弱く、昼間でも少しの時間であれば肌を焼かれずに外に出ることができました。

留学先の国の人々は皆、肌が白く髪が薄い茶色で瞳が青い色でしたが、お姫様のさらに白い肌と真っ白な髪、赤い瞳を美しいと褒めてくれました。

学校にも通うようになり、誰に対しても静かな美しい笑顔を見せるお姫様は、あっという間に人気者になります。


夜会にも呼ばれるようになり、プレゼントされたドレスで美しく着飾ったお姫様は、そこでも人気者になります。

常に周囲に人だかりができ、ひっきりなしに話しかけられながら、お姫様はいつも静かな美しい笑顔を見せていました。

日差しが苦手で昼間はあまり部屋の外に出ず、夜には誰よりも美しく白い姿を見せるお姫様は、朝には溶ける夜の雪のようだと賞され、雪夜姫と呼ばれるようになります。


そうして暫く過ごしていると、お姫様の元に故郷から上の兄が亡くなったという連絡が届きます。

それに対して使用人から帰郷の準備をするか尋ねられたお姫様は、良い思い出が無いから帰りたくないと答えました。

それからというもの、お姫様は学校や夜会で周囲の人に故郷の話をするようになります。

優しい上の兄がいたが、もう会えない。

父である王とは疎遠だった。

自分の母は早くに無くし、王の側室とは関係が良くなかった。

姉と下の兄には良い思い出が無い。

使用人は冷たかった。今、周りにいてくれる皆が優しくて感謝している。

強い日差しが苦手で外に出られず友人も作れなかった。

故郷に帰るのを楽しみには思えない。

いつも静かな笑顔を浮かべているお姫様が、故郷の話をするときだけは少し悲しそうな顔に見えました。


するといつの間にか、お姫様は祖国に復讐をしたいはずだ、その復讐をお姫様に代わって成し遂げた者はお姫様から恋人に選ばれるらしい、という噂が流れ始めます。

その噂が大きくなったころ、お姫様のいる留学先の国と、お姫様の生まれた国とが戦争することになります。

戦争が始まる直前、お姫様を故郷に返すべきだという議論もありましたが、お姫様は結局、留学先の国に残ることになりました。


そうして戦争が始まりましたが、お姫様の生まれた国は瞬く間に首都に奇襲を受け、王族を討たれて支配されてしまいました。

故郷の国が戦争に敗れ、その王族が討たれたと聞いたお姫様は、いつものような静かな笑顔を浮かべていたそうです。

戦争が終わってすぐの頃、お姫様は体調を崩して寝込んでしまいます。

食事も喉を通らず、徐々に弱っていく様は痛々しく、しかし、その儚い様子はお姫様をますます美しく見せました。

ある日の明け方、お姫様はそのまま回復することなく、最後に一言「夜が明ける」と小さくつぶやき、溶けるように息を引き取ったそうです。


おしまい

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