光の均衡 〜異世界ヒーリングクエスト〜
まさか からだ
第1話 現代から異世界へ
光(ひかる)は、ごく普通の青年だった。毎日、満員電車に揺られながら職場へ向かい、終わらないタスクをこなす日々。上司からの叱責、同僚との軋轢、終わりの見えない残業。家に帰る頃にはクタクタで、部屋の明かりをつける気力さえ残っていない。唯一の癒しは、寝る前にスマホでゲームをする時間だけだった。
ある夜、光はいつものようにスマホゲームを開いた。画面に映るのは、彼が最近ハマっているRPGゲーム「エナジークエスト」だ。ゲーム内では、自分の「エネルギーバー」を管理しながら、敵を倒しクエストをクリアしていく。「現実にも、こんなふうにエネルギーを管理できたらな……」と、ため息をつきながらプレイしていた。
そのときだった。突然、スマホの画面が白く光り始め、次第にその光は部屋全体を包み込んでいった。
「なんだこれ……!」
光は目を覆ったが、光はますます強くなり、やがて意識が遠のいていった。
目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。澄んだ青空、緑豊かな草原、遠くには雪山がそびえ立ち、小鳥のさえずりが聞こえる。「ここは……どこだ?」光は周囲を見回し、目を疑った。自分がいたはずの狭い部屋はどこにもない。代わりに、目の前には奇妙な装置が浮かんでいた。それはゲームで見た「エネルギーバー」にそっくりだった。
「え、これ……ゲームの中?」
装置には「セロトニン」「オキシトシン」「ドーパミン」と書かれた3つのバーが表示され、それぞれが半分以下になっている。まるで、彼の現実の疲れ切った心と体を反映しているかのようだ。
「光さん、起きましたね?」
突然、背後から女性の声がした。振り向くと、そこには銀髪の女性が立っていた。彼女は長いローブをまとい、まるでゲームに出てくる魔法使いのような姿だった。
「あなたは……?」
「私はリナ。この世界『エナジア』のガイドです。」
リナは微笑みながら説明を始めた。ここは、感情のエネルギーが物理的に存在し、それを管理することで生きる力を保つことができる世界だという。そして、この世界を脅かす存在「アンバランス」が、エネルギーを奪い取っているのだと。
「あなたのエネルギーもずいぶん減っていますね。このままでは危険です。まずは、エネルギーバーを回復させましょう。」
「どうやって?」光は戸惑いながら尋ねた。
「簡単です。あなたが喜びや癒しを感じる行動を取ればいいのです。セロトニンは、心を落ち着かせる行動で回復します。たとえば、自然を感じたり深呼吸をしたり。オキシトシンは、人とのつながりから生まれる愛のエネルギー。そしてドーパミンは、目標を達成することで増えます。」
リナの説明を聞きながら、光は思わず苦笑した。「なんだか、まるでゲームのチュートリアルみたいだな。」
「そう思ってくれて構いませんよ。」リナはいたずらっぽく笑った。「ですが、これはゲームではありません。ここでの行動が、あなたの未来を決めるのです。」
その言葉に、光の胸がざわついた。今までの人生、ただ目の前のタスクをこなすだけで精一杯だった自分。この異世界でなら、何かを変えられるのだろうか?
「さあ、最初のクエストです。」リナが指を鳴らすと、空中に光る文字が浮かび上がった。
「クエスト1:セロトニンの泉を見つけ、心の安定を取り戻せ。」
光は深呼吸をし、心を決めた。「やってみるよ。この世界で、自分を取り戻すために。」
こうして、現代日本の疲れ切った青年が異世界で新たな旅を始めることになった。果たして光は、心と体のバランスを取り戻し、自分の人生を取り戻すことができるのか?
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