第7話
外から炭の燃える音、肉が焼けるような匂いで目が覚める。
「知らない天井…そうだ、ユーリアの宿に越したんだった…」
----第七話 絶望----
身体を起こし、外から香る匂いに疑問を持った瞬間、部屋の扉が叩かれる。
「フルミネよ、起床しているか?」
昨日より少し厳しく聞こえる隊長の声に、朝が強くない私は、少し苦しそうに返事をする。
「はい…」
「朝食の時間だ。階段を下り、向かって右にある食堂へと向かえ。」
隊長はそれだけ言い残し、すぐさま階段を降りていった。
ある程度の準備をし、食堂へと向かう。
扉を開けると、隊長、そして他の兵士が並んで座っていた。
「兵士フルミネ、空いている席に座れ。」
やはり、隊長は昨日と比べ厳しかったが、それが業務的な態度であるということも分かった。
私は命令に従い、即座に空いている席へと座った。
「食事を許可する!!」
隊長が声を上げると、兵士が一斉に手を動かし始める。私もそれに続き、食事を始めようとしたが、物凄い量の肉に
今まで、ましてや朝食において大量の肉を食べたことなど一度もなかったから。
手が動いていない私に気づいた隣の兵士が、私に問いかけた。
「お腹、空いてないの?」
その兵士は、おそらく20歳前後と見られる青年。そして、ユーリアの軍には珍しい魔術師であった。
「えっと…空いてはいるんですけど、この量のお肉を食べたことがなくて…」
そんな私を見兼ねたのか、青年は提案をしてくれた。
「じゃあ僕が半分くらい貰ってもいいかな?ちょっとなら食べられそう?」
1週間ほどぶりに向けられた優しさに驚くも、すぐに青年の提案を飲んだ。
「はい、ちょっとなら…お言葉に甘えさせていただきますね。ありがとうございます。」
「ううん、こちらこそ。いっぱい食べたかったんだ。」
私が罪悪感を感じないように、フォローまでされてしまった。この青年は、とことん人を助けるのに向いているのだろう。
朝食を終え、我々は即座に訓練へと移された。
「本日行うのは回避訓練だ!剣士の者は魔法を、魔術師の者は剣などの近接武器を回避する訓練を行なえ!では、開始!」
一度もしたことがなかった訓練に、少し苦戦してしまうも、2、30分ほど経過した辺りからは徐々に対応できるようになっていった。
あとどのくらいで終わるのだろうかと、ふと疑問に思い、隊長が立っていた場所に目をやるも、席を外していた。
その時はあまり気にしていなかったが、訓練を終えた後、突然、私は隊長に呼び出された。
「訓練を終了する!それと、兵士フルミネ、少しだけ話を。」
「は、はい。分かりました。」
少し困惑するも、すぐに飲み込み、隊長の後についていった。
会議室のような場所に呼び出され、隊長が口を開く。
「フルミネよ、少し言い
出会ってからの時間は、たったの2日とはいえ、隊長はそう簡単に言い淀むような人ではないと思っていたため、私も少し構えてしまった。
「どう、しました…?」
「本部から連絡があり、本国の6つある街の中、2つとの連絡が、2日ほど途絶えているらしい。」
重大なことではあるが、この時点では、さほど動揺はしなかった。
「…なるほど、それで?」
「その片方が…エルドだ。」
私は空いた口が塞がらなかった。塞がらないどころか、そのまま叫んでしまいたいくらいだった。
「街の人の安否は…?私の母は…?」
隊長が気の毒そうに口を開く。
「…まだ、確認が出来ていない。」
「ということは、まだ可能性があるという事ですよね!?母や、街の人達は…皆生きてるんですよね…?」
私は感情が抑えきれず、この時は隊長の肩を掴み、握りしめてしまっていただろう。
隊長は私の問いに答え続ける。
「それも…分からない。」
私は思い立ち、覚悟を決め、隊長に問いかけた。
「…どこかの国が攻めてきているんですか?」
「あぁ、そうだ。我々の領土を奪おうとしているのだろう。」
その事実を知り、私は決意した。キュルネと共に、全てを壊してしまおうと。
「隊長、ユーリアの軍も出撃しますか。」
「あぁ、そのつもりだが…」
この時の私は、もう言葉を止めることを忘れていただろう。
「私を最前線に配置してください。」
「だが…」
「お願いします。」
隊長の言葉を遮ってまで、私は意思を止められなかった。
「…分かった。そうしよう。兵士フルミネの活躍を期待する。」
「…感謝します。」
私はもう、死ぬ準備をしていたのだろう。
故郷がなければ生きる意味が無いと、幼稚で極端な思考で、そう思い込んでしまったのだろう。
その日の夜、私は荷物をまとめていた。
悔いがないよう、いつ死んでもいいように、大切なものを鞄に詰め込んだ。
「帰ろう、エルドへ」
次回 帰還
----第七話 終----
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