第22話 あの人の遺産 heritage

「洞窟内はやべぇ 外に出るぞ!!!」

「くっ、名前が。」

俺とヴィヴは洞窟から全力で走り出す。

「ヴォオオオッ!!!!」

狭い洞窟のあちこちに体をぶつけながら黒い肉体は俺達をとんでもない速度で追ってくる。

「よしっ!!!」

俺達が初めて入った方向から出ることが出来た。

これで何とか洞窟の崩落は防げるはずだ。

知性が高いのかいきなり襲ってくるようなことはしない。

それに魔獣と同じで魔具<ガイスト>なしで魔術を発動できるのだろう

翼、足元、頭上に魔術の文様が浮かび上がる。

「おい サトー

一旦逃げろ そんでエルとコルプガイストの戦える奴を全員呼んで来い。

こいつはマジでやべぇ。

出来るだけ速くしろよ。あたしもそんなに持たせられる自信がねぇ。」

洞窟内の魔素<エレメント>を吸いつくしたせいか、さらに力を増している。

だが日の光が苦手なのか、何度か目をこすっている。

「ヴォオオッ!」

黒い個体がドッと一斉に光の矢を上空に放つ。

「くそっ!!!」

ヴィヴが斧にまとわせたオーラを矢に撃ち込むが。

ビシッ!!!

オーラが砕け散り光の矢が俺とヴィヴの立っている場所に降り注ぐ。

「くっ」

俺は何とか転がって躱しながらアシュヴァルで魔素<エレメント>を散らして

それでも反射してきたオーラをさらにアシュヴァルで打ち払う。

「ヴォヴ ヨワ」

黒い個体が何かを唱えると同時に急加速し、

「しまっ」

ドッ!

俺の腹部に激痛が走って体が空中に浮かび上がる。

「サトー!!!!!」

右足に光の矢を受けたらしいヴィヴが叫ぶ。

「がっ」

とっさに受けたアシュヴァルが完全に真っ二つに砕け散り、

俺は空中で受け身が取れない。

「インドラ!!!」

(信念を

汝の力は何がために)

「大切なものを守るって生きるためだ!!!」

(くだらぬ

良かろう。)

ヴァチヴァチッ!!!!

俺の全身にインドラの雷走る。

「滅侭杵」

インドラとの共鳴が起こり、俺の全身はどこも欠けることなく雷そのものとなっていく。

ドッと翼を動かし飛び上がってきた黒い個体と俺の拳がぶつかる。

「はあああああっ!!!!」

黒い個体の角をへし折り、俺は地面に落ちていく。

俺は雷状態で着地し、それと同時に

「マハ・ヴァルマ」

(インドラが認めた小僧か

力を貸してやろう。)

アシュヴァルと共鳴を起こして、己の体に纏う。

インドラの雷とアシュヴァルの黒い光が俺の全身にまとわりついていく。

「ヴォアアアアアアアッ!!!」

黒い個体は空中で旋回し、今度は全身の魔素<エレメント>を1点に集中させ一気に解き放つ。

「・・・砕け散れ」

マハ・ヴァルマの力で凝集された魔素<エレメント>が飛び散っていく。

そして飛び散った魔素<エレメント>を

「ヴァジュラ!!!」

インドラの力で1点に集中させ、解き放つ。

ドッ!

激しい爆発が起こり、俺は爆風だけで数歩ほど後退させられた。

「強いな。」


「ヴィヴ!? サトーもどうして」

洞窟の入口からエルが出てきた。

「エル!!!

こいつはサトーとあたしが食い止める。

お前はこいつの入ってた培養槽のネームプレートの名前を解読してこい!!!」

「!? どういうことか分からないけど、壊れてる培養槽のネームプレートを見てくればいいのね!」

「あぁ。頼むぜ。入口がしまってるかもしれねぇからあたしの血も持っていけ!」

ヴィヴがエルに小瓶を投げる。

「任せて!」

エルが洞窟に走っていく。

「そーいうわけであたしとサトーで足止めするぞ。」

「あぁ。」

インドラの滅侭杵とアシュヴァルのマハ・ヴァルマ を解く。

流石にこのまま戦っていればまた俺の体が崩壊しそうだからな。

今回は持久戦だ、あのビームを出されない限りこの状態で戦うしかない。

「おいおい アシュヴァル治ってるじゃねぇか。」

「共鳴時に起こる魔素<エレメント>の吸収作用で何とか。そっちも足は?」

「強くしばっときゃ何とか動く。」

何とか2人とも戦えそうだな。

「ヴヴヴッ」

黒い個体は俺のヴァジュラの一撃を警戒してか、距離を詰めようとはしてこない。

もう1発撃てるかどうかギリギリだし、実際に撃ってしまうと身動きが出来なくなるからな。

常にフェイクとして持っとくしかないだろう。

知性のある獣との戦いはこういう駆け引きが出来る分、技を使わないって選択肢もあるだな。

「そういやこいつ 言葉分かるのか?」

「――そういえば。

聞こえるか!

俺達は敵じゃない!!!」

人造で星ノ獣とやらを作って戦いの相棒にする計画なら言葉が通じないと難しいはずだ。

だが言葉は通じてないらしい。

もしくは何かのサインとか。

「ピュイッ」

俺は口笛を鳴らしてみるが。

「ヴヴヴッ」

どうやら意味はないか。

「あたしも ピュイーーーッ」

ヴィヴが軍用犬にするような手笛を鳴らす。

「ヴヴッ?」

黒い個体は首を傾げはするが、構えを崩さない。

やはりそういうサインは効かないか。

「――くそ どうすりゃいいんだ。

こいつ強すぎだろ。」

「転生者と戦うための相棒らしいからな。」

「ったく。サトーを狙ってるとも想えねぇし。」

「ヴヴ」

黒い個体が指を器用に立てて細かく光の矢を撃ち放つ。

俺とヴィヴはそれぞれ錫杖と斧で打ち払う。

「完全に様子見されてやがるな。

魔素<エレメント>の総量でも図ってんのか。」

「だとしたらまずいな。俺はもうインドラの解放を一瞬使えるかどうかだ。」

「あたしはまだ多少残ってるが。この足であいつ相手に前衛は無理だな。」

「斧の一撃は温存しておいてくれ。

俺がやつをひきつける。」

アシュヴァルの鈴で黒い個体の魔素<エレメント>を妨害しながら、

走って距離を詰める。

「ヴァアアアッ!!!」

黒い個体は巨大な尻尾を振り下ろして俺のすぐ横の地面をへこませる。

「ぐっ」石片を多少受けながら次は尻尾の薙ぎ払いを飛び上がって避ける。

そして黒い個体は空中で身動きの取れない俺に振りかぶって殴りかかる。

「いまだ!!」

俺が合図すると同時にヴィヴが斧の2連撃のオーラを黒い個体に叩きこむ。

ドッと黒い個体の胴体に斧のオーラがめり込んでいきバッサリと深い切り傷を残す。

デカい翼が邪魔だったからな。

振りかぶった攻撃をしてくるまでヴァジュラで耐えるつもりだったが、案外近接はなれてないらしいな。。

俺は黒い個体の拳が届かない距離まで飛び下がる。

「ナイスだぜ。サトー」

黒い個体が「ヴォヴォ」とうめき声をあげる。

胸元に巨大な切り傷が十字に刻まれている。

構造がよく分からないが、恐らく動きが鈍くはなるはずだ。

「ヴァーーーーーーーーー!!!」

黒い個体が空に向かって雄たけびをあげる。

そして周囲の魔素<エレメント>が急激に吸収されていき。

ジュ―――――という音と共に黒い個体の傷が消えていく。

「こいつの本質は超速再生能力かっ!!!

サトー 上だ!!!」

ヴィヴが叫んだ瞬間に空から光の矢が俺の左腕に突き刺さる。

「っ!!!」

思わず左手に持っていたアシュヴァルを落としてしまった。

俺がとっさに拾おうとした瞬間 ピュッ!

尾の一撃が俺の腹に叩きこまれ

ドッと俺の体が木の幹に叩きつけられた。

「くっ 空で旋回した時か。」

空で旋回した時に翼で隠して上に光の矢を放っていたんだ、

それが時間差で落ちてきた。

「それで時間を見てやがったのか。」

とんでもない戦闘センス、それに俺の動きをよく観察している。

インドラで攻撃し、アシュヴァルで守り、妨害する。

それが俺の基本戦術だ。だから先にアシュヴァルを落とさせ、俺の恐怖をあおったんだろう。

「ごふっ」

内臓がダメージを受けたのか、口の中が血の味しかしない。

「このやろっ!!」

ヴィヴがとどめをさそうとする黒い個体にとびかかる。

パシッ!

ヴィヴの体が翼で勢いよく弾かれて跳ぶ。

「――何か手は ないか。」

インドラの攻撃はまだ残ってるが、体がずたずたすぎて解放が出来ない。

黒い個体が口元に魔素<エレメント>を収束していく。

近寄らずにとどめをさすつもりなのだろう。

「流石だ。」

あと1回インドラの電気信号を足に流して何とか躱すことは出来るだろう。

だがその次は。

「サトー!!!!

その個体の名前はルシェル・ハルキラ・セラヴィエーラ!!!!」

エルが洞窟の中から叫ぶ。

だが黒い個体に十分に聞こえていないらしく。

「止まれ!!!ルシフェーーーーール!!!!!」

俺が叫ぶ。

その瞬間 黒い個体の動きが完全に静止し、魔素<エレメント>が霧散していく。

「是

汝は我が友だ、

攻撃を中止しよう。」

黒い個体が野太い女の声を発し、肉体が影に吸い込まれていく。

「おいおい 夢でも見てんのか。」

――そして現れたのは

「あなたは善き隣人であることを願う。」

アマ姉に目元が似た、だが西洋風の黒髪の全裸の女性だった。

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