異星の巨人、戦地に咆える
根ヶ地部 皆人
異星の巨人、戦地に咆える
「通信員より調査員へ、重力子振動送信」
「調査員より通信員へ、重力子振動送受信。感度良好」
「こちら通信員、重力子振動受信。感度良好。君の潜伏先に、隣接地域からの侵略行為があったそうだが」
「化学反応による爆発を利用した、原始的な飛翔体による遠隔攻撃だ。直撃しても私の肉体は損傷しないと判断している」
「その判断は正しい。しかしその星の原住民が耐えられるものではあるまい。攻撃に巻き込まれた際は周囲の被害を観察し、君の擬体に負傷として反映するように」
「了解した。ありがとう」
「アリガトウとはなんだ?」
「君の行為、今回は先ほどの忠告によって、私が
「その星の原住民は、感情を言語化できるのか」
「通信員より調査員へ、重力子振動送信」
「調査員より通信員へ、重力子振動送受信。感度良好」
「こちら通信員、重力子振動受信。感度良好。大勢の原住民とともに移動しているようだな」
「隣接地域からの攻撃が激化しているため、近隣の住民と児童学習施設へ避難しているところだ」
「避難するのに分散せず、逆に集合するのか? 児童学習施設が避難先になっている理由はなんだ?」
「児童学習施設と負傷者治療施設への攻撃は、侵略行為でも禁止されているらしい。そこへ避難すれば戦闘に巻き込まれることはないとのことだ」
「侵略者も遵守する規則があるのか」
「私もまだ理解しきれていない。住民たちがそう言っている、という話だ」
「こちらも原住民の通信などから分析してみよう。情報は共有する」
「ありがとう」
「調査員より通信員へ、重力子振動送信」
「通信員より調査員へ、重力子振動送受信。感度良好。何か問題でも発生したか」
「こちら調査員、重力子振動受信。感度良好。戦闘を行っている両陣営からの電波放送に矛盾する内容が多く、避難民たちが混乱している。そちらで何か分かったことはないか」
「情報の収集と分析は進めているが、原住民への伝達は禁止されている」
「わかっている。私が状況を確認したいだけだ」
「そうか。現在判明していることは、君の潜伏先の政府は隣接地域より侵略されていると表明していること、そして隣接地域の政府は君の潜伏先の不当に弾圧されている住民へ武力支援を行っていると表明していることだ」
「なんだと。不当に弾圧されている住民など、存在しない」
「では隣接地域は現状を誤認しているか、それとも侵略行為を正当化しているのだろう」
「腹立たしいことだ」
「ハラダタシイとはなんだ?」
「私が
「君は少しその星の影響を受けすぎているな」
「調査員より通信員へ、重力子振動送信」
「通信員より調査員へ、重力子振動送受信。感度良好。現状に大きな変化はないぞ。攻撃行動は続いている」
「こちら調査員、重力子振動受信。感度良好。こちらには変化があった」
「どうした?」
「食料の備蓄が少ない。早急に戦闘が終わらねば、避難民たちが餓死してしまう」
「君の貯蓄熱量には、まだ十分な余裕があるはずだが」
「私の問題ではない。避難民たちの問題だ」
「超空間倉庫も時空間輸送もない文明だからな。その問題は原住民には解決できまい」
「何か方法はないか」
「異星からの侵略であれば君が戦闘に介入し、終結させることも可能だろう。しかし原住民同士の問題に、我々が手出ししてはならない」
「わかっている。しかし、それでも何かできることはないだろうか」
「……摂取熱源は個体ごとに管理されているのか」
「いや、食料は全員分を備蓄倉庫にまとめて保管している」
「では君の擬体へ割り当てられた熱量を、周囲へ記憶操作を行って備蓄倉庫へ戻すのはどうだ。本来それは君に不要なものだからな。原住民へ返却するべきだろう」
「食事のたびに一人分節約できるな。ありがとう。恩に着る」
「オンニキルとはなんだ?」
「君の行為に私が何らかの返礼をしたい、という意思の表明だ」
「任務を遂行しているだけだ。返礼は不要」
「通信員より調査員へ、重力子振動送信」
「調査員より通信員へ、重力子振動送受信。感度良好」
「こちら通信員、重力子振動受信。感度良好。君が避難している児童学習施設へ、隣接地域から攻撃的飛翔体が発射された」
「そんなはずはない。ここへの攻撃は禁止されているはずだ」
「隣接地域の政府は、そこが児童学習施設を模した兵器工場だと宣言した」
「その宣言は嘘だ。兵器製造など行っていないし、ここに居るのは子供や老人も含む非戦闘員だけだ」
「宣言の真偽は我々の関知することではない。まもなく飛翔体が着弾する。計算では避難民の8割が死亡し、2割が重傷を負う」
「そんなことは許されない」
「我々の関知することではない。君は飛翔体の着弾前に、擬体の損傷準備を行いたまえ」
「擬体解除を申請する」
「何を言っている。その申請は受理しない」
「戦闘形態による飛翔体の迎撃を申請する」
「その申請は受理しない。原住民同士の問題へ介入すべきではない」
「殺戮行為から住民を守るため、戦闘行動を行う!」
「却下だ、調査員。調査員? 応答しろ! その行動は許可されない!!」
突如として出現した光る巨人は、迫るミサイルを光熱波で迎撃したうえで、さらに発射地点を薙ぎ払った。
この事実は大規模な記憶操作と電子情報抹消処理により一切記録に残らなかったものの、一部の観測者が残していた肉筆による文章やスケッチが、地球の人々に神の奇跡として認識されることとなった。
暑い。
靴底の下でアスファルトが緩むような暑さだ。
そんな暑さの中をサングラスで陽光を遮る、しかし真っ黒なビジネススーツを着こんだ男が二人、汗一つかかずに歩く。
「7公転周期振りか」
「私がこの星に降りるのは、初めてだがね」
トラックが砂埃をあげて走り抜けていった。夏の暑さと果敢に戦う
「あの若者、見覚えがある」
「個体照合。よく判別したな、素晴らしい。彼は君とともに児童学習施設へ避難していた住民の一人だよ」
「まだ戦争は終わっていないのか。私の行為は無意味だったのか」
「ああ、戦争は終わっていない。しかし立場は逆転した」
歩みを止めぬまま、男の一人がもう一人へと顔を向ける。
よく似た二人だ。どちらが先ほど口を開いていた男なのか、判別できない。
「児童学習施設を襲った飛翔体は、神の奇跡によって墜落した。侵略された側には神の加護があった。そう言って、彼らは世界を味方につけて逆に攻め込んでいるのだ。先ほどの兵士はこの2公転周期の間に、隣接地域の戦闘員を5名、非戦闘員を2名殺害している」
熱い風が吹き抜け、ざらついた砂で黒服の男たちをなぶる。
「通信員より調査員へ。君への処罰は撤回された。すみやかに任務へ復帰するように」
厳しく照りつける陽光の下で、男たちの片方が足を止めた。しかし、もう一人の男はそのまま歩み去ってゆく。
「君の行動は許容されるべきものではなかったが、結果的に君が言った通り無駄だった。この星の原住民同士が殺し合いを続けるという未来に、君は一切の影響を与えなかったのだ。私が上層部へそう報告した結果だ。オンニキルと良い」
異星の巨人、戦地に咆える 根ヶ地部 皆人 @Kikyo_Futaba
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