第8話 犯行準備

佐々木史郎側の遠藤平吉が、理沙との愛を育む間、私はあと2人に内在している遠藤平吉を育まなければならなかった。

私はもう歳だ。長くとも10年程しか時間はない。その間にこの2人の遠藤平吉を育てなければならない。それは、私に課せられた使命だ。ぬるま湯に浸りきった警察組織を再び正義の根源として存在させる為に、遠藤平吉を絶やしてはならない。

私はそんなぬるま湯に浸りきった警察組織の下部組織で、泥沼にはまった内田と二宮2人を見て嘆いた。


正義の為に働けないのであれば、対抗するものとなれ。さもなくば、死ね。


私は2人に内在する遠藤平吉を育てていった。しかし、やはり各々個性があるように、2人の持つ遠藤平吉にも個性が現れ始めた。

内田の持つ遠藤平吉は、基本の内田の性格を踏襲していて、あまり大きな事をさせない方が良いことが分かった。

二宮は逆に、少々やり過ぎる事がある。しかし、それをカヴァー出来るほどの冷静さが備わっていた。


受け継がせるべきは二宮か...


私は2人の遠藤平吉を平等に育てながら、二宮のやり過ぎてしまう癖を治すように導こうとした。しかし、それは二宮に内在する遠藤平吉自身を壊してしまう可能性がある。ここまで育ってしまったなら自然に任せる方が良いだろう。

私は二宮の矯正を止めた。私とは全く違うタイプの遠藤平吉でも、警察の驚異となる者になればそれで良い。


私は交番勤務をこなしながら遠藤平吉を育てていった。気がつくと定年まで2年となっていた。このままでは実行する事無く頭の中で夢想するだけで終わってしまう。それだけは避けなければならなかった。佐々木史郎と綿密な計画を立てておきながら実行出来ないことは、警察の未来にとって大きな損失となるだろう。

私は焦った。

本来であれば、私が1つや2つ、家路写楽として推理して事件解決しなければならない。でなければ操作にも協力させてもらえない。今実行に移せば私は何も手を加えることが出来なくなる。不足の事態を考えても、私が捜査本部と何かしらの繋がりがなければと焦った。

そんな折り、同期の山下が捜査一課課長に就任した事を思い出す。私は山下に連絡を取った。山下は近くにいるというので、交番から山下のもとへ向かうことにした。


今日はどうした?珍しいな。


いや、もうそろそろ定年だしな。どうしているかと思ってな。


そんなことか。俺は指導員で残るつもりだが、お前はどうなんだ?


俺は隠居だ。


お前はそういう奴だよ。


事件か?


ああ。少し不審な点があってな。それを確認しにきただけだ。


なんという好都合だろうか。私はこの好機を生かすより他に無い。山下から事件の詳細を聞く。


交番勤務のお前に話してもな。そもそも、お前の交番の管轄なのに我々が出向いてることで気づけ。


相変わらず失礼な奴だ。ただ悔しいがその通りだ。教えては貰えんか?


同期のよしみだ。

この古本屋では、月に何個か商品が盗まれるらしくてな。


窃盗か。防犯カメラは?


とっくに確認した。しかし、怪しい動きはない。


どんな商品が盗まれる?


色々だな。種類問わず盗まれている。


それならば単純だろう?


どういう事だ?


店員は調べたのか?


いや、まだだ。


先に店員を調べろ!


私に一喝されて山下はやれやれと捜査員達に目配せをした。すると、店員が自供した。


捜査員達はまるで自分達の手柄のようにどやどやと外に出ていった。

山下だけが俺に声をかけた。


悪かったな。この礼は必ず後で。


そう言って山下は捜査員達と帰っていった。







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