心温まる、母と子の物語。

とある森の奥深く。禁足地として恐れられ、誰の手も届かない未踏の地。
そんな魔境で暮らしていたのは、なんてことのない、幸せな親子だった――――――

そのような切り出しから始まる本作。読書においてこの表現は謝りだと捉えられるかもしれないが、「見ていて」とても微笑ましいのである。

実際に目の前で子供が朗らかに走り回り、それを幸せに眺める魔女の温かい感情を追体験しているような。然もすれば己が魔女の視線を通して、危なっかしくも可愛らしい子供が笑いかけてくれる様子を見ているような。

非常に不思議な感覚を覚えた私は、気付けば充足していた。
母の子を気遣う想いが真っ直ぐに伝わってくる。子供と共に暮らす生活はただただ楽しく、愉快で、幸せに満ちていて、何気ない雑草や、料理でさえ華やかに見えた。

このように、あたかも目の前で物語が展開されているかのような錯覚を覚えるほど本作はクオリティが高い。ごく普通の日常であるのに、豊かな描写と表現が魔女と子と(番犬の)心地よい物語を紡いでいる。非常に尊い。

個人的にスローライフは好まなかったのだが、純粋にこの作品は好きだ。今後の物語がとても気になる。
皆さまもぜひ、読んでみてほしい。