憧れの人と再会するために、第一皇女が騎士学校に通います

天霧 暁燈

第1話 エピローグ

「ねえ、お父様。私、騎士になる」





見飽きた窓からの景色。食べ飽きた美味しい食事。私は何不自由ない生活を送っているのに、どこか物足りない、つまらない日々を送っている。このまま大人になって、いつか誰かと結婚して、そして子供が生まれて…

「はぁ、なんて夢のない未来なんだろう」

と、空を見ながら思わずため息が溢れていた。

「ケリシアお嬢様。第一皇女様となられるお方が、何をおっしゃるんですか。」

と、後ろからばあやが呆れながら言った。

「あなた様はこれから社交場でたくさんの人と出会い、そしていつしか素敵なお方と恋に落ち、そして結ばれ、皇帝のご加護のもと素敵な結婚式をお挙げになる。とても幸せな未来が待っているではありませんか。今は、まだ幼いから分からないかもしれませんが、お嬢様はとても恵まれているのですよ。それなのに、そんなに未来を悲観なさらないでくださいまし。ばあやは悲しくございますよ。」

と、言われた。

ばあやは、度あるごとに私がどれだけ恵まれているかということを話してくるが、実感したことがなかった。だって、ずっとお城から出してもらえず、毎日決まりきった生活を送っているからだ。勉強している時だけは、世界が広がっていると感じることができたが、それ以外の時は基本的に自由時間で、お城の中に閉じ込められている。唯一の遊び相手である侍女の子供であるプラシは、最近あまり遊びに来てはくれず、一人寂しく本を読む日々が続いていた。



ある日の夜、

「ねぇ、ばあや。お城の外の世界ってどうなっているの?私一回行って見たいのに、お父様ったら、『危ない』の一点張りで、決して行かせてくれないのよ。もう、お城の中は退屈すぎて窮屈だわ。」

と気軽に聞いてみたら、ばあやがしばらく黙ってしまったので、失言だったのではと心配になった。だが、しばらく経ったあと、ばあやは笑顔になって、

「あと4年後、お嬢様が学校にお通いになさる時がきたら外に出られると思いますよ。それまではお父様である皇帝陛下の言うとおり、安全なお城の中にいらしてください。では、おやすみなさいお嬢様。」

とだけ言って、立ち去ってしまった。

今から考えると、私の好奇心旺盛の性格からして、外のことを話すと、私が外に出る危険があると思い、ばあやが話さなかったのだと分かるが、あの頃の私にとっては、何も教えてくれないという状況ほど好奇心を揺さぶるものはなかった。

そして、この日が私の人生を変えるということを、私はまだ知らなかった。



夜、みんなが寝静まった頃、秘密の通路から部屋を抜け出し、こっそりと親友であるプラシのところへ向かった。プラシの母親が今日は屋敷を出ているという情報を手に入れていたため、部屋に入るや否や、プラシのベッドの上にダイブした。顔を覗き込むと

「こんな夜中にどうしたのよ。私は寝てたのよ。」

と、眠そうな目を開きながら、少しムスっとしたプラシの声が聞こえてきた。

「わぁ、久しぶりのプラシだ!ずっと会いたかったんだよ。」

と、久しぶりの再会を喜ぶ私とは反対にプラシは機嫌が悪そうだった。

「はいはい、久しぶりに会えたね。じゃあ、もう寝よっか。」

と釣れないプラシに私は、ちょっとタンス漁るね、と許可を取る前からタンスを漁り始め、中から二人分の服を取り出した。

「よっし、プラシ、手をあげて。パジャマ脱がすから。」

「ちょっと、どこ行くの。なんで着替えるの?」

「いいから、いいから。ねぇ、今から外の世界に行ってみない?」

と、言った時、今まで不機嫌そうだったプラシの目が一瞬光った気がした。

「外の世界?」

「うん、私たち、今まで生まれてからずっとお城の中にいたじゃない?私、もう限界なの。だから、二人で一緒に外の世界見に行かない?もちろんみんなに内緒で。じゃないとお父様が怒っちゃうもん。」

「でも、お城の前にも、色々な部屋の前にも兵士の人たちが立ってるよ?抜け出せなくない?あれ、そういえばケリシアはどうやってここまで来たの?」

「えへへ、実はね、本を読んでいる時に、偶然お城の抜け道が書いてある地図を見つけちゃって、それを通って来たんだ。その道はずっと使われてないから、誰にも見つからないと思うよ。」

それを聞いた途端、

「よっし、じゃあ私たちだけの冒険を始めるか。」

と、プラシが立ち上がり、秘密の抜け道を出て、私たちはお城の外に初めて出た。

気のせいか、お城の外は少しだけ空気が軽い気がした。

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