Cys:34 クリスタルが導く未来

「え、これは……!」


 私は思わずハッと息を呑んで、目を大きく開いちゃった。

 両手で口を押さえたまま、涙がジワッとにじんでくる。

 箱の中に入ってたプレゼントが素敵すぎて、本当に感動したの。


「耕助さん、これを私に……?!」

「フッ、お前さん以外に誰がいるんだよ」


 そう言ってニッと笑みを浮かべる耕助さんの前で、私はそっと手に取った。

 一目見ただけで分かる『コンデンサーマイク』を。

 マイクの本体の色は白で先端はゴールドで、凄くオシャレ。


───こんなオシャレなマイクにした事なんて、今まで一度もない!


 今まで自分用のマイクは買った事もあるけど、それとは全然違う。

 持つ手が震えそうになっちゃうよ。

 そんな私に、耕助さんは軽く説明してきた。


 無指向性と双指向性を含む9段階から選択可能で、2段階のローカットフィルターも装備。

 さらに本体には2段階のパッドと、10dBのブーストを設定可能なスイッチも搭載されてるんだって。


 まあ、ちょっと専門的な話になっちゃったけど、とにかく機能が凄い。

 冗談抜きで、多分100万円以上はするハズ。


「耕助さん、本当にこれ、貰っていいんですか……?!」


 プレゼントだとは分かってても、思わず尋ねちゃった。

 当たり前だけど、こんな高価なプレゼントを貰った事なんてないから。

 でも耕助さんは、いつもとまるで変わらない。

 偉そうにするわけでもなく、私の事を信に満ちた眼差しで真っ直ぐ見つめてる。


「その為に買ったんだ。まっ、大事にしてくれ」


 その言葉を受け取った瞬間、私は込み上げる嬉しさと共に、マイクを両手でキュッと握りしめた。


「……はいっ! 耕助さん!」


 私、分かったから。

 きっと、耕助さんは私を信じてくれてたの。

 リネット達の衝撃に圧倒されても、私がそれを乗り越えて決意を新たにすることを。


───だから耕助さんは、このマイクを私の為に……!


 そう思うと本当に嬉しくてたまらない。

 後、このマイク、1つ気になる所がある。

 本体の部分にピンクゴールドでキラキラ光る、ダイヤみたいなのが1つ付けられてるの。

 しかも今、一瞬キラリと光った気がするし。


「耕助さん、このマイクに付いてるのって、もしかして″クリスタル″ですか……?」


 少し頬を赤くしたまま問いかけると、耕助さんはクリスタルに目を向けた。

 何か想いを込めたような眼差しで見つめてる。


「まあ……な」


 今までの態度と違って、何か歯切れが悪い。

 このクリスタルが、きっと高価な物だから?

 ううん、そんな訳ない。

 それが付いてるマイクを渡してきた時は、至って普通だったもん。


───と、なると、もしかしてこのクリスタルは……!


 ピンときた私は耕助さんに向かって、少しニヤッと笑みを浮かべた。


「耕助さん、このクリスタルのデザインは、もしかして……」

「な、なんだよ……」


 少し追い詰められたような顔の耕助さんに、私はクリスタルを向けたままビシッと言い放つ。


「これは、玲華さんが好きなデザインですねっ!」


 決まった。

 ずっと子供扱い、まあ実際子供だけど……でもとにかく、そう扱われたり驚かされてきたけど、これは私の一本よ。

 現に、耕助さんは目をパチパチさせてる。


「なっ……」

「私が玲華さんに憧れてるのを知ってるから、一緒に歌うような気分にさせたいんですよね♪」


 けど、その予想は全然違ったみたい。

 耕助さんは呆れたように溜め息を吐いた。


「はあっ……なわけあるか。玲華アイツは敵側のボスだぞ。ったく……」


 そう零して軽くうつむく耕助さんは、片手で頭を支えてる。

 でも考えてみたら、確かにそうだよね。

 このマイクは今から戦う決意の象徴なのに、玲華さんの好きなデザインなんてありえない。

 やっぱり私はまだ子供だ。

 読みが浅すぎる。


───けど、それなら耕助さんは、何であんな眼差しで見つめてきたのかな……


 耕助さんは大人だけど、私と一緒で顔に思った事が素直に出るタイプ。

 だから、さっきのはきっと何かあるハズなの。

 それに、このクリスタルは何か不思議。

 ただのクリスタルじゃなくて、何というか、こう″魔力?″みたいなのが宿ってる気がする。

 まあ、思い過ごしだと思うけど。


───でも、本当に綺麗だなぁ……なんか″別世界″の宝石みたい……


 そう思った私は耕助さんに言ってみた。


「もしかしてこれ、魔法使いの人が作ったんですか? 不思議な″魔力″が込められてるとか♪」


 もちろん、これは冗談。

 本気で思ってる訳じゃない。

 ただ、あまりにも浮き世離れした綺麗さだから、ちょっと言ってみたの。

 けど耕助さんは、えっ?!と、いった感じで目を大きく見開いた。


「ん? あ、ああ……まあ……大体、正解だ」

「……へっ?」


 私は思わず変な声を漏らして、少し呆けた顔で耕助さんを見つめてる。

 耕助さんが嘘をついてないのが、一瞬で分かっちゃったから。

 もちろん、耕助さんはよくギャグや冗談を言うけど、だからこそ今のは本気だっていうのが分かるの。

 今の声のトーンや表情に、嘘や冗談は全く感じられない。

 でも、だとしたらどういう意味なのかも全然分からないけど。


「このクリスタル、本当に魔法使いが作ったんですか?」

「う~ん……その“魔力クリスタル“は……まあな。分からんよな。うん、分からん。分かる訳がない……」


 耕助さんは胸の前で腕を組み、軽く斜め下に視線を落として自分にも言い聞かせるようにつぶやいてる。

 でも、当たり前だけど、私だって何がなんだか全然分からない。

 “魔法使い“とか“魔力クリスタル“とか何だろう。

 自分から振った冗談で、こんな不思議な事になるなんて思わなかったよ。

 そんな風に思う中、耕助さんがこのモヤモヤを切るようにパンッと両手を叩いた。


「まっ、気にするな澪。魔法使いってのはもちろん比喩だ。ただ、本当にそうなんじゃないかって思っちまうような……不思議な奴がいるんだよ」

「不思議な人、ですか?」


 キョトンとしながら少し首を傾げた私の前で、耕助さんは少し斜め上を見ながら片手で頭を掻いてる。

 困ったように顔も軽くしかめてるし、なんか説明が難しいのかもしれない。

 

「ああ。まあ、いずれ会わせてやるよ。ただ、今はまず……」 


 そこまで言うと耕助さんはソファからザッと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべて私を見下ろした。


「AIドルオーデションでAIドル達アイツらに勝つために、これから早急に作るぜ。最強最高の“チーム“をよ!」


 力強い笑みを浮かべて告げてきた耕助さんを、窓から差し込む光が斜めに照らしてる。

 私は片手でマイクを握ったまま、その姿をハッと見上げた。


「最強最高のチーム、ですか……?」

「そうだ。澪、お前さんを磨き上げる為にウチに呼ぶのさ。最強のトレーナー達をな」


 なんか凄く強いワードが出てきてるけど、不思議と荒唐無稽には思えない。

 さっきと同じように、耕助さんが本気で言ってるのが伝わってくるから。

 ただ、魔法使いの話の時とは違って本当に堂々としてる。

 モヤッとする感じはなくて、凄くワクワクするよ。


───ここから本当に始まっていくんだ。AIドル達の戦いが……! どんなに大変でも、必ずやってみせる!


 私が心でそう決意した時、マイクのクリスタルが再びキラリと光った気がした。

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