第二話 真相と出会い
いやいやいや、意味が分からない。
家政婦って、女? 男?
女だった場合、一つ屋根の下で、男女が一緒にいてもいいのか? ってか、こういう考えの時点で、もう駄目なのか!?
とにかく、何でこうなったのか、どういう人が来るのか知らないと、俺だって安心して明日を迎えられない。
メッセージを開いたまま、右上にある通話ボタンを押して母親に電話をかけた。メッセージを送ったばかりだったからか、コールが始まってからすぐに繋がった。
『どうしたの?』
「いや、どうしたの?じゃないって! 家政婦って、どういうこと? 俺は一人でもやってけてるし、てか一人暮らししてもう三年経ってるんだから、母さんも分かってるだろ」
『でも、彼女はいないんでしょ?』
「うっ、それはそうだけど……そんなの関係ないじゃん」
というか、俺は彼女ができないのではなく、作らないだけだ。作らないと言うと言い方が悪く聞こえるが、まあつまり、彼女はいらない、と思っているだけだ。
年齢=彼女いない歴、というわけではない。高校と大学で、合わせて四人はいた。けど、全員俺の外見を見てかっこいいと思い近づいてきた上に、付き合ってみたらなんか違うと思ったらしい。半年続いた人も、数日で終わった人も、同じ理由で振られた。
――もっと、男らしくてかっこいいと思ってた。
男らしいって、なんだ? 何を基準に言っている? じゃあ、お前たちは女らしいのか? 女らしいってなんだろう。
長らく考えていた末に、俺は拗らせた。
そして、それを友達や家族の誰にも言わないまま、彼女を作らないと決めて就職すると同時に上京した。
それなのに、三年も経った今、何故彼女という存在の有無の話になるのか。全く、理解ができなかった。
『関係あるわよ。彼女ができないのは、あんたがガサツで片付けができないからってのもあるかもしれないでしょ。それを家政婦さんに助けてもらって、彼女の一人くらい家に連れ込みなさい』
「それが母親の言うことか!」
『もういい歳なんだから、そういうことしても誰も咎めないわよ。だた、いざという時の責任はとらなきゃいけないけどね」
言わせておけば、好き勝手言いやがって……。
特に理由があって黙っていたわけではないため、俺は自分の気持ちをちゃんと伝えることにした。
「あのさ、俺実はもう彼女とか作る気ないんだよね。だから、家政婦もいらない。一人で暮らしていくぶんには、ちゃんと生活できるから」
『え、そうなの? 孫の顔見たかったのになあ……』
少しわざとらしい声を出しながらも、母さんは本当に悲しそうにしていた。確かに、大変な思いをして息子を生んで、いざそいつが大人になって孫はどんな顔をしているか楽しみにしていたら、ショックを受けるのかもしれない。
自分のことを考えるなら絶対に彼女はいらないが、母さんのことを考えると将来的に彼女は必要なのかもしれない。
「ま、まあ、まだ完全にいらないってわけじゃないから……気が向いたら――」
『あっ、そう? じゃあ、明日から来る家政婦について説明するわね』
前言撤回。彼女はいらない。
急にコロッと声変えやがって……!! 騙したな!
そう思っているうちにも、母さんは説明を続けていく。
『家政婦は五人で、五つ子よ。代々家政婦をやっているお家の娘さんたちで、その母親と私が高校の時の同級生だったの。それで、誰に後を継がせるかを審査したいから、一人暮らしをしていてサポートが必要そうな人はいないかって聞かれたから、あんたことを言ったら大喜びしていたわよ。一年間のインターンシップ的な感じで、修行も兼ねてるって』
「いやいや、勝手すぎるし、一年のインターンシップって聞いたことねえよ。長すぎる。だいたい、審査なら身内でやっとけばいいだろ?」
『いや、五つ子の子たちは、身内が喜ぶことはもう知り尽くしちゃってるから、全員満点で勝負にならないんだって。それに社会に出る前に実践も大事だから、誰かいい人を探してたって』
「だからって、一人暮らしの男の家に送り込んでいいのかよ」
『もし男に襲われた時に対処するのも、業務内容って言ってたわよ』
家政婦の家系だか、代々受け継がれている家政婦だか知らないが、どういう業務内容だよ、と問いただしてみたくなる。俺は唖然として、声も出なかった。
『それでね、もしうちの子が恋しちゃったらどうしたらいいって聞いたら、その時はお互いの同意さえあれば審査が終わった後に、付き合ってもいいって!!』
母さんはその後に、きゃー!、なんて言っていたが、こちらはそれどころではない。
「はあ!? じゃあ、その五つ子の家政婦の誰かを彼女にしろってこと!?」
『そゆこと』
最後に星マークでも付きそうな勢いで楽しそうにしているが、母親がする所業だとは到底思えない。こんなの、特殊形態の婚活みたいじゃねえか!
「家政婦の審査が必要だとか修行とか、そこら辺は勝手にしろ。けど、俺は彼女作らないからな!」
『え? でもさっき、完全にいらないってわけじゃないって、言ってたよね?』
「あれは……母さんに騙されただけで――」
『男に二言はなし! じゃあ、明日からよろしくね~』
そういうと、母さんはブツッと電話を切ってしまった。
「あっ、ちょっ……」
家政婦が来ることになった経緯も、女家政婦が来るということも分かった。だけど、あまりの異常事態に、俺は心を落ち着けることができなかった。
そこでスマホの通知音が鳴って、反射的に目を向けた。
《ご主人様、どこ行っちゃったのかな……》
そこには、ゲーム……いや、希愛が俺を探しているメッセージが表示されていた。それを見て癒されると共に、もう一つの問題点を思い出した。
俺が今いる洋室には、ウォークインクローゼットがある。そこにあるのは、服などではなく、ギャルゲーや他アニメの女の子のグッズだった。
誰であろうと、女の子にあれを見られれば、罵倒されてしまうだろう。こんなに女の子を集めてるなんて、とか何とか言って。俺は悪くない、けど隠さないと蔑まれる。なんなら、家政婦がいたら、家で一人でギャルゲーを楽しむという時間を奪われてしまう。
急に色んな方面から悩みが飛び出して、俺は頭を抱えた。
ああ、もう!! どれもこれも、母さんが悪い! と思うのは親不孝者だから、絶対に駄目だ! けど、何で勝手に決めたんだー!
「ふう…………希愛に会いに行こう」
考えた結果、頭が回らなくなり、俺は問題を後回しにした。
ギャルゲーをやり始めると時間はあっという間で、気付けば夜の八時になっていた。
現実に戻ると、後回しにした問題もふと頭に蘇ってくる。どうするか考えながらご飯を食べ、お風呂に入り、十一時にはベッドに入った。
うーん……彼女は作らない、クローゼットは入らせない、ギャルゲーを家政婦に見えるところでやらない、盛り上がらない。よし、これを徹底すれば大丈夫だろう。
結局、五分あれば考え付くような簡単な結論だけ頭の中で出した。そして、いくつかの問題について考えていたいたせいで何かを忘れているような気がして必死に考えて、部屋を見渡した。そして気づいた。
ポスターとタペストリーを外していない!!
これを見られたら、クローゼットに入らせなくても、一瞬で二次元の女の子が好きなオタクだとバレてしまう。
すぐにベッドから出て、慌ててクローゼットの中にしまい込むと、俺は安心して眠りについた。
翌日、誰かに肩を揺すられる感覚がして、驚いて飛び起きた。
寝ぼけまなこで必死に見ると、そこには一人の女の子がいた。長く伸ばされた赤茶色の髪にきりっとした黒い瞳、楕円形眼鏡をかけていてクールそうな見た目だが、メイド服を着ている。……メイド服!?!?
「おはようございます、
いや……え?
家政婦っていうか、メイドじゃん……?
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