十三幕 手紙

 

 連日二人がかりで様々な資料を漁る。同時にユートは知り合う魔法使い達との交流を利用し、色んな意見交換もしていた。しかしそれでも帰還魔法に通ずるものは未だに見つかっていなかった。

 夕方、宿でお互いの成果を報告する時も、ユートの顔はいつも険しい。ぐっと唇を引き結んだまま、ユートは絞り出すように言った。

 

「……やっぱり、既存の魔法から帰る方法を探すのは難しいのかもしれない」

「なら、どうする?」

 

 しばらく考えるように黙り込んでいたユートが、徐ろに顔を上げた。

 

「ねえ、ジャズの仲間だった魔法使いの人、確か魔塔の白って、言ってたよね? あれってどういう意味?」

「なんだ、ここの連中は何か言って無かったのか?」

「それが、ここの人達に魔塔の話題を出すと、色んな話題が出てきて収集がつかなくなるんだよね……」

 

 遠い目をしたユートに思わず笑う。まあそうか、ここの奴らには憧れの的だもんな。仕方ないので、一般的に知られている範囲で魔塔について説明する。

 

「魔塔ってのは能力を認められた魔法使いのみが入るのを許された特殊な機関で、中では様々な研究・検証・開発なんかがされている。だがそれ以外にも、例えば魔法使いの取り決めや法を定めたりするのもこの機関だ」

「へえ!そんな事までやってるんだ」

「正しく魔法使いの頂点、超エリート様の集まりだからな。その中でも著しく成果を出したり、何かの偉業を成した人間には、魔塔の特色を冠した称号が与えられる」

「なるほどね!魔塔の名前なら俺も聞いたよ。緑、紫、金、黒、白の五塔だって。じゃあ魔塔の白って事は、ヴァイスは白の塔のトップってこと?」

「まあ、そういう事だな」

 

 やっぱすごい人だったんだなあ、と呑気に呟いているが、そのすごい奴と一年で正面切って戦っていい勝負をした奴が何を言うのか。呆れていると、ユートは「よし、決めた」と決意を滲ませた表情で俺を見た。

 

「最後に魔塔の人に話を聞いてみて、それでも駄目だったら魔法で考えるのは一旦諦める」

「……そうだな。その時は前言った聖域でも探してみるか」

「うん!」

 

 しかし、魔塔の人間と接触するのはなかなか難しい。何故なら連中は基本あの塔の中から出てこない。食事などの生活面は全面的なサポートが入り、時間の全てを魔法に費やせる環境が整えられているらしいから、出てくる必要が無いのだ。

 

 果たしてどうやって接触しようかと二人で頭を悩ませていると、ふと窓の外に影が差した。

 カツンカツン、と小さな音を鳴らしたのは一羽の真っ白な鳥だった。きょとんとしたユートと目を合わせるが、この連絡手段に見覚えのあった俺はとりあえず窓を開けて招き入れる。

 

 入って来た鳥は窓際の棚の上で羽づくろいをし、頭を巡らせると俺とユートの方を向いてぱかり、と嘴を開ける。

 

《ジャズ、ユート、お久し振りです。これは魔塔の白ではなく、ただのヴァイスとしての連絡です》

 

 白い鳥から発せられた無駄に美しい低音に一瞬面食らう。やはりこれは先日別れた魔法使い、ヴァイスの魔法だったらしい。

 

《私の師匠にユートについて話した所、『是非会って話がしたい』と仰せです。なのであくまで非公式ですが────貴方がたを魔塔の白、【隠者の間】へ招待します》

 

 言いたいことだけ一通り終えた鳥は、光を放ちながらシュルシュルとひもが解けるように形を崩し、最後には羽の一片だけが残った。これが通行証代わりになるんだろう。

 

「あいつはなんでこうタイミングが良いんだ?」

 

 未来予知の魔法なんてあっただろうかと首を傾げる。一方ユートはというと、初めは言われたことが理解出来ずに固まっていたが、あまりに都合の良い内容と、好みの派手な演出に感情が爆発していた。

 

「うわ、あ、わっ、えっ、すご、すごぃぃいいい!! 何今の、超格好いい!! ていうか魔塔に招待なんて、都合が良すぎる! すごいよジャズ、あの人に俺もう足向けて寝らんない!!」

 

 部屋中どころか、結界を張っていなければ宿中に響いていそうな大声を上げたユートを宥めながら、俺は魔塔で少しでも進展が得られることを願った。

 

 

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