第2話 まさかの再会!
そんな事があった一週間後。まさか、こんな事態になるとは。
いつもの様にカフェで仕事をしていたら「アニータという女性はいるか?」と20代ぐらいの男性に呼ばれました。そして言われるがまま外に出ると、そこには豪華な馬車が止まっているのです。その中から、あの時の少年が出てきました。
「アニータ、会えて良かった」
笑みを浮かべる少年に対して、私は訳が分からず目を白黒させるだけです。
「あぁ、名乗っていなかったな。僕は、この国の第三王子のセドリックだ」
はぁ~~~?!?!
えっ、王子だったんですか? え、嘘でしょう? あ、あの庭は王族以外男子禁制。つまり、あの場所にいた彼は王族という事。ていうか、あの場で聞いた『カエル王子』って、どう考えても此の少年ではないですか。何故、気づかなかったのか。どうしましょう。私、無礼な態度とか取ってなかったです?
「オスカーとメアリーの子どもを守ってくれた君に礼がしたくてな」
「そ、そうですか」
「それで君を探したのだが……あぁ、中に入っていいか?」
王子の言葉に、私はハッとしました。そうですよね、このまま店先で立ち話って訳にもいかないですよね? えっと、お店の中にお招きしても大丈夫です?
私はガバッと振り返り、店長を見ました。店長は、躊躇いながらも頷きます。そうですよね、ここで入店を断る訳にはいかないですよね。無礼討ちにされてしまうかもしれませんからね。
「えぇ、どうぞ。王子様からすれば」
あ、何と言いましょうか。質素とか、このお店を落とす言い方はしたくありません。かと言って、優美さに欠けるとか言うのも違う気がします。えーっと、えーっと。
「そ、素朴な店ですが、どうぞ。こちらへ」
精一杯の語彙を使い、私は窓際の一番良い席へと案内しました。突然の王子の登場に、お店にいたお客さん達は慌てながら勘定を済ませると外に出ていきます。そのため、店内は王子様の貸切となりました。
「穏やかな雰囲気で良い店だな」
「ありがとうございます」
絢爛豪華な王城に暮らす王子様からしたら、ショボい店内でしょうに。褒めてくださるとは、気遣いの出来る良い王子ですね。
「あの時、気づいたら君がいなくなっていたから慌てたぞ。ちゃんと礼もしていないのにと。でも王城に出入りする人間は、しっかりとチェックしているから難なく君の名前と仕事先を知る事が出来たんだ。自分が王族で本当に良かった!」
ハハハッと笑う王子。
王族で良かったポイントが、そこで良いんですか? 権力誇示ポイントが、そこですか?
私が心の中で突っ込んでいると、店長の奥さんである女将さんが紅茶を持ってきました。
「そ、粗茶ですが」
その手が、めちゃくちゃ震えています。カップがソーサーに触れてカチャカチャと鳴っていますし、その揺れで紅茶がチャプチャプと。あ、あっ、零れる、零れる!
万が一、紅茶の一滴でも王子にかかってしまったら! 大変な事になります! 無礼討ち待ったなしです!
私は女将さんから紅茶を受け取って、王子に差し出しました。
「ありがとう」
王子は早速、紅茶に手を伸ばそうとしています。ん、あれ、王族といえば―――
「あ、毒見とか必要ですか? それなら、私が」
もちろん毒なんて入っていませんが、王族といえば毒見じゃないですか? え、偏見です?
「あぁ、大丈夫だ」
そう言いながら王子がカップに触れようとした時、傍に仕えていた男性が声を掛けました。
「セドリック殿下。あちらの植物は、殿下の飼われているメアリーに色合いが似ていますね」
「何!」
言われて、王子は少し離れた窓際の鉢植えを凝視しました。王子の意識が削がれた一瞬の隙を突いて、男性が紅茶を一口飲みます。そして素早く紅茶を戻すと、コクリと頷きました。おそらく毒が入っていない事を確かめたのでしょう。
頷く男性が顔を上げた時、パチリと目が合いました。その目は“内密に”と言っている様だったので、私も“分かりました”の意を込めてコクンと頷きます。
王子は鉢植えから視線を戻すと、何事もなかったかの様に紅茶に口を付けました。
「うん、紅茶だな」
本当、気遣ってくださる良い王子ですね。日頃、高級な茶葉を使った紅茶を飲まれているであろう王子からすれば、この紅茶なんて美味しくはないでしょう。けれど、マズイとは言わない優しさ。何様目線で言わせていただくと、配点ポイントは高いですよ! 女性よりカエルが好きな時点で、マイナスから始まっていますけどね!
王子が紅茶に不満を漏らさなかった事に安堵した女将さんが、小声で耳打ちしてきました。
「お茶菓子は、どうする? 何をお出ししたらいいのか」
そうですよね、迷うところですよね。ですが、ケーキ等はダメです。毒見をしたら形が欠けて、こっそり毒見をしている事が分かってしまいます。ここは―――
「小分けのものを。クッキーとかマドレーヌとかが良いと思います」
「あぁ、そうね。マドレーヌにしましょう。この店の売りだからね」
女将さんは、そそくさと戻って行きました。
実は、このマドレーヌ。この国にはないスイーツなのです。そうです。前世の記憶を使って作りました。他にも、このカフェで扱うスイーツには前世の物があります。新しいスイーツだと人気なんですよ。おかげでカフェの売り上げは上々。私の給金も上々。良い事づくめですねぇ。
程なくして、女将さんがマドレーヌを持ってきました。あ、また手が震えています。落ちる、落ちる! あ、一つ落ちました。もはやテーブルに置く前に、マドレーヌが皿から消えてしまう勢いです。何故、山盛りにしたのですか?
私は、すぐさま女将さんから皿を受け取りました。
(※落ちたマドレーヌは、後でスタッフが美味しくいただきました)
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