僕の街のバス運転士さん
鍛冶屋 優雨
第1話
このお話には障碍者に対して心無い言葉を投げかける登場人物が出てきます。
読みたくない方はこれ以上読み進めないようにしてください。
このお話はあくまでもフィクションであり、作者が障碍のある方に対して偏見や何らかの考えを持っている訳ではありません。
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僕は足に障碍があって上手く歩けないんだ。
だから、僕は家でも外でも車椅子に乗って生活している。
学校に行く時は、最初の頃はお父さんが車で連れて行ってくれていたけど、最近、天気が良いときはお母さんが車椅子を押して学校に連れて行ってくれる。
だけど、毎日お母さんに頼るわけにもいかないから、僕も自分で車椅子を漕いでみた事があったけど、とても手が疲れてしまった。
僕は定期的に受診しないといけないんだけど、お父さんが休みの日は、お父さんが連れて行ってくれて、お父さんが仕事の時は、お母さんが僕を病院に連れて行ってくれる。
お父さんが連れて行ってくれる時は家の自動車だけど、お母さんは車の運転が上手くないから、お母さんの時は、2人でバスにのって病院に行く。
僕は車椅子に乗っているから、僕とお母さんがバス停でバスを待っていると、バスが停まった後、運転士さんがにこやかに、
「こんにちは!」
と挨拶をしてくれて、乗車用のスロープを持ってきてくれて、僕の車椅子を押してくれて、運転士さんが、バスの椅子を車椅子が固定できるように、スロープを持ってきてくれる前に準備してくれているので、僕とお母さんがバスに乗車したら、運転士さんが直ぐに車椅子を固定してくれるんだ。
僕が乗る事で面倒だと思うのに、どの運転士さんも嫌な顔をする事はなく、にこやかに対応してくれる。
僕は何回か受診している内に、決まった曜日や時間になってきたから乗るバスの時間帯もほとんど同じ時間になって運転士さんもほとんど決まった人になってきた。
僕はいつもにこやかに対応してくれる運転士さんがとても頼もしく思えたので、こっそりと名札を見て、山下さんという名前を覚えてしまった。
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小雨の降る日、僕とお母さんは受診に行くためにレインコートを着て、バス停で待っていた。
雨の日だからか、今日はバスに乗る人が多くて、車椅子の僕が乗る事で、一人の女の人が立つ事になったみたいで、運転士さんの山下さんに文句を言っていたみたいだった。
山下さんは申し訳なさそうな笑顔で女の人に頭を下げて、
「貴女が座っていた椅子は、車椅子を固定するための装置がついていますし、こちらは身体の不自由な方や高齢の方や妊婦のお客様に座ってもらうための優先席に設定しています。ご理解とご協力をお願いします。」
と説明をして、退いてもらい、車椅子が固定出来るように準備をしてから、乗車用スロープを持って降りてくれた。女の人に色々言われていたのにいつもと変わらない笑顔を浮かべ、
「こんにちは!雨の日なのに受診するなんて偉いね。」
なんて僕を褒めてくれた。
僕とお母さんが、バスに乗り込んで、山下さんに車椅子を固定してもらっている間、僕の代わりに立たされた女の人が僕達を怒ったような目で見ていた。
やがて、山下さんが準備を終え、マイクで出発が遅くなった事を謝り、バスが出発すると僕の隣に立っている女の人が、
「あ〜あ、今日はついてないわ〜。雨の日に車椅子の障碍者が乗ってくるなんて、止めてほしいわよね!」
なんて周りに聞こえるように声をあげ始めた。
「これだから障碍者って嫌なのよね。多分、バスの運賃も私達よりも安いんでしょ。何で正規料金を払っている私が立たされて、安い運賃の障碍者を乗せなきゃいけないのよ!」
怒っている女の人は、僕やお母さんを睨みつけて、更に言葉を続ける。
「でも良かったわ〜。我が家に障碍者がいなくて!ひょっとして、あんたかあんたの旦那の先祖か何かが、悪事を働いたから子供が障碍を持って生まれたんじゃないの?」
女の人はお母さんを指さして、酷い言葉を言い放つ。
僕は我慢できずに降車ボタンを押して、降りる意思を伝える。
「お母さん!僕、久しぶりに車椅子を自分で漕ぐよ!見ていてよ。僕一人でも病院まで漕げるからね!」
僕は精一杯の笑顔を浮かべて力こぶを見せる。
お母さんは少し泣きそうだったけど、山下さんに、声をかけようとする。
山下さんは、
「まだ病院まで少しありますよ。」
と言っていたけど、お母さんは山下さんに、頭を下げて、
「乗って直ぐに降りる事になってすみません。」
と謝っていた。
山下さんは頷き、バスを停留所停め、
「さっさと降りてください。」
と声をかけてくる。
山下さんの強い言葉に、僕とお母さんは少し驚いたけど、バスの中の雰囲気を悪くしたし、直ぐに僕を降ろす準備もしないといけないから、その作業をしなくてはならない運転士の山下さんが怒るのもしょうがないよね。
僕とお母さんが降りる準備をしようとすると、山下さんが運転席から立って歩いてきて、立っている女の人の前に行き、
「さっきも言いましたけど、さっさと降りて下さい。」
女の人はびっくりしていたけど、反論する。
「私が降車ボタンを押したわけじゃないわ!押したのはそこの障碍者じゃない!私は客よ!」
山下さんは頷き、
「えぇ。これまで乗ってきた運賃は要らないのでさっさと降りて下さい。それに降車ボタン押したのはこの子ですが、押させたのは貴女です。貴女の心無い言葉がこの子に降車ボタンを押させたんですよ。大体、障碍者が家族にいなくて良かったなんて言っていましたけど、誰にも未来は分からないんですよ。貴女や貴女の家族が障碍者ならないなんて誰が保障するんですか?」
山下さんの言葉に周りの人も頷き、そうだ!と同意してくれる人も出始めた。
更に山下さんは言葉を続ける。
「貴女は、この子が降車ボタンを押した後、お母さんに言った言葉を聞き、お母さんを悲しませないように浮かべた精一杯の笑顔を見て、何も思わないんですか?」
山下さんの言葉を聞き、周囲を確認して味方が誰もいないと判断した、女の人は、
「何よ!こんなバス会社、クレーム入れてやるからね!」
そう言って降りて行った。
山下さんは何事もなかったかのように、笑顔を浮かべ、出発が遅くなり申し訳ありませんと、乗客の人達に頭を下げて、運転席に戻って行った。
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俺はしがないバスの運転士だ。
今日はバスの乗客で、障碍を持つ小学生とその母親に文句を言っていた女を降ろしてしまった。
降り際にクレームを入れるなんて言っていたけど、あの様子だと確実に入れているだろうな。
俺はその日の運行を終え、会社に戻ると、案の定、上司と社長が俺の帰りを待っていて、俺を社長室に呼んだ。
「やっぱりクレームですか?」
社長は頷いて、
「そうやな。えらい剣幕の女が生意気な運転士にバスを降ろされた!乱暴な運転士に罰を与えろ!なんてなんて電話で言うてきたわ。」
俺はすみませんと謝り、いくらでも懲罰を与えて下さいと社長に告げる。
社長は俺の言葉を聞いて、一息つき言葉を続ける。
「でも、その後にな。車椅子の男の子とその母親を助けた運転士がいてたって言うお褒めの電話や「辞めさせないで」や「怒らないで」って電話でお褒めの言葉がぎょうさんきてな。最後には車椅子の小学生とそのご両親がお礼の言葉を言うためにわざわざ会社に来てくれたんや。」
社長はニヤリと笑って、俺の頭を小突き、
「人助けした運転士に懲罰なんて与えよったら、儂らの社長は頼りにならん、なんて言われて、運転士全員が辞めてまうわ。」
そう言って、社長は奥様に禁止されているタバコとライターをポケットから出して、外にある喫煙所まで歩いて行く。
「心配せんでもえぇ。儂はな、人を煙に巻いて有耶無耶にするのが趣味なんや。」
そう言って、社長は部屋を出ようとするけど、部屋を出る前にタバコに火をつけ、古手の事務員さんに怒られてしまった。
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