落ち着け

第21話

「ふんふんふーん」




ナナは陽気に鼻歌を口ずさみながら、燃えるゴミ袋を2つ持って階段を下りていた。



1つはナナ達の、もう1つは里哉家のである。



まとめるのはお祖母ちゃんがやってくれるのだが、持っていくのはちょっと……



ということで、自分のゴミを捨てるついでにとナナが持っていくようになった。




「今日は給料日〜」




ナナは浮かれていた。


今日が給料日だから浮かれていた。



晩御飯はちょっと豪勢にしちゃおっかな〜なんて。




「331.332!!」



「……」



「おう!ナナ、おはよう!!」




3号棟から外へ出たところで里哉が上半身裸で、刀を振っていた。



ジト目になるナナ。



そして




「外に出るならゴミ袋持って行けや」




挨拶を返すことなく、静かな声で言うナナに里哉は




「悪い、悪い。忘れてた!!」





朝に相応しい爽やかな笑顔で答える里哉。



だがナナは知っている。



刀に少しでも臭い匂いをつけたくなくて、わざと忘れたことを。




「はぁああああ……」




デッカイ溜め息を付きつつ、ゴミ置き場へ。



その時に、視界の隅に入る女のコ。


物陰に隠れているその女のコは1号棟の子だった。



目をハートにして、里哉のことを見ている。




「はぁああああ……」




どこが良いのか、この刀バカの。


などと里哉に失礼なことを考えていたナナだったが




バーーンッ!!!!



「「「!!??」」」




どこかの部屋の玄関のドアが勢いよく開いて、閉まった。



音の反響からして、1階……と見当をつけたナナ。



その通りで、姿を現したのは……



102号室に独り暮らしのおじいちゃん、柳大吉(やなぎだいきち)であった。



その手には数万円が握られている。




またか……。




とは思うも放ってはおけないナナ。



ツッカケで走ろうとする大吉さんを止める。




「じいちゃん、じいちゃん、どこ行くの?」



「止めんでくれっ、息子がっ息子がっ」



「じいさん、落ち着けっ」




里哉もナナの加勢へ。




「離せっ、離せぇっ!!息子が、会社で横領をっ」




典型的な振り込め詐欺である。




「落ち着けーーーーいっ!!」




バチーーンッ!!




情け容赦ない、ナナの平手がおじいちゃんにクリティカルヒット!!




「コラッ、ナナ!!」




お年寄りは大事にしなさい!!と怒る里哉は無視して




「じいちゃんに息子は居ないでしょ」




と言った。




「ハッ」




ハッとするおじいちゃん。




「「「…………」」」



(里哉さん、優しい!!)



「ワシに息子はいない」



「うん、良かった思い出して」




そう言うと、ナナは大吉さんの背中を押して部屋に戻してあげたのだった。



振り込め詐欺に騙されそうになる大吉さんとそれを止めるナナ。




これも3号棟の日常ーー。

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