第5話

江戸川浩文部科学大臣は、今日は核融合のシンポジウムで、幕張メッセに来ていた。核融合というのは、未来のエネルギーとしてまさに注目されている技術だ。日本を始め、アメリカ、中国、ヨーロッパ諸国、ロシア、韓国、インドなどの諸国が共同で研究を進めている。

 核融合は、環境を汚さない技術として期待されている。二酸化炭素を出さないし、温室効果ガスも出ない。少なくとも原発よりも安全である。原料は重水素と三重水素で、共に海水の中に豊富に存在する。三重水素はリチウムからとる。一グラムの重水素から、石油六トン分のエネルギーを得られるので、エネルギー効率が大変良い。

 しかし、三重水素は放射性物質であるから危険である。炉の中は放射線に晒され、放射能を浴びる。これは、原発と同じ危険性である。そして、低レベル放射能廃棄物として処理するべき核のゴミもでる。これが難点であった。

 しかし、日本では湯川秀樹博士が発起人となり、その時代から研究が進んでいたものであるので、日本にも核融合は研究の地盤が十分に育っており、将来の実用化への期待も大きい。江戸川文科大臣は、将来生かされるべき大切な研究として扱っているのだった。


 幕張メッセでシンポジウムに参加している者の中に、脱原発推進派の日本共産党の国会議員がいた。そして、そのシンポジウムの中継動画を、たまたま美寿々がインターネットで見ていた。

 美寿々は初めて核融合について詳しい説明を受けた。そして、核反応による発電に変わりないこと、反応には放射能が出ることなどを知り、原発に取って代わる安全な技術とは言えないと思った。

 そして、動画を見ていて思ったのは、やはり再生可能エネルギーの良さだった。核融合よりも再生可能エネルギーにシフトして欲しいと思った。

 共産党の国会議員の意見も核融合の危険な面を憂慮して、そんなにエネルギー効率が良くなくても、安全性を優先して、再生可能エネルギーの方に将来性があるというものだった。美寿々は彼に同感だった。

 江戸川文科大臣は、共産党の議員の意見に耳を傾けながらも、これからますます増大するエネルギー需要には、再生可能エネルギーだけでは足りないと言った。エネルギー効果、採算、原発よりも安全性は高いこと、などを挙げ、核融合発電のポテンシャルの高さを訴えた。


 核融合というのは太陽を地球上に作るようなものだという。地球上で太陽が発熱する仕組みを人工的に作り出すのが、核融合だという。膨大なエネルギーを生むことができるものだ。

 美寿々は、このテーマは、教え子たちも興味を持つだろうと思った。そこで、この動画を見るように教え子たちにホームルームで言った。福島の子供達ならどんな意見を持つだろうか、と興味もあった。そして、一週間後にホームルームで動画を見た感想を持ち寄った。

 生徒達の意見は大きく二つに分かれた。新しい技術に期待したいというもの。地上に太陽を作るということに、ロマンを感じる生徒も少なからずいた。しかし、大半は、共産党議員に同調するもので、第二のフクシマは避けねばならず、原発に近い危険性を孕むものなら、避けるべきで、再生可能エネルギーにシフトして、脱原発、というのが理想だと思うと語った。

「先生、私、来年から十八歳で選挙に投票できるけど、この議員さんの考え方、好きだった。共産党ってマイナーですか?」

美寿々は思わぬ難問に答えに窮したが、

「じっくり考えてください、あなた方一人ひとりが自分で。国会中継の動画がユーチューブにあるので、見てみるのもいいです。マイナーかメジャーかは、選挙結果で決まるんだけど、まさにそれが問題なのよ。あなたにとって、どこが一番妥当かで投票するんだと思うよ。あくまでも、自分本位でね。それが大切なことです。」


 脱原発の動きは、大きく、核融合か、それとも再生可能エネルギーかの、二つに分かれるように思えた。火力に頼る現在のエネルギー政策は、温暖化による異常気象や環境破壊を防ぐ意味で、もう限界であろうと思われた。異常気象による災害の復興に、十分な施策をしてこなかった政府にも、美寿々は不信感を持っていた。


 グレタ・トゥンベリさんのような高校生が、教え子の中から出てきてもおかしくない気がしていた。ここ、福島県立会津第一高校で。

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