第23話 モブと兄思いな妹
「──っくしゅ!」
琉生は目を覚ますなり大きなくしゃみをする。
どうやら風邪をひいてしまったようだ。もちろん原因は昨日ずぶ濡れになったから。
唯の家でシャワーを浴びた上に、帰宅してからもすぐにもう一度シャワーを浴びた。それでも風邪をひいたのだ。
体が熱い。頭痛と倦怠感が琉生を蝕む。
起き上がろうと試みたが、気分が悪く無理だった。
「おにぃー、もう八時だよー!!」
部屋の外からジタバタと激しい音が聞こえたと思えば、扉を強く開かれる。
結ばないで降ろされた、長い黒髪を揺らしながら朱莉が姿を現す。
「おはよー、おに……ぃ。──って顔真っ赤じゃん熱あるの!?大丈夫!?」
朱莉の大きな声がいつも以上にうるさく聞こえる。
「ごめんな。今日動けそうにないからご飯作れないよ……」
「いやいや、全然大丈夫だから。むしろ今はしっかり寝て?」
いつもは声が大きく、元気で能天気な朱莉であるが、真顔で小さい声で言う。
(それでいい。いつも通りの大きな声だと頭痛が悪化するからな)
「じゃあ俺は甘えて寝るとするよ」
「ん。お薬手帳見させてもらうからね」
朱莉は最後にそう言い、静かに部屋を去っていった。
(お薬手帳?──何のために使う、んだ……)
つい先程まで眠っていたというのに、またしても眠くなりゆっくりと瞼が閉じたのだった。
◆
枕元でゴソゴソと何かが動く音がして琉生は目を覚ました。
「あ。起きちゃった」
「あか、り……?」
頭が冷んやりとして気持ちがいい。
どうやら朱莉がアイス枕を用意してくれたらしい。
「今、何時だ……?」
「えっと。──今ちょうど十時を過ぎたところだよ」
朱莉は自分のスマホを取り出して教えてくれる。
どうやら琉生は一度目が覚めてから二時間寝ていたらしい。
頭の中は少しスッキリしたが、倦怠感に加え寒気がまだ残っている。
(喉が乾いたな)
琉生が水分を補給するために体を起こしたその時。朱莉がお盆に乗ったコップを渡してくれる。
暖かいはちみつレモンで喉が潤うのと同時に、胸がグッと暖かくなる。
「朱莉、ありがとな。はちみつレモンを作れるってことに俺は驚きだよ」
「おにぃは私をなんだと思ってるの!?」
「暗黒物質職人」
「私は仮説上の物質は作ってないよ!?」
琉生の言葉に、朱莉は瞬時に突っ込みを入れる。
さすが朱莉だ。
「はいはい。おにぃ、熱計ってくださーい」
話が一段落つくと、朱莉は体温計を取り出してきて、琉生に手渡す。
体温を測ってみると表示されたのは『37.9』。
熱はまだある。
「やっぱりまだ熱あるか〜。はい、これあげる。薬局で買ってきた薬だよ」
「ああ、ありがとう。……はっ、薬?やっぱり朱莉、おかしくないか!?」
「そんなことないよ〜?」
朱莉はキョトンとした顔で言う。
いつもなら琉生が熱を出しても、アイス枕を用意してくれるくらいだ。
それなのに今日の朱莉はと言うと、美味しいはちみつレモンを用意してくれた。そして風邪薬まで買ってきてくれたのだ。
正直、琉生の中では感謝よりも驚きが勝っている。
薬を飲み、もう一度寝ようと思ったが、琉生は昨夜からずっと寝ているせいか眠気が冷めてしまった。
琉生は眠気が訪れるまでの少しの間。朱莉とどうでもいいような話をしていると、段々と睡魔が襲ってきたのだった。
琉生が深い眠りについた頃。枕元がやけに騒がしかったが、琉生は気づくことはなかったのだった。
◆
太陽が登る少し前。
「ん〜っ!」
琉生は目を覚まし、体を起こすなり大きな伸びをする。体中からポキポキと音がなりスッキリとした。
琉生は昨日、トイレに行っていた時間を除けば、一日中ベッドの上で横になっていた。だから体中が強ばっていたのだ。
琉生は枕元に置いたままだった体温計を手に取り、脇に挟んだ。
数十秒後。ピピピと電子音が鳴ったので琉生は体温計を脇から引き抜いた。
そこには『36.4』と表示されている。平熱だ。
熱が引いたのは、朱莉が持ってきてくれたはちみつレモンと、薬がよく効いたからだろう。
違っているのかもしれないが、今はそう信じておくとするのだった。
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