《完結》爆弾ランナー

コウノトリ🐣

第1話 爆弾ランナー悠真

 地区予選、僕はコースの外で部活のみんなを応援する。別に僕たちの学校はそこまで駅伝が強いわけではない。メンバーもギリギリで、この駅伝に強い想いを持つキャプテンの田中先輩が助っ人メンバーを三人連れてきた。

 そして――僕、悠真は駅伝メンバーから外された。


 正直、ホッとした。走る七人中、三人が陸上部外の野球部一人とサッカー部二人。小学校から長距離をやってきた僕にとっては悔しいけど、先輩の強い想いを聞いて、僕は走れなくなっていた。


 元々、僕の走りは“爆弾”って言われていた。時と場合によってタイムに大きなムラがあったからだ。普通に速い時もあれば、少し体力に自信のある素人を走らせたのと変わらない時もある。


 だから、外された。実際に、先輩の想いを聞いてから僕の調子はさらに悪くなった。いつもやっている軽いアップで息切れするほどだった。本当に申し訳なかった。そんな僕にも先輩は気にかけてくれていた。


「私のことはほっといて、先輩は駅伝に向けて頑張ってください」


 そう田中先輩のことを思って無理に微笑んでみたけど、この言葉は間違いだった。先輩は僕を駅伝メンバーに考えてくれていたのに、気づかず「駅伝に出る気はない」みたいなことを言ってしまったんだ。


「やる気出して頑張ってくれよ」


 不機嫌そうな表情を浮かべた先輩を前に、僕は困惑したのを覚えている。駅伝とかそういうのに不向きな僕を、先輩は期待してくれていたのに。


 みんなが「先輩を県駅伝へ連れていく」という強い想いで全力を尽くしていた。助っ人で来た二人はとても速かった。僕は彼らの前半についていくだけでもやっとだと思う。


 しかし、もう一人の助っ人・大輝先輩は、駅伝という大一番のプレッシャーに負けて失速してしまった。それでも僕たち陸上部は県駅伝に出場することが決まった。先輩は嬉しそうに微笑んでいた。


 僕は先輩にたくさんお世話になった。本当に恩返ししたいけど、口下手な僕にはどうしていいか分からない。


 僕がこの陸上部に入った頃、大型新人だって期待された。そして、期待が怖くなって練習で失速するようになった。仲間たちが「真面目に走れよ」という中で先輩だけは心配してくれた。


 駅伝を走った仲間たちの「先輩を県駅伝に連れていく」というまとまった想いの中で、僕だけが外れてしまっているような気がした。その事実が少し寂しかった。


 県駅伝でも僕はメンバーから外されるだろう。僕はプレッシャーに弱いし、そもそも僕の走り方は陸上向きじゃなかった。始めに全力ダッシュして、あとは気合いで走り切る。そんな無計画なスタンスが僕には合っていたからだ。


 それが僕にとって一番速い走り方だった。馬鹿だから、ペース配分なんて分からない。変にあれこれ考えるくらいなら、飛ばして気合いで頑張る。これが、僕――悠真のやり方だった。


長距離の練習が終わる頃、僕は地区駅伝前とは違う意味で調子が悪かった。先輩に何も返せない自分が嫌だったから。そんな僕を先輩は呼び止めた。


「悠真、大輝が駅伝に出るのは嫌らしいから県駅伝で出てもらうと思う」

「……わ、分かりました」


 大輝先輩はあの失速のことを気にしていたみたいだった。それに、大輝先輩には田中先輩と同じで大学受験が迫っている。だから、県駅伝に出るのをやめたんだろう。


 大輝先輩は先輩を県駅伝に連れていくために呼ばれたんだから、その目標も達成されている。確かに彼が県駅伝に出る必要はなかった。


 それでも、僕には荷が重い。こういうグループでの取り組みが僕は苦手だ。一人のミスが仲間の足を引っ張る。先輩や仲間たちは県駅伝で失速しても許してくれるだろう。


 仲間が許しても、僕は自分のことが許せない。悠真は一人称をコロコロ変えて自分じゃない誰かを演じ分けるほど、気が弱い。そのくせに謎に自分には厳しかった。


 その日以降、僕は「調子が悪い」と言いつつ、それなりに走れていたはずなのに、「ミスできないぞ」という心の声が僕の足を重くさせ、タイムは急降下した。


 それなのに、先輩は僕をまだ駅伝メンバーに入れてくれるらしい。それどころか「そんなにプレッシャーに思わなくていい」とまで声をかけてくれる。


 自分がミスすることを恐れて、先輩に迷惑をかけ続けている自分が嫌になった。他の仲間からは普段より「真面目に走れ」って言われている。分かってるよ、けどさ足が動かないんだ。


 そうこうしているうちに――県駅伝の当日がやってきた。

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