最強からその先へ
くらげ
はじまり
「約束だよ?私たちは絶対に再会して、強くなった2人で冒険者になるの!そして....」
そんな約束を交わした、ある男の....ルーナの小さい頃の記憶。
お互いに冒険者を夢見て、本に出てくる勇者のようにみんなを守れる人になりたい。
そんなことを毎日のように語り合った。
そんな2人も強者と弱者で別れた。
魔力が全てだと言われるこの世界。
強者は称えられ、弱者はこれでもかと罵られる。
成人の儀の結果は、残酷なまでの差を記憶にも記録にも残した。
15歳の時に行われた成人の儀の後、彼女は勇者パーティに加わり魔王討伐の旅に出るように国王から命令が下った。
そんな時に交わした約束だ。
それでも男は諦めかけていた。
「俺には冒険者なんて無理だ....あいつと違って、俺には力が無い」
そんな時だ。
あの人が現れたのは....
「力が欲しいか?....わしには分かる。お前さんには大きな力を得る才能がある」
「....誰?」
「これからお前さんの師匠になるじいさんじゃ」
まだなるって決めていないのに、随分と勝手に話が進んでいくんだなと戸惑いながらも、彼女との約束を果たすための力が欲しかったのも事実。
ルーナには断る理由がなかった。
「良い目だ....わしがお前さんを世界最強の男にしてやろう。わしが行く着くことの出来なかった力の果てへお前さんなら辿り着けるかもしれない」
2人は固く握手をした。
激しい修行に耐え続けて、3年の月日が経った。
「厳しい修行によく耐えたな....正直ワシは途中で逃げるものだと思っていた」
「よく言うぜ、逃がす気もなかったくせに」
この3年で師匠から全てを叩き込まれ、この瞬間をもって修行は終わりを迎える。
「今まで褒めることは控えていたが、この際はっきり言っておこう。今のルーナはわしを越えておる」
今まで褒められたことなんて片手で数えられるくらいだから、その言葉を聞いたルーナは目を丸くする。
師匠を越えたとはとても思えない。
「なんか変なものでも食った?」
ルーナは流石に過大評価だろうと心を落ち着かせた。
だが、この3年間で力をつけた自信は確かにある。
「ユリス....」
ユリス・ティーナ。
成人の儀で馬鹿げた魔力数値を叩き出し、王の命令によって勇者パーティと共に旅に出た。
ルーナと同じ村出身の天才魔法師。
幼馴染というやつだ。
勇者たちの活躍はルーナの耳にも届いている。
今では大聖女ユリス。
そう呼ばれるようになった。
旅に出る直前、2人が交わした約束。
必ずもう一度会って一緒に冒険者になるんだと。
「大聖女ユリスか、会えるといいな。約束しておるのだろ?」
「もう3年前の話だ....あいつも旅の中で色々あっただろうし、もう約束のことなんて忘れてるかもな」
もしそうでも、冒険者はルーナの夢でもあったから、1人で活動するまで。
力をつけたのは無駄にはならない。
「ルーナに教えた力は強力だが異質じゃ。魔力の総量は多少は増えたが、劇的に増えたわけでもない。こんな世の中だ、そのおかげで色々大変な目にあうだろう....でも、ルーナならきっと乗り越えられる」
「ありがとう。元気でな....師匠」
「うむ....ルーナも体を大事にせいよ。ほれ、入門料じゃ」
師匠から手渡された入門料3000
その後ろ姿を見送る、ルーナの師匠は心の底から思っていた。
(ルーナは、とんでもない英雄になる!)
これからルーナ・フォルシウスの英雄譚が始まる。
師匠の家から街に向けて歩き出したルーナ。
今の所モンスターとは出くわしていない、穏やかな旅路を1人で過ごしていた。
「モンスターの気配も特に感じない....」
できればモンスターを狩って、冒険者登録をするついでに素材を売りたいと考えていたルーナは少々複雑な気持ちになっていた。
快適な旅路を歩いていると、ルーナの故郷が見えてくる。
「3年ぶりか....」
ルーナが生まれ育ち、ユリスと出会った場所。
それ以外に思い出は特にない。
小さい頃から才能の片鱗を見せていたユリスと、徐々に魔法が使えるようになってきた他の子供達と違い、ルーナはまともに魔法が使えずにいた。
そして迎えた成人の儀。
ルーナはこれでもかと罵倒された。
村の歴史上最大の汚点だとかなんだとか。
それでも優しく接してくれる人がユリス以外に2人居た。
ルーナの両親だ。
「強い子に産んであげられなくてごめんね」
「村の人達が何を言ってきても、俺と母さんはルーナの味方だから」
そんなことを言いながら、ルーナの目の前で泣いていた。
決して裕福な暮らしじゃなかったかもしれない、それでもルーナにとって両親の暖かさには支えられている。
ユリスとの約束という大きな理由もあるが、両親に恩返しするためにも冒険者になりたいと強く思った。
強くなるために師匠と修行すると言った時は心配されて反対の言葉も出てきた。
他の村人が村の汚点は早く出て行けと罵倒する中、両親はルーナの夢ならばと泣きながら背中を押してくれた。
ユリスは祝福され導かれるように村を出て、ルーナは軽蔑され追い出されるように村を出た。
(あと少しだけ待っててくれ。母さん、父さん)
誰に聞こえるわけもない声で呟き、そのまま村を通り過ぎた。
森を抜けると、いよいよ街が見えてくる。
結局1度もモンスターと出くわさない、平和な旅路だった。
「身分を証明するものを提示してくれ、それが無ければ3000Rだ」
ここは王国で1番栄えている街、王都リオネル。
街の中心には国王とその家族が住む城がそびえ立つ。
大きな冒険者ギルドもあり、登録されている冒険者も多い。
それもあってか、舞い込んでくる依頼は星の数だとか。
魔王討伐の旅に出ている勇者パーティもこの街で結成された。
門をくぐれば、頭が痛くなるほどに人が多く、賑わっている。
ギルドまでの道中、観光がてら店を見ながら歩いていくが....どこもかしこも本当に賑わっている。
「....ここまで来るとうるさいな」
何か祭りでも開催されるんだろうかっていうくらいに賑わっている。
田舎者のルーナには少し厳しいみたいだ。
やっとの思いで冒険者ギルドに到着した。
ギルドの中は外よりもうるさい。
冒険者達が酒を飲みながらガハガハと笑っている。
またまたやっとの思いで、ルーナは受付嬢のところまでたどり着いた。
「冒険者ギルドへようこそ、ご要件は何でしょうか?」
「冒険者登録をしたいんですけど」
「分かりました、必要書類を持ってくるので少々お待ちください」
そう言って女性は事務所らしき部屋に行き必要書類を持って戻ってきた。
(仕事が早くて助かる。早いとこ登録を終わらせて依頼を受けよう)
「すみませんね、今日はどこも騒がしいですよね」
(やべ、顔に出てたか)
隠し通すというのも無理な話、気を使わせたのは悪いと思いながらも、ルーナは静かに首を縦に振った。
「実は....」
受付嬢が事情を話そうとした瞬間、ギルドの入口が大きな音を立てて勢いよく開いた。
「勇者パーティが帰ってきたぞ!!」
(は?帰ってきた??)
ルーナは混乱する頭を必死に整理した。
魔王討伐の旅に出て3年。
あまりにも早い。
「....お祭り騒ぎの原因は、これか....」
「そうなんです」
ルーナは書類を書きながら、さっきより酷くなったお祭り騒ぎに耳を傾ける。
勇者の凱旋だ、みんな一目見ようと酒を飲んでいた冒険者達も外に出ていく。
「書き終わりました」
「ありがとうございます....でしたら、次はこの水晶に手をかざしてください」
綺麗な球体を描く、無色透明の水晶。
これは魔導水晶と言われるもの。
これを使うことによって、自分の魔力量を把握することが出来る。
成人の儀で使われるものと似たようなものだが、大きく違っているのは魔力量だけでなく、魔力属性も知ることが出来るということ。
ちなみに15歳の魔力量平均値は350。
20歳~30歳で850。
ルーナが15歳の時に出した数値は103。
平均の半分以下、落ちこぼれと言われるのも無理も無い。
「魔力量....120....」
(あれから少しは増えてるみたいだな、修行を積んでいて良かった)
「すみません、ルーナ様....この数値だと冒険者ギルドに登録できません」
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