残骸|終わり音は響いてく

110 <イト>

 夕暮れ時が嫌いだった。

 安住の場所がなかった。

 太陽の光が、不意に乱反射する。

 私は立つ瀬がないまま堕ちていくしかなかった。


——君もきっとそうだった。


 心安らぐ場所を君と一緒にいけたなら、なんて素晴らしいだろうね。

 同じカッコして、卒業してどこか別の世界で結局また同じカッコのまま生きていくんだと思う。

 さみしい、なんて言ってしまえば——温もりを知ってるから寂しいんだ。最初から知らなきゃ良かったんだ。『その感情の入口』に立たなきゃよかった。知ってしまった手の温度、抱きしめられたときの鼓動のリズム、それが頭の中で何度も反響してしまう。

 心に貼り付いた痕跡は、どれだけ冷たい水で洗い流しても剥がれない。


——1年の秋、放課後の校庭で。君と子猫を見つけたときに交わした会話が懐かしい。


「猫は死に顔見せないんだよ」

「猫はいいよね」

「うん」

「でも猫も最近不憫だよ」

「みんな保護されてとか言ってさらわれて」

「いつの間にか消されてく」

「かわいそう」

「幸せかもね」

「そう?」

「無責任に飼われるよりは?」

「ああ」


 私たちは言葉の隙間に何かを埋めようとするけれど、埋まる気配なんて一向になくて。ただその、無闇矢鱈に繰り返した脈絡のない会話の中で、私は自分の顔を少しづつ愛着を持つように撫でていた。別にこの身体だとかに愛着を持つわけではなかった。ふとふと彼女と過ごす時間に安穏としたやすらぎを覚えていたのだ。そしていつか自分が猫みたいに静かに消える日を夢見るように。思い返しながら、君を考えながら。この世界を出ていくことを考える。


——そう。きっと、素敵なこと。


 私がここに生まれた時から必ずそれは決められていて、そして知らず知らずのうちに歩き出しているもの。

(でも望んでもないのにこんな時代に産み落とされて…と思うのは勝手)

 誰もが目指していたゴールがあって、それは最適な結末であることを、事切れるまでに結局のところ神や運に託す。祈りの手を離しはしない。死んでなおどうしてだろう。孤独になってなお。

(孤独背負い込んで生きている——なんていうのはやっぱり身勝手な価値観かしら)

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