第24話

 魔法のおかげで普段あまりしないで済んでいる掃除とかの家事。そういうのを気合い入れてやって時間を潰していると、ラナが私を呼びに来た。言われるままに倉庫へ付いて行く。


 ラナの目的は昨日にらめっこしていた種の袋。


「ナーゥナゥ、ナナゥ」

「ホントに!?」

 

 使い物にならない種が分かるかもしれないらしい。魔法の効きの良し悪しで判断するみたい。

 魔法は生物に対して効果が薄まる特性があるとか聞いたことあるから、そういうことなのかも。種の種類ごとに魔法抵抗も違うだろうからそれだけじゃないんだろうけど、とりあえず分かるみたい。まあ分かるなら何でも良いし気にしない!


 ラナに種の袋を次々と判別してもらう。一回一回はなんてことないけど、数が多いから大変だ。私よりもラナの負担が大きいみたいで、全部終わる前にギブアップとなった。慣れない魔法の使い方だろうしそりゃ疲れるよね。



 昼食を終えボードゲームをする気分でもなくゴロゴロしていると、地響きが伝わってきた。慌てて飛び起きる。二度、三度と続き、止まった。ラナとノクルと目を合わせるけど、私と同じく家から出てない二人に分かるはずもない。

 不安になりながら待っていると、玄関の開く音がしたかと思うとユフィの呼ぶ声も聞こえた。


「ユフィ!」


 すぐに駆けつける。


「ミミ˝ッ」


 気楽な声で「終わったよー」と言いかけたところに私が抱き着いて、声が途切れた。



 思う存分ユフィを揉みくちゃにして落ち着いてから、外に出る。


「ミャ」

「ナー」


 生い茂っていた植物は、ひとまず通行する部分を確保するために最低限が刻まれて一カ所に山盛りで置かれており、ノクルに溶かして貰うようだった。

 刻んだ本人であろうモモがやって来てノクルに注文をし始めた。私は一旦それらを無視して、町が見えるところまで行く。


「わーお……」


 滅茶苦茶だ。特にモンスターがやって来たっていう西側の方は、つい先日まで普通に人が暮らしていたことが信じられないほど崩壊している。特徴的なのは、いたるところに木や草が生い茂り、既に町が壊れて数十年経っているようにも見えるところだ。現実感が乏しくて悲しいとかそういう感情があんまり湧かない。


「あれってエルフ?」


 姿が直接見えたわけじゃないけど、自然に反したような独特な生え方の巨木はエルフによるものだと聞いたことがある。


 木の陰になっていて見え辛い部分に、モンスターと思しき巨体も見えた。目を凝らしてよく見ようとしていると、恐ろしい圧力を感じて腰が抜けた。


 ストンッとお尻が地面に落ちた。足腰に力が入らない。


「ミャミャミャー」


 倒されたモンスターの近くにいたエルフに睨まれたってことみたい。エルフは森に帰るまで緊張状態を保ったままだから、そろそろやめておこうとユフィに引っ張られ振り返る。


「うわ、こっちもこっちですごいね」


 家は完全に植物で覆われていてほとんど見えない。木じゃなく草のはずなのに、家より大きく育っているものばかりだし、蔓は家を抱きしめているようだ。片付けに苦労しそうだけど、ノクルがバンバン溶かして煙が上がっているので意外とすぐ終わるのかも。

 ただ、溶けて液体になった成分が溢れて丘から流れてしまっている。もったいないような、危ないような。あくまで溶けた後の液体だよね?


 無事な作物なんてあるはずもなくて、全部ダメになってる。完全にリセットしないとだけど、ここまで来ると分かり易くていっそのこと助かるかも。



 町で何が起こったか、ユフィに軽く聞いてみる。


 一日目はこの家を守る事だけ考えて、ほぼ待機していただけ。二日目はエルフを連れた冒険者が町へ赴き、衝突が始まった。


 町へ来たモンスターは町をそのまま利用しようと考えていたのかあまり破壊活動はしなかったみたいだけど、エルフたちは触手のように根だか幹だか枝だかが伸びまくる木の魔法を付与した矢を打ち込んで、容赦なく町を蹂躙したようだ。

 その魔法同士が互いに干渉して効果を発揮しなくなった後、町へ乗り込んだ。このときミルスたちも協力して、モンスターとの本格的な戦闘が始まった。


 細かい話はよく分からないけど、待ち伏せや罠を警戒して二日目は偵察がメインで、三日目の今日に畳みかけたんだそう。冒険者とエルフが流石だったと、褒めているよりは皮肉で言ってそうな感じ。何か嫌なことあったのかな?

 ミルス側は今日ほとんど何もしていないそうだ。


「ノァ」

「ピピィ」


 モモがエルフを呼んだみたいで、ノクルの元上司は戦いたかったみたいで不満を漏らしている。



 因みにエルフは今、元気に町を略奪中。モンスターのものだろうが町の住民のものだろうがお構いなし。廃棄されるかもしれない町だったので仕方がないというか正当な戦果だし、タダでモンスターを滅ぼしてくれたと考えればお釣りが来る。

 冒険者であっても、同じことをすることがある。言ってみれば町は一回モンスターたちのものになって、そのモンスターを倒した冒険者のものになって、最後に町の人たちの元に残りが帰ってくるだけ。


 それでも町の南側は少し使える施設もありそうだし、これならミサキさんも喜びそう。みんな町に戻って来てくれる可能性も高い。独りぼっちになることはなさそうで嬉しい。


 ただ、ノクルの上司はこれくらい暴れて良いならエルフなんていらなかったと言ってた。

 そう言うってことは、町の被害を考えながら戦ってくれてたのかも。怖そうな雰囲気があるけど、結構優しい?


 後から聞いた話だけど、ミルスが大規模に戦うのはユフィとモモがわざと防いだみたい。ミサキさんも助かったとユフィにお礼を言っていた。

 しっかり考えている人たち曰くそういうのはやらない方が良くて、エルフにやってもらったのはすごく良いアイデアだったそうだ。


 どれだけ仕方ないと分かっていても、我慢できないことはある。

 エルフは元から仲間どころか敵寄りだと思ってる人が多いし、身近でもないから略奪されてもわざわざ怒ったりしない。怒ったところで何もできない。


 でもミルスは友好関係があるから、壊されたり盗られたりすると文句を言いたくなってもおかしくない。どのミルスがやったか分からないし、公園で誰かに怒って喧嘩になることもあるかもしれない。この町から出て行きたくなることもあるかもしれない。


 そういうリスクを防ぐために「エルフがやった」ということにしておいた方が良いんだって。嘘を付くとどこかでバレたとき大変になるから、本当にやってくれた今回は最良の結果だったとか。


 エルフの人たちに責任を押し付けてる感じがするし他の問題がありそうだけど、ガス抜きがどうとか、エルフの存在を忘れさせないためだとか、色々言ってた。


 分かるような、分からないような。私に分かるようなことじゃないからこそ、ミサキさんみたいな頭の良い人が頑張ってくれてるんだろうけど。


 こういうのが政治ってものなのかな。

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