ハート・トリビュート

春夏秋冬陽(ひととせ よう)

お腹はやっぱりすくのです

くるしいなぁ くるしいなぁ



なんでこんな思いをしないといけないんだろう



仕事でいっぱい怒られた



お客さんにもいっぱい怒られた



自分に投げつけられる冷たい視線を



針で刺されたかのように全身で感じ取ってしまった



「こんなときもあるよ」



肩にポンと手を置きながら



そう言ってくれた先輩の優しさが



とっても とっても 痛いのです



私の大きなミスでたくさんの人に迷惑をかけてしまった



頑張ったつもりになってるだけで



ホントは頑張る自分に酔ってただけなんじゃないかって



入社半年の社会を知らない頭で考えてしまう



「本当にすいません...」



情けない私の口からは



どこにいっても使ってる



安っぽい謝罪の言葉しか出てこないのである



仕事が終わって部屋に帰ってきたはいいものの



私の体はもたれかかるようにベッドに倒れ伏してしまう



着替えなきゃ...メイク落とさなきゃ...と



頭が働きかけるも



うんともすんとも動きません



こんな事すら出来ない自分が



この会社で頑張っていけるのだろうか...



生きてる価値なんてあるのだろうか...と



呪詛じゅそのような言葉を



枕に頭をうずめながらつぶやきかけると



クキュル~と魔の抜けた音が



1人暮らしの部屋に響いた



そういえば昼間は忙しくて



昼食取れなかったなぁ…と



ベッドからのそのそと這い出して



冷蔵庫の扉をガコッと開けてみる



冷たい冷気が顔を撫でるが



目の前には伽藍堂がらんどうとした白い空間



ハァ〜と大きなため息をしながら



再度扉を閉め直す



あ、そういえばと



実家から持ってきたはいいものの



全然整理してなかったダンボールの存在を思い出す



確かレトルトとかが入ってたよなぁ…と



詰め込んでた時の記憶を思い返しつつ



収納スペースからダンボールを掘り返してみる



「あった!」



子供みたいに声をあげて



発掘されたレトルトカレーを天井に掲げ上げてしまった



箱の端っこに消費期限が書いてあるが



期日には全然余裕がある



ヨシヨシ、今日はこれでいいやと



箱を持ち直そうとすると



手に違和感があった



箱の正面に何か貼られている



クルッとひっくり返してそれを見てみる



付箋だ



四方が5センチくらいの



正方形の付箋が貼られてる



そこにはこう書かれてた




『忙しくても、辛くても



ご飯だけはきちんと食べなさいね』




名前は無かったが



誰が書いたのかはすぐに分かった



少しばかり目頭が熱くなってきたのを



指先でぬぐいつつ



「…言われなくたって、分かってるよ」と



ぼやいてみる





チンッと甲高い音が鳴ったら



ようやく今日初の食事だ



レトルトのカレー



私の大好きなちょっと甘めのカレーである



スパイスの刺激臭が



忘れかけていた空腹を刺激してくる



あっためた冷凍のご飯と一緒に



スプーンですくいあげて口元に運ぶ



もぐもぐと咀嚼してそのまま飲み込む



美味しい...いやホントに美味しい!



なんでか分からないけど



今まで食べたカレーの中で一番美味しいかもしれない!



久しぶりに食事で多幸感を感じた為か



さっきまで心に渦巻いてモヤモヤも



ちょっとだけ薄まったような気がする



「...頑張ろう...」



思わず口にしてしまっていた



お腹を満たした事による満足感もあるが



遠く離れた所にいても自分を思ってくれる人がいる



そう思うと



ほんのちょっぴり ほんのちょっぴりだけど



前向きになって頑張れる、そんな感じがした



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ハート・トリビュート 春夏秋冬陽(ひととせ よう) @hitotose-you

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