第29話 真宵の森③
龍俊は手をのばす。
あと少しで手が届くという時、後方から飛んできた氷の矢がその女性を射抜いた。
「たっくん……」
その言葉を残すと、女性は砂になって崩れた。
龍俊は後ろを振り返った。
シルシルは、その顔をみて愕然とした。
憔悴しきっていて、いつもニヤけている龍俊とはまるで違ったのだ。
龍俊はシルシルを見るなり怒鳴った。
「余計なことをするなっ!!」
シルシルは後退りした。
「ご、ごめん。うち、龍俊のこと思うて……」
その目は涙ぐんでいた。
それを見て龍俊は我に返ったようだ。深く息を吸うと、声のトーンもいつものように戻した。
「……ごめんっす。助かったっす!!」
「龍俊……、ほんまに怒ってへん? よかった」
「さて、また水晶玉を壊すっす」
すると、衝撃音がして水晶玉が割れた。霧が晴れると、水晶玉の奥から彩葉とメルファスがやってきた。
彩葉は、龍俊を覗き込んだ。
「龍俊。2人きりになったから、シルシルと性行為をしたか?」
シルシルは真っ赤になった。
「そんなん、まだしてへんし!! それより、2人もあのバケモンにあったん?」
彩葉は表情を変えずに言った。
「会った。そして、倒した」
「親しい人と戦うんは、しんどくなかった?」
「しんどくない。わたしの想い人は龍俊だけ。でも、龍俊は生きている。だから、わたしとメルファスには何も現れなかった」
シルシルは首を傾げた。
「てっきり、あの水晶玉は、相手の記憶を読み取っとるんか思ったんやけど、ちゃうんかな」
メルファスが割って入った。
得意げにフフンと鼻を鳴らす。
「あれは、束縛された魂のカケラを映し出した幻影よ。囚われた魂は転生ができずに永遠に彷徨うの……」
「じゃあ、うちのパパとママも?」
「気の毒だけど、そういうことになるわね」
「なんでなん?」
「シルシルのご両親、悪魔に殺されたんじゃない? 一部の悪魔に殺された者は糧にされて、輪廻転生の輪から外れてしまうのよ」
「たしかに、バケモンに殺されてしもたんやけど、そんなのひどいわ。……どないしたら、助かるん?」
「どんな悪魔だったか覚えてる?」
「蠅みたいな顔してるやつやったで」
「それはベルゼブブね。人の魂を操る強大な大悪魔よ。ご両親を解放するには、そいつを倒すしかないわ」
「そんなん無理に決まってるやん。うち、1人やし。悪魔なんて、そもそも人間に倒せるもんやない」
龍俊はシルシルの肩をポンポンと叩いた。
「そんなやつ、ぶっ殺すっす!! 拙者の拳法で。あちょーっ!!」
龍俊は片足を上げると、拳を突き出した。
彩葉も、らしくなくニコニコしている。
「そうだ。わたしもいる。お前はもうハーレム要員。助け合うのが正しい」
メルファスは、そんなのお構いなしに話を続けている。身振り手振りで、なんだか楽しそうだ。
「そもそも、ベルゼブブはウガリット神話のバアル•ゼブルが前身で、わたし達、神は信仰の力によって変化するのよ。大天使ルシファーが……」
彩葉はその様子をみて言った。
「さすがダ女神。中身のないやつほど、形式にこだわる。さて、アホは放っておいて、町に帰ろう」
龍俊と彩葉とシルシルは、町に向かって歩き出した。シルシルはメルファスに振り返ると思った。
(さっき、霧から出てきた女の人も真っ白な肌で銀髪だったよね。それに声も……、でも、まさか……ね?)
「メルファスさん、そろそろ帰りますよ〜!!」
皆がいなくなっていることに気づいたメルファスが追いかけてくる。
「ち、ちょっとぉ。女神が有難い話してるんだから聞きなさいよっ!! 待ってぇ。こんな暗い場所に置いてくとかありえない!!」
パーティー「龍俊の異世界ハーレム」がベルゼブブと対峙するのは、まだずっと先の話だ。
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