第12話

更に一人出て来た。


あ、この人。



車の中で神崎さんが言っていた。



もう一人のシェアハウスの住人。



今、人気急上昇中の二人組アイドル“LampS”の一人。


五十嵐陣さん。


確か、年は22歳?


サラサラの黒髪。


少々つり上がった切れ長の瞳がとても印象的で、高い鼻に女の私よりも潤艶の赤い唇。


アイドルって言葉が相応しい。



受付けの前を通る時に、いつも爽やかな笑顔に明るい声で「お疲れ様です」と言ってくれるのだけど……



「離れろっ。モサ子!!」



モサ子?



「理不尽!!ちょっと、理不尽なんですけど!?」



鬼のような形相で神崎さんと女の子を引き離そうとしている。



「陣、ヤキモチか?可愛いな」


「うぉっ!?」



満面の笑顔で神崎さんは五十嵐さんも抱きしめた。



どちらのファンも知っていることだけど。


神崎さんが五十嵐さんを弟のようにとても可愛がっているというのは本当らしい。


車の中でも話してくれた。



『俺はあの二人が可愛くて仕方がないんですよ』



って。



「可愛くないですよっ」



なんて五十嵐さんは言っているけれど、とても嬉しそうで。



いやいや、私からすると抱きしめ合ってワイワイ騒いでいる3人とも可愛らしいのですが?



「臣さん、臣さん。お姉さんがビックリしてるから」


「「あ」」



良いんですよ。


私のことは忘れて頂いて。



と思いながらも向けられた3人の視線に、受付嬢として慣れた作り笑顔を浮かべ



「突然申し訳ありません。しばらくお世話になります、村上芽依と申します。よろしくお願い致します」



当たり障りのない挨拶をし、頭を下げた。

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