第11話 迷子
「ソマリア。はぐれたときに決めていた集合場所に向かう。キミはどうする?」
「あ。そうなんだ。あたしはどうしようかな。ライズ、あなたについていくのさ」
スカジャンにデニムのショートパンツを履いたリタは前髪をくしくしとさわりながら答える。
「ま、いくあてもないし」
ソマリアはほんのり赤い顔をしている。
どいうつもりかは分からないけど、ソマリアが悪い人でないのはプラモデルからよく伝わってくる。
このままの流れでいいのか、という疑問はあるけど。
ソマリアにだって仲間がいたはず。そこはどうするつもりなのか。
「そうだ。お腹空かない?」
ソマリアがひらめいたように、そう提案してくる。
「まあ、昼過ぎだし……」
もともとはプラモデルバトル会場で食べる予定だったんだよね。
それがジンによって壊滅的なダメージを負ったわけだ。
なんだよ。あのジンって奴は。
あいつさえいなければこんなことにはならずにすんだのに。
まるで僕の位置を知っていたかのような……。
まさかつけられていた? まさかね。
「それで、どこで食べるつもり?」
僕はソマリアの腹づもりを知ろうと尋ねてみる。
「カツ丼!!」
屈託のない笑みを浮かべているソマリアがそこはいた。
純粋無垢な顔でカツ丼をイメージしている。
おい、よだれが垂れてきているぞ♪
近くにあるカツ丼屋にいくと、ソマリアは大盛り、僕は並を頼む。
「あんた、あの軍人に目をつけられているのかい?」
ソマリアが確信をついた質問をしてくる。
「たぶん、ね……」
悔しいけど、隠す意味もない。
むしろ隠すことで不信感をもたれるよりはいいだろう。
ただ確証もないので、曖昧な答えになってしまった。
「そっか。……ひどかった。まさかあんな」
ソマリアは言葉を選びつつ険しい顔をしている。
「プラモデルを人殺しの道具につかうなんて……」
「やっぱり、ソマリアもプラモデルが好きなんだね」
「そりゃそうよ」
ソマリアのプラモデルの作り込みを見ていればそれくらい分かる。
「だって、無限の可能性があるじゃない」
「可能性かー。それもあるね」
「他に何かある?」
ソマリアは何も思いつかないようで、こちらの意図を探っている。
「好き、かな」
「え?」
「プラモデルが好きっていう意味でそれがあれば、モデラーは生きていける」
「それもそうだね。分かるのさ」
ソマリアは苦笑を浮かべつつ顔色を明るくする。
「まあ、プラモデルは時間をかけた分だけ、好きになれるのだけど」
注文していたカツ丼が届くと、食べ始める僕たち。
「うん。うまい」
「ソマリアって意外にボーイッシュだね」
「そう。あたしは少年のような心を持っているのさ」
ビシッと指を立てるソマリア。
「格好いいよ」
「でしょう?」
クスクスと笑い合う僕たち。
とっつきにくいイメージがあったけど、けっこうノリノリで言うじゃない。
ソマリアのことをなんにも分かっていなかったんだな。
僕は小さくため息をもらす。
「ソマリアはなんで賞金を稼いでいるんだ?」
「……家族のためだ」
家族。
恐らくそんな人は何人もいるだろう。
「普通に働くよりも稼げるじゃない?」
「そうだね。一回優勝するだけで軍の年収と同等だものね」
軍の年収が低い訳じゃない。単純に賞金の価格が可笑しいくらいに高いだけだ。
「そういうあんたは?」
「僕はそう生きるしかなかったんだ」
僕には記憶がない。加えてICチップがない。
きっと世界から見放されたのだろう。
だけど僕にはプラモデルの技術があった。
となればこの道しかない。
警察軍などであればICチップが必要になる。
僕にはそれがない。
プラモデルバトルをするしかなかった。
技術は一流だったし。
この道以外、考えられなかった。
軍なんて僕にはできないし。
プラモデルは人殺しの道具ではない。
そうとも。プラモデルは好きを詰め込んだ可能性のオモチャ。
ただのオモチャなんだ。
だから本気になれるのだ。
遊びだから好きだし、素敵なんだと思う。
「ソマリア。キミはプラモデルをどう思う?」
「唐突だね。まあ、その答えには『熱くなれる』かな」
熱くなれる、か……。
なるほど。面白い答えだ。
「うん。それもあるだろうね」
「そうでしょう?」
ソマリアはない胸を張って誇らしげにしている。
「ははは。違いない」
僕はそんな彼女を見ていて、嬉しくなる。
分かってくれているのだ。
彼女もまたプラモデルが好きなんだろう。
それは僕の気持ちと近しい。
「プラモデルは大好きを詰め込んだオモチャだよ」
僕は遠い目をして呟く。
「それもあるね。分かるよ。その気持ち」
ソマリアもコクコクと頷き、こちらを見つめてくる。
「あたしも好きだもの」
「だよねー」
でもあのジンって男はプラモデルが好きじゃなかったように見えた。
ジンのプラモデルがそう言っていたのだ。
だからジンは信用できない。
好きでもないプラモデルを使い、プラモデルを道具にしていた。
そんなの許される訳がない。
人を殺す道具として操っている。それは全モデラーへの背信行為だ。
だから僕はあいつを倒す。
とはいえ、ガンフェニックスはもうない。
となれば作り途中のミーティアストライカーの完成を急ぐしかないか。
僕にはそれができる。
できるはずだ。
やってみなくちゃ分からない。
でも
どこまで戦えるのか分からない。
作ってはみるけど、他のプラモデルの案も考えなくちゃいけない。
それこそ可能性があるのだ。
より強く、より格好良く、より面白く。
その心がなければプラモデルは作れない。
三大要素があればプラモデルはいくらでも応えてくれる。それこそ無限の可能性だ。
名人の言った言葉が響く。
――プラモデルは自由だ。
その通りだと思う。
だから僕はプラモデルを好きになった。モデラーになった。
たぶんプラーナとかプラナイドとかがなくても僕はモデラーになっていただろう。
でも好きで戦争ができるわけではないけどね。
僕には戦争ができない。
したくない。
僕は僕の正義を貫く。
そのための旅だ。
それでいいじゃないか。
「カツ丼うまー」
ソマリアは目の前で嬉しそうにカツ丼を頬張る。
「そういえば、ソマリアのプラモデルはなに? 初めてみるタイプだけど」
「ん。GF-02。フルスクラッチなのさ」
フルスクラッチ。
僕のガンフェニックスもフルスクラッチだった。
「なるほど。GF-01の改良機ってわけだ」
「そうそう。一番好きな作品のを改良したってわけ」
誇らしげに語るソマリア。
その気持ちはよく分かる。
僕だってガンフェニックスを作ったときは舞い上がっていたもの。
自分だけのオリジナルプラモデルだもの。
愛着が湧く。格好いいに決まっている。
そんなの分かっている。
でも作り込みが甘かったから一撃でやられたのだ。
「でももっと強いのを作らないと」
「あのジンとかいう男に勝つため?」
「うん。僕は勝たなくちゃいけない」
「それはなんのため?」
ソマリアが真剣な眼差しを向けてくる。
「え……」
言葉に詰まる僕。
なんのため?
「そりゃ、勝つため?」
「あはははは。勝つために勝つんだ!」
ソマリアは腹を抱えて笑う。
「う、うん?」
自分でも言っていて可笑しくなる。
なんで戦うのか、考えたこともない。
「いや、だって目の前にプラモデルがあったら、作ってみたいし、戦いたいし……」
しどろもどろになる僕。
「はっはは。あーもう。おっかしい!」
ソマリアはひとしきり笑うと、カツ丼を食べ終える。
「あ。デザートにアイスたのも!」
「危機感ないなー」
でもそれがこの人のいいところなのかもしれない。
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