第19話
リフォームをして部屋も増えたので、家具や雑貨を買いに町に出た。
ユフィとラナもいる。私だけじゃ運べないし、折角ならみんなで見て選びたいもんね。
ノクルが来ていないのは当たり前な気もするし、不思議な気もする。なんとなくうちに来る機会も増えてるし受け入れ態勢はできてるけど、まだ家族ではないからね。
「うーむ……」
可愛くて格好良いアンティーク風の椅子がある。とても良い感じで欲しい。だけどこの椅子をどこで使うかというと……。
みんなで集まるのは和室だし、土間にはあっても良いんだけど合ってはないし、邪魔になることもある。客間になら置けるけど、椅子は既にほとんど使っていないやつが余分にあるし追加する意味もない。ぬぬぬ。
今客間にあるシンプルな椅子は外に出して、畑仕事の休憩用に使うというのもありかも?農園前がちょっと洒落た雰囲気になって良いかもしれない。
ただ、そういうのって結局作業や導線の邪魔になったりしがちだよね……。かといって敷地の端の方に作ると、使わなくなって風化していく未来が見える。
難しい。非常に難しい。
そもそも、そうやってこの椅子を購入したとしても、結局客室にあるだけなら意味があんまりないのでは?買うなら私が使いたい。でも私の部屋のやつは、ユフィが乗りやすいやつにしておきたいからこの椅子ではちょっと小さい。
あーでもないこーでもないと考える。
「ミャー……」
「ナゥ?」
「ミミャ」
いや……でも……。
「ミャーミャー」
一日に椅子に座っている時間がどれだけあるんだと咎められながら、ずるずるとユフィに引っ張られる。
くぅー、洋室にしておけば……。いやそれはユフィたちと距離が開いて嫌だな……。
「ミャ!」
「……そうね」
とりあえず、先に必要な物を買おう。拡張した倉庫用の脚立とか、そういう面白みのない物。
「うーむ」
「ミャ。ミミ」
「あ、はい」
脚立はとてもコンパクトに仕舞えるやつが面白そうだったんだけど、ほぼ出しっぱなしになるから意味がないと一蹴された。
あとは荷物整理に必要そうな統一されたサイズの箱をいくつかと、外用のテーブルだか台だか。そして扱いやすいサイズの木材など。
最後に、増えた客間用の机とベッド。そして椅子を……。うーん、この効率重視の机とベッドの横に洒落た椅子を置いても浮くかなぁ。椅子を入れ替えるなり追加するなりすることにしても、これならいらないか。
やるならベッドや机も合わせなきゃだけど、ベッドは洒落てるやつってなんか嫌いなんだよね。安心して寝たいのに耐久削ってたりする感じが受け入れられない。でも寝るとしても私じゃないか……。
「ミャー」
「ナーゥ」
二人の白い目が刺さるし、今日のところは止めておこう……。ノクルだったら分かってくれたりするのかな?
◇
「では、今日も頼むよ。いつも通り、何かあればすぐに呼んでもらって構わない」
今日は仲人の仕事の日。やりやすい人が相手だと良いなぁ。
「よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
今回の依頼者は服装も性格も落ち着いている印象を受ける女性。
早速目的のミルスを公園で探し始める。
「リコさんは、どうしてミルスの言葉が分かるようになったのですか?」
「ミルスの中で生活していたからだと思いますよ」
単純明快な理由。すっごく大変だったけどね。
「そうなのですね。……私も、同じようになれるでしょうか」
「どうでしょう。私は運が良かっただけだと思うので、明確な方法があるわけじゃありませんし、アドバイスのようなことも出来ません」
「それこそミルスの皆さんに聞くことは出来ないのですか?」
「聞いたところでバラバラな答えが返ってくるだけですよ。ミルスだってそれぞれ考え方は違いますから」
この手の質問は多いんだけど、私としては何も答えられない。ユフィは私みたいな人なら可能性はあるって言うけど、そもそも私みたいな人って何だろ。ミルスが好きなのは、この人たちも同じだろうし。
「あれ、おかしいですね。今見て周ってきた場所に普段はいるのですが」
「なるほど。一旦手分けしましょうか。もしかしたら私が原因ということもありますので、その場合は私の仕事が不達成という形で大丈夫です」
「仲人であっても、そんなこともあるのですね」
「ミルスはそれぞれの個性が強いですから。仲人というものが癇に障るという事もあり得ます」
手分けして探し始めると、聞いていた特徴と一致しているミルスはすぐに見つかった。この公園の常連さんで、私も何度か話したことがある。
こちらの事情は把握しているみたいで、すぐに意図を教えてくれた。私が嫌いということじゃないけど、少なくとも私を通してあの人と話したくはないということだった。理由までは教えてくれなかったけど、それだけ分かれば十分だ。
依頼人の元へ行き、事情を伝える。
「先ほど見つけましたが、やっぱり私が嫌みたいでした。申し訳ありません」
「あら……。こちらこそ何だか申し訳ありません」
無事不達成ということで、一旦仕事を終える。早々に終わってしまったけど、今日は二件あるのでそれまで公園をブラブラして時間を潰す。
なんだかなー。って思う。
早い話、あの子は貢がせたいだけの子だ。ホストだかキャバクラだか、あんまり詳しくないけどそういうやつと似たような感じ。以前は私を通すことで要望を伝えたことがあったけど、今回は話すことによるデメリットを気にしてるとかそんな感じなんだと思う。
「ノノ?」
「今は散歩してるだけー」
仕事中は空気を呼んでミルスからは話しかけてこない。ミサキさんみたいに仕事してます!って雰囲気を出せるわけでもないから、私じゃ同じように察せられなさそうだけど、みんなよく分かるよね。
話しかけてきた薄紫色でユフィを少し小さくしたような見た目の子と、座り込んでそのまま会話を続ける。
あんまり見覚えはなかったけど、向こうは私をよく見ていたらしい。話を聞いてると、この公園の事情通みたいで面白い話を聞けた。
公園にいるミルスは大きく分けて三種類。興味本位、タダ飯食らい、その他。それぞれ六割、三割、一割くらいだぞうだ。
この内人間の元へ行く可能性があるミルスは、基本的にその他枠の一部だけ。興味本位枠は、そのうち飽きて来なくなるかタダ飯食らいに移行する。
「ノノンノ、ノンノ」
私にこの話を持ち掛けた理由は、タダ飯食らいに対しての仲人の仕事は拒否して欲しいという提案をするためだったみたい。
この手のミルスたちにとっては、基本的に人間と話す意味なんてない。それどころか、話すことによってご飯をくれる人間がいなくなったりする。だったら最初から話さない方が良い。とのことだ。さっきの子の方針転換も、これを気にし始めたのかな。
時にはそれまで大人気だったにも関わらず決して懐くつもりがないミルスとして一気に噂が広まり、誰も寄り付かなくなるなんてこともあるんだって。そうしてここを去ったミルスもいるんだとか。
……ノクルのことかな?
だとしたら少し事情は違いそうだけど、なんか時期的にもそれっぽさを感じる。
「うーん、話は分かったけどどうだろう。出来るか分からないけど、一応そのお話したくない子たちを集めてもらって良い?」
依頼を断るにしたって、どのミルスか分からなければどうしようもない。すぐに集めるのは難しそうなので、明日またこの公園に来ることになった。
時間近くになったので、次の依頼人に会いに待ち合わせの喫茶店へ行った。公園前集合と決まっているわけじゃないから、今回みたいに近くの喫茶店になることもある。
これまた女性……あれ、見覚えのある顔。町の人だったはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます