久菱時臣の教訓!
呉根 詩門
鉄の教訓!
最近、刄執の様子がおかしい……
私、久菱財閥当主「久菱時臣」の目は節穴ではない!
刄執が青二歳の頃に雇っておおよそ20年……
私には刄執が何を考えているのか、手に取る様にわかる。
そもそも、私は
「執事とは、何たるか?」
を長年私に仕えてきた執事
「遠野万代」
から、厳しく指導する様に指示をした。
小僧だった、刄執が陰で涙する姿も私はしっかり見ていた。
実際、刄執は良く働いてくれている。
朝、誰よりも早く起きて主人たる更紗の部屋へ行き、世話をしているのも私にはわかっている。
そんな、刄執の様子がおかしくなったのは、2月が過ぎた頃だ。
うっすらと積もった雪の朝。
本来なら、更紗の部屋で世話をしているはずの刄執が落ち着きなく、更紗の部屋の前で右往左往している。
「お嬢様が……いいや……そんなはずは……」
と、ブツブツ言いながら何やら考え込んでいるみたいだった。
あんなに思い詰めた刄執は見たことがない。
「刄執。おはよう」
「ご主人様。おはようございます」
刄執は、うやうやしく頭を下げた。
しかし! 刄執の礼の角度が5度足りない!
これは、異常事態だ!
私の専属執事遠野が見たら鞭で折檻は間違いない!
私は、久菱財閥当主として使用人にも心意気を配らなければならない義務がある!
私は、素知らぬ顔でさりげなく
「刄執何か、顔が優れないが何かあったか?」
「お心遣いありがとうございます。私は、いつも通りでございます」
「そうか……なら、いいのだが……」
刄執よ……久菱財閥当主を舐めてはいかん!
お前が一瞬顔が曇ったのを見逃さなかったぞ!
私は自室に戻ると、対策を考えた。
私の専属執事遠野に対処させるべきか悩んだ。
しかし、かえって状況が混乱すると思い私自身が動く事にした。
刄執は、更紗が学校に行っている間。
刄執は屋敷を留守にして当分帰って来ないのはわかっている。
私は、こっそりと刄執の部屋に入った。
私は、綺礼に片付いた部屋を一望した。
きっとこの部屋に、何か刄執の悩みの手がかりがあるはずだ!
私は、とりあえず机に向かい引き出しを開けてみた。
そこには、刄執の日記が出て来た。
流石に雇用主とはいえ、個人情報は勝手に見るのはどうかと思った。
私はしばらく日記を手に持って考えた。
だが、もう勝手に部屋に入った時点で本来ならアウトなのだ。
もう後戻りはできない!
刄執すまぬ……!
私は、心の中で深く謝罪して日記をめくった。
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2月◯日
ここのところ、お嬢様の様子がおかしい……
学校の普段の仕草はもちろん、お部屋に入っている時も上の空だ……
刄執は心配でございます……
2月△日
本日の学校のお嬢様は、ひたすらクラスメイトの伊集院輝と言う男子を見つめていた。
その回数が47回確認できた……
この小僧……
お嬢様に何か脅したり、悩まさせているに違いない!
今は、この状況を注視して……
場合によっては、ギルティしなくては……
ただ勇足の場合、お嬢様に何か危害があるかもしれない……
事は慎重に進めなくては……
2月✖️日
本日信じられない事が起きた!
あのお嬢様が、夕飯後何と屋敷を抜け出した!
私は、お嬢様の御身のためお止めしようと思った。
しかし、きっとこの暴挙には伊集院なる小僧ときっと関わりがあるかもしれない!
少しでも、情報が欲しい私は、敢えて見逃した。
そして尾行する事に決めた!
お嬢様は、足早に屋敷に近いスーパーに入った。
そして、キョロキョロと店内を彷徨いながら、何かを探しているみたいだった。
私までもスーパーに入ると見つかる恐れがあるため店外で様子を伺った。
しばらくするとお嬢様は買い物袋を下げて出て来た。
そして、帰り道も隠れる様に屋敷へと向かった。
お嬢様は帰り道急いでいたのだろう……
スーパーのレシートが道端に落ちていた。
私はそれを見るとミルクチョコレートと書かれていた。
チョコだと……?
刄執は、わかりましたぞ!
お嬢様は……ついに……
あの憎き小僧……
伊集院を消すためにチョコで毒殺するおつもりなのですね!
よくぞ……そこまで成長なさいました……!
邪魔な奴は消すのが久菱の掟!
刄執感服致しました!
敢えて今回は、私は手を出しません!
お嬢様の決意!
最期まで見届けさせて頂きます!
2月◯×日
お嬢様は、夜お部屋にお休みなったはずでした。
しかし、何と!
こっそりと抜け出したのです!
向かうは厨房!
ついに作るのですね、毒入りチョコを!
私は、暖かい視線を陰からお嬢様へと向けました。
お嬢様は四苦八苦しながらも何とかチョコ作り終えました。
そして、流石お嬢様!
一見、プレゼントの様に丁寧に包装していました!
これで、あの小僧の命は、もう風前の灯……
それを想像してか、お嬢様はご満悦な表情でした。
2月××日
本日、学校であの憎き小僧……伊集院にチョコを渡しました。
やはり、お嬢様は人生初めての暗殺か、顔が真っ赤で緊張しているみたいでした……
しかし、これでこそ久菱!
私は、この小僧の最後を見ようと決めました。
私はお嬢様を屋敷に送った後、伊集院なる小僧を監視しました。
油断しているのか……?
カーテンを閉めていないので部屋は丸見え。
私は、小僧がお嬢様の毒入りチョコを開けるのを見て気分が高揚しました。
そして、何も知らぬ小僧がチョコを頬張った瞬間……!
いつ小僧が口から泡を吹いて倒れるか……
その姿を見れるかと期待したのですが……
小僧には、何事も起きず寝ました……
わからない……
----
私は、日記を閉じるとため息を出した……
遠野よ……お前の弟子は……刄執は……
立派な久菱の執事だ!
邪魔な奴は、誰であろうとも消す!
だが、毒を飲むなどまだ手ぬるい……!
私は、紋付き袴姿で日本刀を下げて、遠野を呼んだ!
「遠野!
いるか!
これから、更紗の仇敵 伊集院なる者を成敗しに行く!
用意せよ!」
その時、ちょうど私が出陣の鬨の声を上げた瞬間!
ちょうど更紗が学校から帰って来たタイミングだった。
更紗は、見たこともない般若の様な顔をした。
そして、私が今まで聞いた事のない様な大きな声で
「何で伊集院君を成敗しに行くのよ!
お父様の馬鹿!」
と、泣きながら部屋へ駆けて行った。
---- え? 私は、何か間違ったことしたのか?
更紗よ……私は……お前を想って……わからん----
結果として、その後、更紗は一年は、私を無視し続けたのだった。
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久菱時臣 人生の教訓
「若い奴の考えは、よう分からん」
を私は、ここに記録した。
久菱時臣の教訓! 呉根 詩門 @emile_dead
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