第4話



***


 初めて彼に会ったのは入社式のときだった。


 緊張でどきどきと会場に入ったら、彼がいた。

 先輩かな、とイケメンな彼に見とれた。


 整えられた爽やかな黒髪、涼やかな目元。細身の体にスーツがビシッと似合っている。


 重役のおじさんたちと仲良く話しているのが印象的だった。若くしてああいう人たちと仲良くできるのってすごい、と思った。


 目が合うと、彼は驚いたような顔をした。


 私、なんか変かな。

 そう思って慌てて服をチェックする。どこも変なところはなさそうだけど。


 彼はつかつかと私に近づいてきた。


「君、名前は?」

 聞かれて、私は戸惑う。


「支倉睦美です」

「俺は桐坂碧斗だ。結婚してくれ」

 私は呆然と彼を見た。なにを言ってるんだろう。


「坊っちゃん、冗談きついですよ」

 重役らしき男性が笑いながらツッコミを入れた。


 なんだ、冗談か。それにしてもなんでいきなりそんな冗談を?


「すまない、緊張しているようだったから」

 彼は微笑して私に言った。


「ありがとうございます」

 私はお礼を言って彼らの前から去った。


 だけど、先ほどとは別のどきどきが胸を支配していた。


 あんなイケメンに、冗談でも結婚を申し込まれた。


 社長と同じ名字だ。坊っちゃんと言われてたし、きっとご子息なんだろう。


 そう思っていたら、入社式で副社長だと紹介されて驚いた。年齢はまだ二十六歳。


 あんな若いのに副社長なの!? 一族経営だから!?


 私はまた驚いて彼を見つめた。


 目があって、ニコッと微笑みを返された。

 私は慌てて目をそらした。

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