第二十話 心境の変化
一胡とは一緒に見るアニメを決め、その後出勤した。
そして、帰宅した後も、ツンデレを発動しながらいつも通り過ごし、特に何事もなく一日が終わった。
そして、俺が今一番、関わり方が難しいと思っている曜日。
水曜日、すなわち空月だ。
最初の週で人生相談というか、お悩み相談みたいな雰囲気になった。それで、少しは空月も前を向いてくれた……と思っている。だけど、根本から直ったわけではないから、少しだけ心配だ。
何より、空月にはあのドジがある。修行だから俺の出る幕じゃないかもしれないが、できることなら助けてあげたい。
そんなことを考えながら、俺は今トイレにいた。扉を挟んですぐそこのキッチンでは、空月が朝食を作ってくれている。そろそろ出て行こう。
水を流してキッチンに出ると、空月がこちらを振り返った。
「あ、り、琳太郎様。もも、もうすぐでできますので、あと少し待っててくださいぃ……」
「うん、ありがとう」
俺ができることと言えば、空月が不安にならないように笑顔で元気に受け答えすることだけだ。あとは会話をするのもありだけど、空月が積極的に話したいと思っているかは分からない。まあ、聞いてみればいいんだけど。
食卓につくと、すぐに空月が朝食を運んできてくれる。今日は、卵焼きと鮭と少しの野菜、温かい緑茶だった。温かい緑茶なんて久しぶりで、何だか落ち着く。
「うわあ、めっちゃいい匂いする。いただきまーす」
鮭を口に含みながら、傍に立っている空月の様子を観察する。そこで、空月もこちらを見ていたようで目が合ってしまった。
空月は慌てて目を逸らしてしまったが、勇気を出したのか話しかけてきた。
「お、お口に……ああ、合いました、か?」
なるほど、俺が朝食を気に入ったかどうかが不安だったわけだ。できる限り分かりやすく伝えるため、俺は細かいところまでちゃんと言った。
「この卵焼きは、だしで作ってあるんだよな。味がいい具合についていて、すごく俺の好みだ。鮭の焼き加減と塩加減もちょうどいい。このしょっぱさと鮭の甘味が、最高に合ってるよ。それに、ここに温かいお茶があると、リフレッシュにもなる。バランスが取れた、良い食事だよ」
「ああ、ありがとう、ございます!!」
相当嬉しかったのか、空月は綺麗に九十度体を曲げてお礼を言った。お礼を言いたいのは、いつも美味しいご飯を食べさせてもらってる俺の方なのに。
そう思いながら、朝ご飯を食べ進めるのだった。
朝食を食べた後は、何事もなくそのまま出勤した。本当は何か話したり、楽しいことを考えたりして仲を深めたかったけど、よくよく考えたら家政婦とその家主の関係性。しかも、修行中なのは空月で、俺から仲良くする必要は正直そんなにない。……という考え方は、きっと少し惨酷だろう。
けれど、空月から行動していくことが、空月のためになる。それを信じて、俺は空月が行動を起こすことを待つことにした。
……が、結局その日は、帰宅してからもいつも通り(少しドジであわあわして自信なさげ)で、特に何もなく終わってしまった。
このところ、いい調子で皆と打ち解けられているから、なんだかんだいけると思っていた節があったが、そうもいかないらしい。
新入社員が教えてもらわないとやることが分からないように、空月も他の人のサポートが少しはないと、何をすればいいのか分からないのかもしれない。来週か、今度会う時は、俺から色々話してみよう。
それに、最近立て続けに色々なことが起きて皆と話していたからか、ただ家政婦としての業務だけ済ませて帰られると少し寂しい。本来家政婦とはそういうものだけど、これは多分特殊だ。仲良くしても、問題はないだろう。
ギャルゲー最高、二次元しか勝たん、という気持ちは今でも変わっていないし、希愛と会っても可愛くて悶絶している。でも、ふとした瞬間に皆と話したいとか、そんな女々しいことを思うようになってしまっていた。
それなら、俺はこの一年間、結果がどうなっても皆と仲良くしたい。
というのは、これで将来が決まるわけではない、俺のわがままなのだろう。
だけど、俺に関与しないところで決定されて、俺はこの修行に巻き込まれたようなもの。だから、皆と仲良くしたいという小学生並みの願いくらい、聞いてくれてもいいじゃないか、なんて女の子相手に気持ち悪いか……?
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