裏切りの代償

@flameflame

第1話

「健太、大変だ!愛が…」


昼休みの食堂で、友人の翔が深刻な顔で俺に話しかけてきた。翔は同じ高校出身で、大学でも同じ学部、同じ学科に通う親友だ。


「愛がどうしたんだ?」


嫌な予感がしながらも、平静を装って尋ねた。愛というのは、高校時代から付き合っている恋人の名前だ。大学も同じキャンパスで、将来は結婚も考えている大切な存在だ。


「いや、あの…言葉で説明するより、これを見た方が早い」


翔はそう言うと、スマホの画面を俺に見せてきた。画面には、愛が別の男と腕を組んで、楽しそうに歩いている写真が写っていた。信じられない光景だった。愛はいつも俺の隣で微笑んでいたのに、今は見知らぬ男と…。


「これは…一体…」


頭の中が真っ白になり、何が起こっているのか理解できなかった。


「昨日、駅前で偶然見かけたんだ。最初は人違いかと思ったんだけど、間違いない。愛だよ」


翔は申し訳なさそうに言った。俺は写真から目を離せずにいた。愛の笑顔は、確かにいつもの愛のものだった。しかし、その笑顔は俺に向けられたものではなかった。


「まさか…愛が…浮気…?」


ようやく口から出た言葉は、震えていた。翔は何も言わずに頷いた。俺は椅子から立ち上がると、食堂を飛び出した。どこへ行けばいいのか分からなかった。ただ、この場にいたくなかった。裏切られたという事実に、どう向き合えばいいのか分からなかった。


その日の午後、俺は愛を呼び出した。大学近くのカフェで、向かい合って座る。愛はいつもと変わらない様子で、俺に微笑みかけてきた。その笑顔が、今はひどく偽物に見えた。


「健太、どうしたの?元気ないみたいだけど」


「…愛、聞きたいことがあるんだ」


俺は震える声で言った。そして、翔から見せられた写真のことを話した。愛の表情は、俺の話を聞くうちに徐々に険しくなっていった。


「…そう。見たのね」


愛は冷たい声で言った。謝るどころか、開き直ったような態度だった。


「…どういうことなんだ?説明してくれるよな?」


「説明も何も…その写真の通りよ。私は…他の人と付き合ってるの」


愛の言葉に、心臓を鷲掴みにされたような痛みが走った。


「…なんで…?俺たち、ずっと一緒にいたじゃないか。将来のことも話してたのに…」


「それは…昔の話よ。あなたはいつも私を構ってくれなかった。もっと刺激的な男性に惹かれたの」


愛は平然と言った。俺は何も言い返せなかった。愛の言葉は、俺の心を深く抉った。


それから数週間、俺は抜け殻のようになって過ごした。何も手につかず、大学にもろくに行かなかった。そんなある日、ゼミで偶然、凛と話す機会があった。凛は同じゼミの女子で、知的で落ち着いた雰囲気の女性だ。


「…大丈夫?最近、見かけなかったけど」


凛は心配そうに俺に声をかけてくれた。俺は愛とのことを簡単に話した。凛は黙って俺の話を聞き、最後に優しく微笑んで言った。


「…辛かったね。でも、きっと大丈夫。時間はかかるかもしれないけど、必ず乗り越えられるよ」


凛の言葉に、心が少し軽くなった気がした。それから、俺は凛と話す機会が増えていった。凛はいつも優しく、俺の話に耳を傾けてくれた。凛といると、愛のことが少しずつ薄れていくのを感じた。


一方、愛は浮気相手と上手くいかなくなっていた。相手は愛と違って、奔放でわがままな性格だったらしい。愛は俺の優しさや大切さに気づき始めたようだった。ある日、愛は俺に電話をかけてきた。


「…健太…話があるんだけど…」


久しぶりに聞く愛の声は、どこか弱々しかった。俺は愛と会うことにした。カフェで向かい合って座ると、愛は申し訳なさそうに言った。


「…あのね…やっぱり…健太が…一番だったって…気づいたの。…やり直せないかな…?」


愛の言葉に、俺は静かに首を横に振った。


「…もう遅い。俺の隣には、もう君はいない」


愛は悲しそうな顔をしたが、何も言わなかった。俺は立ち上がり、カフェを後にした。


その後、俺は凛と付き合うことになった。凛は俺の過去を受け止め、優しく包み込んでくれた。凛といると、心が安らぎ、幸せを感じることができた。


数ヶ月後、大学のキャンパスで、偶然愛とすれ違った。愛は以前よりもやつれて見えた。俺と凛が腕を組んで歩いているのを見ると、悲しそうな目で俺を見つめてきた。俺は軽く会釈をして、凛と歩き続けた。


愛の背中を見ながら、俺は過去に別れを告げた。裏切りは人を深く傷つける。しかし、その傷は、新しい出会いと時間によって癒される。そして、裏切った代償は、いつか必ず自分に返ってくるのだ。

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