第2話

 大学を卒業し、中小企業に入った。

 毎日、似たような仕事を、けれどもきちんとこなした。


 あっと言う間に5年の月日が流れた。

 この5年間、小さな上がり下がりはあったが、僕の運勢が凄く良くなったり悪くなったりすることはなかった。



「お見合いをしてみない?」

 母にそう言われたのは27歳の春だった。

「なんでだよ。まだ結婚なんて考えてないよ。それに好きでもない人と結婚だなんて、相手に失礼だろ?」

「好きになれる人かどうかは、会って話してみないとわからないじゃない」

 まあ、母の言うことも一理ある。

「会ってみるだけ会ってみれば?」

「会ってみるだけになると思うけど……」

 僕は渋々、母の提案を受け入れた。



 絵に描いたような、定番の見合いの席。

 僕は両親と一緒に席に向かう。

 そこには品の良いスーツを着た父親と、鶯色の着物を着た母親、そして、桜色の着物を着た娘、涼子りょうこが立っていた。

 父親が、天気がどうとか言っていたが、僕の目はその時、涼子に釘付けになっていた。

「この人だ」

 と思った。

 何故だかわからない。

 僕は、この人と結婚する。そう思ったのだ。


 食事の後、定石通り、「若い人だけで」と、庭園の中を散歩させられた。

 僕は、思い切って、さっき思ったことを言ってみた。変な人と思われれば、結婚話はここで終わりだったのだけれど。


 「不思議な話なんですけど……僕は、涼子さんを一目見て、あなたと結婚するだろうと思ったんです」

 そう言うと、彼女はびっくりして、次に可笑しそうに笑った。

「ああ、言わなきゃよかった。恥ずかしい」

 そう思った。が、

「なんて偶然なんでしょう。私もそう思いました」

 彼女は僕の目を真っ直ぐ見て、また笑った。


 トントン拍子に結婚は決まり、翌年の秋には長女、佳代子が生まれていた。

「絵に描いたような幸せな家族ね」

 誰にもそう言われるほど幸せだった。



 が、40歳になった時、僕の人生は激変する。

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