ささやかな微風

海翔

第1話

 1月も過ぎ、仕事が落ち着くと何となく温泉に行きたくなった。

そんな時に机の上においてある新聞に目を通していたら、西伊豆の温泉のバスツアーが載っていて、海の幸と温泉と言う言葉につられ、2月の始めに予約をした。

 当日は朝早く新宿駅の近くに集合してそこから出発をした。

参加者は20人ほどでバスの真ん中の指定席に座っていると集合時間の終わり頃に一人の女性が飛び乗ってきた。

それが奈央との出会いだった。

 奈央は私のとなりに来て荷物を棚にあげてから「よろしくお願いします。上田奈央といいます」と言って席に座った。

和也も一呼吸をおいて「私こそよろしく、志田和也と言います」

「広告の宣伝を見てこの企画に参加しました」

「私もです。美味しい海鮮が食べれるのと温泉に入れるので大いに期待しています」

「そうですね」

「奈央さんは仕事は?」

「ちょうど有給休暇が余っていたので消化です」

「私もですよ。なかなか休めないので会社が暇なときに使っています」

「奈央さんは温泉には良く行く方ですか?」

「ええ、、一人でも良くいきますよ。学生時代に西伊豆の雲見海岸の近くの宿でフリーアコモデーションのシステムで勤めたことがあるんです」

「給料とか無いのですが食事等は提供されるので一人の時間を有意義に使えて過ごしていました。私がいたときは忙しい時期で男性は潤さんいう方を含め3人で女性は私と香さんの2人で仕事をこなしていたんですよ」

「自由な時間は泳ぎにいったり、近くに遊びにいったりと楽しい時間を過ごしました」

「ただこの温泉一つだけ変わったところがあり、内風呂から露天に出ると混浴になるんです。人が居ないときに入る露天は満点の星が良く見えます。私も香さんと二人で露天に入っていたら、一緒に働いていた潤さんとバッタリ会ってしまったのには驚きました。だって何もつけていなかったので、、、その時は何も言わずに内湯に移動しました。でも今考えるといい思い出ですよ」

 バスは9時半に出発した。

バスに揺られ、御殿場のアウトレットに向かっていた。

ここで買い物等、食事休憩を取ってから西伊豆に向かう予定になっていた。

 昼頃にアウトレットに着き、バスに乗っていた人が一人一人降りていった。

和也は奈央さんと一緒にアウトレットを見学して昼食はすいている店を見つけてそこで食べた。食堂から見る富士はとてもきれいだった。

 そして、場所を変えてコーヒーの飲めるところを探してそこでコーヒーを飲みながら時間を過ごした。

2時間半が過ぎ、バス乗り場に向かい全員が集まったら出発をして、そこから今日泊まるホテルに向かった。

 ホテルには夕方前に着き、荷物を降ろして指定の部屋に入った。

そこで、時間まで温泉に入ることにした。ホテルの温泉は露天からは海が良く見えるところに出来ていて夕焼けが海に浮かんだように見えて美しかった。

 風呂から出てラウンドにいると浴衣姿の奈央さんがこちらに来て

「いい温泉でしたね」

「ええ、、夕焼けも見れて運が良かったですよ」

「これから食事ですね、もし良かったら夕食一緒に食べませんか?」

「バイキングなので自由に席は取れそうなので、、、」

「そうですね。一人で食べるより一緒の方が楽しいですからそちらの席にいきます」そういって二人は自分の部屋に戻った。

 30分もしたら食事の用意が出来たことの連絡が来て食堂にみんな向かった。

和也が席についていると奈央さんがこちらの席に近付いて「こちらの席ですね」といってその席の隣に着いた。

二人は好きなものを取りに行きテーブルに並べた。

良く見たら同じものを二人は取っていて、ふっと、微笑みを浮かべた。

 和也はお酒を注文して奈央と食事をしながらお互いのことを話して時間を過ごした。食事が終わったところで和也は「もう少し飲みませんか?」と誘ったら、奈央は「私ももう少し飲みたい気分です」と和也に話した。

 二人は場所を変えて、ラウンジに場所を変えて缶ビールで話の続きを始めた。

和也は奈央さんが経験したフリーアコモデーションのことが気になって、、、

奈央は「あの時は怖いもの知らずで一人でいろんなことをしていました。その分たくさん失敗もしましたけど、、、さっき話した混浴でバッタリなんて一度や二度ではないですよ。浴室の男湯と女湯のラベルを変えるのを忘れたりして、大変なことになってしまい、女将さんに頭を下げたこともあります。でもいい思い出です」

「そう言えば私、旅行するときに必ず行くとこがあるんです。旅館でもホテルでも家族風呂に入るんです。何か独り占めした気分が好きなんですよね。それに家族風呂の方が情緒があって良いですよ」

 奈央は少し酔った勢いか「お酒に誘ってくれたお礼に、和也さんこれから家族風呂に入りませんか?」

 そう言われ、「良いんですか?」と聞き直したら、

奈央は「私、混浴とか好きなんですよ。お互いの気持ちをオープンに話せるので、、これから入りましょう」そう言われ、和也は家族風呂の予約を取り部屋に戻り、タオルとバスタオルを持って家族風呂の前で待って居ると奈央さんがタオルとバスタオルを持ってやって来た。

 和也はラベルを変えて奈央さんと一緒に中に入った。

浴室を見たら周りを竹で囲まれて何とも情緒がある浴室だった。和也が先に裸になり、湯に入っていると後から奈央さんがタオルと前にかけて入ってきた。

 湯を体にかけてから浴槽に入ってきた。思ったよりもスリムな体で湯が体から弾けた。そのまま和也の横に入ってきて、タオルを湯の中から出して解放された気分で湯を慕った。

「和也さん家族風呂にこうやって入って見ると中々のもんでしょ。この雰囲気が私好きなんです」

「夏だったら窓を開けて解放しますが、今は冬なので、でもこの解放感はなかなか得れませんよ」

「そうですね」そういって二人は、ゆっくり湯にしたり静かな時間を過ごした。

 静かな時間を過ごし部屋に戻る時に奈央は和也に口づけをした。

「このまま一人で寝るのは寂しいの、私の部屋に来ませんか?」そう言われ、和也は奈央の部屋に入った。

そして、口づけをして抱き締めた。

奈央は抱かれるままにすべてを和也に任せた。

そして、浴衣を脱いで二人は横になった。浴槽で見た奈央の裸の体は滑らかで柔軟性があった。その体を目の前にして抱き締めた。微かな反応で燃え上がり二人は一つになった。

 そのまま静かにしていると奈央は静かな寝息をついて眠ってしまった。

和也は腕の中で眠ってしまった奈央を頭を枕に乗せて、布団をかけてそのまま自分の部屋に向かった。

 途中エレベーターを使い上の階に乗ろうとしたら、エレベーターの中にいた人に見覚えがあった。

「もしかして、あやかさんでは、、、」

「そうですが、、」

「私ですよ、志田和也です」

「ああぁぁ、、中学時代クラスメートの和也さんですか?」

「そうです。あやかさんはどうしてここに?」

「私、大学時代のゼミ仲間と女子会していたの」

「そうですか、和也さんは」

「私は新聞で広告の中で西伊豆の温泉の宣伝があったのでそれに応募してここに来たんです」

「そうでしたか」

和也は「今は一人でいいんですか?」

「はい、みんなはお酒を飲んで大分酔っていたので私だけお風呂に入ってました」

「もしよければ、少しラウンジで話しませんか?」

「えぇいいですよ」

「久しぶりですね、もうかれこれ19年ぶりです」

「あやかさんは結婚したんですか?」

「いや、まだですよ。彼氏もいないのに親からは早く嫁にいけと言われて困っていますよ」

「それは私も同じですよ。今日来ている女子会のメンバーも独身で同じこといってました。なかなか縁がないんですね」

「そうですね。あやかさんは今はどんな仕事しているんですか?」   

「私ですか?今は商社で受付をしています」

「和也さんは?私は銀行です」

「どこの銀行ですか?」

「丸ノ内です」

「私の会社と近いですよ。今度昼食食べませんか?」

「いいですね。身近にクラスメートがいると気持ちが開放的になりますよ」

「私もです」

「19年ぶりに会えたのは何かの縁ですね 私は期待してしまいそうです」

「行きなりそんなことはないでしょう。今日神社でおみくじ引いたら大吉で結婚のところを見たら、大いに期待できますと書いてありました。そこで和也さんに会えたんです。これは偶然ではないでしょ。期待したくなりますよ」

「和也さんもし良かったら連絡交換しませんか?」和也は幸い一人でいたこともあり、もしか、、、と、思いながらも連絡を交換した。

「そろそろ部屋に帰るので、もし、東京で会えたらよろしくお願いします」そういって、ラウンジを後にした。

和也はそのまま自分の部屋に帰り眠りに着いた。


 翌朝、起きてから大浴場に入って、部屋に戻るときに奈央さんに会った。 奈央さんは会うなり「意地悪」と言って「そのままいてくれると思ったのに、、、」

「そうはいきませんよ」

「朝起きたときに和也さんが居なくて、、、」

「奈央さんはこれからお風呂ですか?朝一番のお風呂はいいですよ。ゆっくり入ってください」そういって、二人は別れた。

奈央さんはそのまま浴室に向かった。

 それから1時間後に朝食バイキングが始まり、奈央さんは昨日に続き、和也さんの席に着いた。

同じようなものを取ってきては、机に並べ「お互い嗜好が同じなんですね」そういって食事をした。

食事後は部屋で時間をすごし、10時にホテルを後にした。

 そして、バスに揺られ、開運神社に出かけそこでお参りをして時間をすごし、昼食会場に向かいそこで昼食を取った。

 昼食が終わり奈央さんに「今回の旅行は印象のある旅行でしたね」

「そうですね、和也さんに会えたのも良い思い出ですよ。後は新宿に帰るだけですね」

「そうですね」バスに揺られ、喧騒の町に徐々に近づきこの旅の終わりが近付いてきた。

窓からは新宿の高層ビルが見えてきて高速の坂を上り無事新宿に着いた。

バスの運転手にお礼を言って乗客は手に荷物を持ってバスを降りた。

和也は「奈央さんまた会えると良いですね。もし良かったら連絡先を交換しませんか?」そう言われ

奈央は「また会えるでしょ。この広告の旅行は良く行くのでそのときまた会いましょう」そういって、手を降って駅の方に歩いていった。

そして、人混みの中に消えていった。


 何処か期待がささやかな微風のように過ぎ去った。

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