第24話 ラブホテルに水着は不要らしい
土曜日当日。
天宮駅に集まった華々しい女性陣は、集合直後から火花を散らし始めた。
「おい有馬、こりゃ一体どういう了見だ? それに浴内、お前はどちらかと言えばこっち陣営なんじゃなかったのか? なんで猫屋敷の方に立ってるんだ? 事と次第によっては、今後アンタとの付き合い方も考えなきゃならなくなるんだが?」
口火を切ったのは、タイトなスカートにハーフジャケット姿がお似合いの鮫田さん。
受けに回ったのは、オーバーサイズのタートルニット、チェック柄ショートパンツ姿の猫屋敷さんだ。
「出たよ、仲良しこよしのグループ意識」
「猫屋敷、お前には聞いてないんだけど?」
「私の親友が脅されてんだ、盾になるのは当然じゃなくて?」
「猫屋敷が親友って……浴内、アンタ、コイツと名月がどういう関係か知ってるよな? 知ってる上で付き合いを始めたっていうのなら――」
このままじゃ話し合いの前に、全部がご破算で終わりそうだ。
両手を上げ、両陣営に割って入ることに。
「はいはいストップストップ、こういう拗れてる関係を修復したくて、今日の席を設けたんだよ」
「関係を修復? 出来る訳ねぇだろ、だって猫屋敷は」
「その辺から、全部が誤解だって言ってるの」
「誤解? じゃあ、五月の時は……」
さすがは鮫田さん、理解が早そう。
くいっと袖を引っ張られると、そこには
「有馬君、今日は絶対に必要な日、ってことで良いんだよね?」
厚手の柄物のパーカーにフレアスカート姿の
「はい、その通りです。絶対に必要な日です」
「そっか。なら、私は一緒に行く。ヒラリちゃんも、有馬君を信じて一緒に行こっか」
「名月がそう言うなら……おい有馬、下らねぇ内容だったら、例えお前でも容赦しねぇからな」
またそういう怖いことを言う。
「じゃあ、場所もセッティングしてあるので、とりあえず動きましょうか」
今日の目的は、猫屋敷さんの誤解を解くこと。
それには話し合いが必要だし、解かないといけない理由もある。
猫屋敷さんが五月になぜ、先生へと報告を行えたのか。
その辺りも全部、話し合いが出来ればと思うのだけれども。
(それにしても、今日は必要以上に視線が集まるね)
理由は無論、僕ではない。
天宮の街は、若者の街だ。
平日はスーツ姿の人たちが行きかうこの街も、土曜日となれば雰囲気から変わる。
街に流れる軽快な音楽は気分を向上させ、ふとした瞬間に足を止めるお店が多数存在する。
そんな街を五人、しかも男1、女4で歩くのだから、必要以上に視線は集まる。
ちょっとした優越感にも浸れちゃいそうだけど、別にデートではないし。
でも、それでも、僕としては嬉しい限りだ。
この状況、女子と一言も会話出来なかった中学時代の僕に見せてあげたいよ。
「よし、着いた。ここなんだけど」
「有馬、とりあえず一回殴ってもいい?」
猫屋敷さんの言葉が終わる前には、僕の右頬には拳が叩き込まれていた。
覚悟はしていたさ、敢えて事前告知無しで案内したからね。
ラブホテル、ソリスティアに。
「有馬、お前」
「有馬君、ここがどういう場所か、わかって言っているの?」
「さすがに無いわ! ラブホとか、アンタ土曜日の午前中から何しようとしているの!?」
「待って、ここは私に説明させて欲しい」
拳を喰らい地面に這いつくばる僕を庇うように、浴内さんが立ちふさがってくれた。
提案者だものね、後は宜しく頼みます。
「この場所なら、有馬君はしたいことを全部出来ると思っているの」
「ちょっと待って、浴内さん、何を語ろうとしているのかな?」
「それはもちろん、以前伝えた通り、万が一に備えての話を」
「万が一にも億が一にも無いから! そういう目的で来たんじゃないの!」
可愛い顔してなんてこと言おうとしてるんだこの人は!
この集団で一番背が低い可愛いキャラのはずなのに、ネジ外れ過ぎだよ!
「……それで? 今日の目的は?」
あ、鮫田さんが冷めた顔をしている。
ここは、ちゃんと説明しないとだ。
「えっと、ラブホにも二種類あって、風俗営業と旅館営業しているのがあるんだって。で、ここのホテルは旅館営業している店だから、原則18歳未満でもご利用が可能なの。それに今日使うのは宿泊じゃなくて御休憩だから、別に親の許可もいらないし、ここでなら絶対に誰にも話を聞かれることはないってことであって、別に他の目的は一切ないし、内装綺麗だしいろいろと楽しめるみたいだから、いいかなって……あ、ほら、ラブホ女子会って言葉もあるみたいだし? ほら、これ」
スマホの画面を見たあと、僕を見て。
三人はため息を吐くも、とりあえずは怒りの矛先を下ろしてくれた。
「まぁ、なんだか楽しそうだし。私は別に入っても大丈夫かな」
「名月が言うならアタシはいいけど……有馬、絶対に変なことするなよ?」
「しないから、安心して下さい」
する訳ないだろ、何かしたら明日から僕は生きていけないよ。
「有馬君」
「なにかな浴内さん」
「今日は、いつでも襲っていいからね」
「襲いません」
「有馬君のご要望に応えられるか分からないけど、一番危ない下着を穿いてきたから。あのね、もう、何も穿いてないみたいな感じがするのだけれど、これでもしっかりと穿いてはいるの。むしろ穿かなくても良かったかもって思うのだけれど、それはやっぱりご主人様の命令ありきの行動だと思うの」
「そうですか」
「だから、お望みなら、下着を穿いてくるなって命令を出して下さい」
「永遠に出さないので、どうぞご安心下さい」
アウターは可愛らしい厚手のトレンチコートだけど、下はミニスカート姿のくせに。
そんな服装で下着無しとか、階段すら歩けないよ。
……ん? でも今も危ない下着なのか? 浴内さん、どうやってここまで来たんだ?
「ほらほら、アホなやり取りしてないで、かがみんも行くよ」
「あ、待って、メイちゃん、私まだ、有馬君に大事なことを伝えないと、有馬君! 有馬君!」
悲劇のヒロインみたいに連れ去られていったけども。
まぁ結局、僕もラブホテルに入るので、すぐに再会できるんだけどね。
さてはてやってきましたラブホテル。
事前に調べておいたけど、確かに店員さんという存在はいないらしい。
入ってすぐの大画面に部屋の様子と値段が書かれてあって、そこをタッチすればそれでOK。
鍵もなく、誰とも出会うことなく部屋まで一直線なのだから、便利なものだ。
目的の部屋は三階だったはず。
一番お安いけれど、最低限の設備は整っている部屋。
「有馬」
「ん?」
「一番上、プールがある」
☆
「きゃー! 私室内のプールとか初めて! 水も綺麗―!」
「思っていた以上に広いな! それに水着もレンタルOKとか、凄いなラブホテル!」
「おお! かがみ、ほれほれ、滝のボタンがあるぞ!」
「うきゃああああ! 水圧が凄くて、水着が取れた! 有馬君に見られちゃうー!」
見てませんよ。
僕は室内にいますからね。
「ヒラリちゃん! ここ貸切なんだから、水着なんていらないって!」
「ちょ、名月お前、有馬いるんだぞ!? ああ、全部脱ぎやがった! じゃあアタシも脱ぐか!」
「はっ!? 何考えてんの!? ガラス壁一枚挟んで有馬いるんだけど!?」
「メイちゃん、私達も脱ごう。ほら、諦めて、私もう脱いだよ」
「かがみ、アンタ……! わかったわよ! 有馬! こっち見たら全殺しだからね!」
半殺しならぬ全殺し、殺意がみなぎってますね。
「裸でプールとか、ヤバ! 背徳感が凄い! うひゃひゃひゃ!」
「名月、アンタテンションハイになり過ぎて、変な笑い出てるぞ」
「ヒラリちゃん! スライダーがある! やろ! 裸で!」
「あ、ちょ……しょうがねぇなぁ」
「あははは! 裸でスライダーとか! なんか股間やばい!」
「ちょ、名月お前、はしゃぎすぎだって!」
スライダーがあるのですか。
それはちょっと楽しそうかも。
「メイちゃん! 私いつまで滝に打たれていればいいの! 水圧でおっぱいが痛い!」
「あははははは! すごっ! かがみのおっぱいが水圧で揺れて、あはははっ! 白玉!」
「うぅぅ! メイちゃんなんて、こうしてやるんだからー!」
「あ、ちょ! バカ! ジャーマンスープレックスは無しだろぉぉぉ!」
水しぶきの音が凄まじいですね。
「全裸でプールジャーマンとか、あはははは! 絶対普通じゃできないよ!」
「メイちゃん、見て、私のおっぱいが浮かぶ」
「おお! なにこれ! 凄いな、水着から解放された巨乳はこんな風になるのか」
「裸でプール、いいかも。有馬君、有馬君も後で入りなね」
絶対に入りません。
何が悲しくて一人で入らないといけないのか。
小一時間ほど経過して、タオル姿の女性陣がとたとたと室内に戻ってきた。
「ごめんね、私達だけで楽しんじゃって」
「大丈夫です。あの、身体冷やすとアレなので、お風呂沸かしておきました」
「ホント? ありがと、じゃあ四人で入っちゃおうか」
さっき見た感じだと、四人も入れないと思うけど。
あ、それでも四人で入るのですね。もうすっかり仲良しじゃないですか。
「凄い! ジャグジー! 泡出るよ!」
「お風呂の照明がカラフル、なんでこんなに照明あるの」
「はい。全身にソープ塗ったから、メイちゃん、マットあるから、横になって」
「なんでよ。あ、やめなさい! かがみ! なんで身体こすりつけてくるの!」
あ、これ失敗したかも。
多分この四人、しばらく出てこないぞ。
「うきゃー! 泡風呂! すっごい泡風呂! あはははは!」
「なんだこれ、こんなになるのか! 泡で名月もメイも鏡も、誰も見えないぞ!」
「すっご、泡立てすぎ! 泡の壁があるよ! 名月、アンタこれ泡風呂の液剤、全部入れたでしょ!?」
「うん! 全部入れたー! もうスッゴイの、ヤバすぎて面白いー!」
なんかもう既に誤解うんぬんが全て解けているような気がするんだけど。
っと? 浴室のガラス扉が開いた?
「有馬君、有馬君もおいで」
「浴内さん……貴女の誘いに乗ると、後が大変そうなのですが」
「じゃあ私からも、ちょっとこっち見においでよ」
「――――!」
泡が、全身を泡だけで隠した状態だけの女性陣が!
「にへへ、これなら見えないし、安全じゃない? 有馬君もちょっとは楽しも」
「さっきからずっと部屋で座ってるだけだしな、少しくらいはいいんじゃないか?」
こっちは背の高い鮫田さんが浴槽から僕を誘ってますが、アンタ多分その下には何も無いだろ!? 泡があるようには見えないんだが!? 鎖骨から首筋、胸のふくらみまで全部見えるし、なんでそんな状態で笑顔が作れるんだよ!
「そう。有馬君はもっと楽しむべき、せっかくこの場所をテイスティングしたのだから、もっと全力で私達と楽しむべき。泡の壁が破られても私は全然構わないし、むしろ有馬君なら破って欲しい。泡だけじゃない、膜も突き破って欲しい。私はもう全裸、貴方も脱いで、酒池肉林を楽しみましょう?」
楽しまないよ! そもそも浴内さん、アンタ泡の壁ないじゃないか! ほぼほぼ全裸だよ! 確かに以前見たとはいえ、それだってもうちょっと隠して欲しいとかはあるよ!? 全身丸みのある肩とかさ、凹んだ可愛らしいおへそとかさ、小ぶりだけど可愛らしいお尻とかさ、もう全身凶器なんだよアンタは!
「何よ有馬、アンタまさか欲情してるの? ここ入る時に絶対にしないって言ってなかったっけ? ホント、だらしない男ね。まぁ、どうにもならない時は、私にこっそり相談してくれたら、相手してあげなくもないけどね」
相談しないよ! この場で発言してる段階で全部筒抜けだよ! っていうか猫屋敷さん、なんでアンタはマットの上で寝そべっているのさ! うつ伏せだけど、シャワーが当たってるせいでアンタだけ背面全裸だよ! お尻から見えちゃいけない部分まで全部見えてるよ! いいのそれ!? 大丈夫!?
と、考えた辺りで。
「え、有馬君!?」
熱暴走をした僕の頭は、考えることを止めてしまいましたとさ。
まだ話し合いを一秒もしていない。
今日一体、何しに来たんだろうね。
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