ダンジョンメーカー
三池猫
第1話
1. 冒頭──アヴァロン村の陰鬱な日常
◇礼拝堂の鐘楼と、黒い噂
「……次の生贄は誰になるんだ……」
誰かの低い声が、崩れかけた礼拝堂の石壁に反響する。
礼拝堂の正面には、鐘楼(しょうろう)があるが、とっくに鐘は壊れ、今やただの装飾物のようにぶら下がっているだけだった。
アヴァロン村にとって、この礼拝堂はもはや“祈り”の象徴ではない。夜族に生贄を捧げるとき、彼ら(眷属)がやって来る“門”のような場所でもある。
「うちの亭主(ていしゅ)が狙われるんじゃないかって……昨日、あいつが獣を罠にかけたの見られたらしい。眷属様に献上できる素材が不足してるって村長がぼやいてたから……」
中年の女がおろおろしながら、友人に話しかける。
「そんな……旦那さん、まだ足の怪我も治ってないのに。夜族の眷属が連れ去っていったら……」
友人も顔面を青ざめさせる。彼女もまた、いつ自分の家族が生贄に選ばれるか戦々恐々なのだ。
アヴァロン村は、荒野の辺境に佇(たたず)む小さな集落。
村人たちは誰もが夜族への恐怖に支配され、それが“当たり前”になりつつある。
夜族は絶対的な存在であり、その眷属(けんぞく)たちは定期的に村へやって来ては、「生贄」や「貢物(みつぎもの)」を徴収していく。
それが嫌なら、村を出ればいい——しかし外の荒野では、魔物や盗賊に襲われて命を落とすのが関の山。
結局、人々は歪(ゆが)んだ現実を受け入れ、今日もお互いを警戒し合い、誰かが犠牲になるのを待つ“陰鬱な日常”を維持していた。
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