【20 再】

・【20 再】


 目が覚めると、僕はベッドの上にいた……いや! 目が覚めるって何っ?

 僕は砂になって死んだはず……とりあえずこの、普通のホテルみたいな部屋から出ないとっ!

 と、腕を動かした時、何かに当たった。

「イタイ……」

 眠そうな目をこする陽菜が、僕の寝ていたベッドの上で一緒にいた。

 僕はつい驚いてしまい、声を上げた。

「陽菜!」

「わっ! 何っ! 信太! おっきな声出して! ……って! えぇぇぇええええええっ?」

 陽菜も驚いている。

 ということは、この陽菜はやっぱり、僕と一緒に自殺室にいた陽菜だ。

 とりあえず僕は陽菜と状況の確認をした。

 まず一緒に自殺室にいた陽菜と信太ということ。

 自殺室ではこんなことがあったという話の擦り合わせ。

 さらに死ぬ間際、それぞれが砂になる姿を見たという話。

 完璧だ。

 この目の前にいる陽菜は、陽菜だ。

 一体どういうことだ、僕たちは確かに死んだはず。

 でも。

 と、僕は何か言おうとしたタイミングで陽菜が、

「そもそもあの自殺室が異質なモノだったから、死ななくても何か不思議じゃないという感覚もある」

「確かにそうかもしれないね」

 そう言いながら僕たちは二人で部屋のドアを開けて、外に出ると、そこには一人の少女がいて、ニッコリ微笑みながらこう言った。

「目覚めましたね、先生」

 いや、

「先生って、どういうこと、ですか?」

 僕がそう聞くと、それに同調しながら陽菜が、

「アタシたちが先生って何? 何か実験をしている教授とかだったのっ?」

 と言うと、その少女は少し慌てながら、

「あっ、そうそうっ、先生はこれからですねっ、先生。じゃあこっちへ来て下さい」

 そう言って僕たちを手招きし、長い廊下をずっとついていくと、その奥に、一つの部屋があった。

 その部屋に入ると、そこにはこの少女と同じくらいの年齢の子供たちがいっぱいいた。

 そして少女は淡々と述べた。

「今日からここで先生をしてもらいます。一度死んだ身として、きっと大切な授業ができると思います」

 その言葉に僕も陽菜も驚いた。

 すぐさま僕と陽菜がそれぞれ、

「僕たちが死んだことを知っているんですか!」

「ちょっと、一体どういうことよぉっ! ちゃんと説明してぇっ!」

 それに対して少女は一回溜息をつき、こう言った。

「いずれは一人一人先生をしてもらいますが、今日は初めてだし、まあ一週間くらいは二人で先生をしてもらいましょうかっ」

 全くこっちの話を聞いていない。通じていないというか。

 一体何なんだと思っていると、部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声の正体は溝渕さんだった。

 教科書を持った溝渕さんがこちらを見ながら、

「今は俺が授業しているから大丈夫だ。終わったら俺が説明しておくから。その二人にはまた部屋で休んでてもらうといい」

 少女は手を合わせて嬉しそうに、

「やっぱり大人は話が早くていいわぁ」

 そう言って少女は溝渕さんのいる部屋の中へ走っていった。

 溝渕さんはこっちに軽く手を振ると、すぐに少年少女のほうを向いて、多分授業を再開した。

 僕と陽菜はどうしたらいいか分からず、出入り口から授業の様子をじっと見ていると、後ろから誰かの声がした。

「君たちが新しく入った先生だね、よろしく」

 その人は女性で、少し年上な感じだった。

 僕も陽菜もまたそれぞれ、

「あの! 先生ってどういうことですかっ!」

「アタシ! 全然飲みこめないんですけども!」

 それに対してその女性は少し頭を抱えるような仕草をしながら、

「あーぁ、あの子は本当に説明足らずで……弥勒が授業しているから、今はもういいのに。あっ、一応私は直子、岩田直子ね。よろしく」

 直子……あっ、溝渕さんの話に出てきた直子さんだ。

「もしかすると、溝渕さんと同じ自殺室にいた直子さんですか?」

「あら彼ったら、私の話をしていたのね、そう、その通りよ。彼は私の好きだった人……まあ今も好きですけどね、あっ、これは秘密ねっ!」

 そう笑った女性。

 僕は驚愕しながら、

「えっ? 貴方もっ? じゃあ自殺室で死んでも死なないんですかっ?」

 それに対しては、あっけらかんと女性が、

「うん、死なないわよ」

「「えぇぇぇえええええ!」」

 僕と陽菜の声はシンクロした。

 そう大きな声を出すと、授業をしていた少年少女たちが皆、バッとこっちを見た。

 溝渕さんは「こっち」「こっち」と少年少女たちを授業に向けさせようとしている。

「ここで立ち話もあれなので、まず私の部屋に来て下さい」

 そう直子さんに言われ、僕と陽菜はついていった。

 そこで僕たちは理解した。

 自殺室で死んでも死なないこと。

 死んだ人は、一度地獄を経験した人として、新たな人材になり、ここで先生をしたり、また一般企業に就職したりするらしい。

 でも自殺室ですぐに死ねなかった人は、大体ここで先生をすることを、勧められるそうだ。

 一度地獄を経験した人は強くなれる。

 しかし地獄を経験させることはなかなかできない。

 そこで自殺室という仮想空間を作り、そのシステムを導入した学校を作り出した、らしい。

 それを聞いて僕はすぐ思ったことがあって

「光莉は! 光莉はいるんですかっ!」

 直子さんは申し訳無さそうに俯いて、

「……木島光莉さんのことね……自殺室で死ななきゃダメなの……だから、いないわ……」

「そ、そうです、か……」

 つい肩を落としてしまった僕に、陽菜が、

「落ち込むなよ! 信太! 大丈夫! アタシがいるから! 信太! ねっ!」

「……やっぱり、陽菜は、僕にとっての、光だ」

「光と言うと分かりづらいから日光と言え! 東照宮!」

「いやいや別の日光が入ってきてるからっ……」

 ――僕と陽菜は一旦、自分たちがいた部屋に戻った。

 あとで詳しい説明を受けるらしい。

 ……あれ? 僕、ずっと陽菜と同じ部屋っ?

「何だ信太? アタシのことをいやらしい目で見てぇっ」

「いや見てないから! そういうのやめてって!」

 これから僕は新たな日常を重ねていくだろう。

 願わくば、快活に笑える未来であれ。

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