第3話 乙女座の勇者
この世界のギルドのランクはG~Sまである。まあ、その上に勇者認定をされる猛者がいるらしいがそれは雲の上のさらに上の存在だ。
そしてギルドは世界共通で国をまたいだ組織でもある、その世界共通組織のギルドカードは身分証になる。
我々は兵役を辞める時に身分証をもらったが、小さな村なんかでは身分証すら発行されない事も多々ある。
だから身分証欲しさに冒険者になる者も少なくは無い。
初めて冒険者登録した俺達は一番低いGランクからのスタートだ。まだ退職金も沢山有るから、ゆっくりとランクを上げていくつもりだ。
「どうでしょう。依頼は受けて行かれますか?」
マーチさんの営業スマイルが凄くまぶしい、流石は受付責任者のマーチさんだ。
「いえ、今日は宿を取って少し休みます」
マーチさんが小声で聞いてきた。
「あの、お二人はお付き合いなされているのですか?」
「お付き合い!!」ダリアが舞い上がってしまう。
「もちろんです。私はお兄ちゃんのお嫁さんにモゴモゴ」
思わずダリアの口を押さえる。
「何か問題でも?」
俺の殺気がマーチさんを捕らえる。
マーチさんが丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。この所若い女性の失踪事件が良くおきています。
もし、宿を取られるならご一緒の部屋をお勧めいたします」
「いえ、俺も失礼しました」
そう言うとマーチさんに頭を下げる。
「心配して頂有り難うございます。そういうことなら良く良く注意しておきます」
「あ、それと明日から新人冒険者向けの講習会があります。参加されませんか?」
マーチさんの営業スマイルが再度復活。
「長旅の後なので先ずは自分達のペースで行います。マーチさんが専属と言うことなので受けたい依頼があればマーチさんに渡せばよろしいですか?」
「お待ちしております。それにしてもお二人共にしっかりとされてますね。兵役上がりですか?」
ダリアが体を強ばらせる。
「そうです。珍しいですか?」
「いえ、むしろ丁寧な受け答えで驚いています。他の兵役上がりの方達はもっと乱暴というか、がさつな方が多いですから。
だいぶ前になりますが千人兵長がこられた時がありました。その事を思い出しました」
「千人兵長って…」
ダリアの口を押さえる。ダリアが俺を見て睨んでいた。
ギルドを出ると逆に、ダリアに引っ張られてマーチさんから紹介を受けたパンケーキのお店に来る。
ダリアはパンケーキの余りの美味しさに感激し過ぎて涙を流していた。
「お兄ちゃん、パンケーキ最高。柔らかくて、お口に入れるとトロッと溶ける」
そのダリアのあまりに幸せそうな顔を見ると、俺も嬉しくなって来てしまった。
翌日、早速ギルドに来て依頼を受ける事にした。
「おはようございます。タツキさん、ダリアさん。
早速お越し頂き有り難うございます。良ければ依頼の取り方をお教えしましょうか?」
「マーチさん。おはようございます。お願い出来ますか?」
そう言うとマーチさんが依頼板まで連れて来てくれる。
「ここがG.F.Eランクの依頼板です。
お二人はGランクですので一つ上のFランクまで受ける事が出来ます」
「そうですか、新人に出来る依頼だとどんなものがありますか?」
「このヒール草、魔力草、ゴブリンの駆除等でしょうか。
どちらも壁を出た草原で行うもので余り人気がないんです」
マーチさんが少し困ったように言う。
「お兄ちゃん、受けよう。ヒール草に魔力草なんて久しぶりだし、ゴブリンも受けようよ。
それに数量の指定がどれも無いしさ、自分達のペースで出来るなんて良くない」
そこにドカドカと人がくる。
肩を鳴らしいかにも冒険者風の五人組がやって来てわざとダリアにぶつかった。
「おい、ここは、いちゃつく場所じゃねぇぞ」
「クク」「ハハハ」
馬鹿にしたように笑う奴らを見てマーチさんが怒りをあらわにする。
「やめなさい!!」
マーチさんが怖い顔で冒険者達を睨む。
「あんた達。この2人は私の専属冒険者よ。文句が有るなら私に言いなさい。
まあ、そんな度胸が有ればだけど」
ふと回りを見ると知らない冒険者達が周りを取り囲んでいた。
「誰だ、マーチさんを怒らせた奴は?」
「お前らか? このところ少し調子にのり過ぎだぞ」
パンパン!!
「はい終わり! お前達も戻りな、ギルドでの揉め事はご法度だよ」
マーチさんからいつもの営業スマイルが消える。
その姿に、俺とダリアはこの騒動を止めたマーチさんに恐怖した。はっきりと感じた、この人はドラゴンよりもおそろしい人だと。
そのマーチさんを怒らせないようにと俺達を囲むように集まった冒険者は、明かに歴戦の強者達だ。
そんな歴戦の強者達を割って入る警備兵が、絡んで来た五人組の冒険者達を押さえ込む。
「君達は新人かな?
ギルドじゃ良くある新人虐めだ。まあ、気にしない事だよ」
「そうか、有り難う」
俺が簡単にお礼を言う。すると警備兵達が絡んできた冒険者を連れていった。
「マーチさん。すみません、俺達の事で」
「ごめんねマーチさん。マーチさんいい人だから私も気がゆるんでいたみたい」
ダリアもマーチさんに謝る。
「こちらこそごめんね。ルージ叔父さんからも2人をよろしくって言われていたのに」
ルージ叔父さん?
ルージ…叔父さん…?
兵役を終えて街から出る時に俺達を見逃してくれた兵団長も名前がルージだ。
けど? なぜその事をしっている?
「あ、あの、マーチさんって、ルージ兵団長をご存知ですか?」
ダリアと一緒に肩をすぼめ小声で確認する。
「はい、ルージ叔父さんから、2人が来たら面倒見てやってくれって言われていましたから」
思わず肩の力が抜けてしまう。初対面にしては優しいし何か有るかもって思っていたけど。
依頼に出る前にマーチさんに呼ばれ個室に入る。
「ルージ叔父さんから、2人の事は良く聞いていたわ。
特にタツキさん。100人兵長までなったんですって。その若さですごい事よ。
ダリアさんの事も聞いてるわ。二人良く頑張ったわね。
ここは実力が物を言う街よ。国王陛下以外の貴族達はここでは大人しいの。
なぜかわかる?」
「「いえ」」
「12星座の勇者を知ってる?」
「「はい」」
「神々に選ばれた12星座の勇者の多くがこのルルダンルから出たのよ。
だから、この街の冒険者達は貴族であっても無下には出来ない。
力ずくで嫁にするなんて事してごらん。1日と持たずに身ぐるみ剥がされてダンジョンに放置されるわ」
「あ、あの。マーチさんはダリアの事も知っていたのですか?」
「はい、ルージ叔父さんから、でも心配しないでね。私は2人の味方よ。
私、何年か前に用事があってルージ叔父さんの家に泊まっていた事があったの。
その時、知らずに悪い奴らにからまれていたの。その時にね有る兵士の兄妹が助けてくれたのよ」
ダリアが何かを思い出したように叫ぶ。
「あ、あああー!!!!
あの時の凄く強いお姉さん?」
あれは俺達がマーチさんを助けたと言うより、命知らずなならず者を助けた形だった気がする。
俺達があいつらを押さえなければ、あいつらはその首が全て飛んでいたはずた。
その時、助けた女性は12星座の勇者の1人で、この国の最高戦力に数えられる国王直轄の冒険者。いわゆる雲の上のさらに上の存在だった。
俺とダリアは、その事をルージ兵団長から後で聞いたのだ。
その人との出会いは2~3年前だ。12星座の勇者の1人。ビルゴ(乙女座)の勇者だ。
俺達のいた都市に何かの用事があり来ていた。俺とダリアが定期巡回している時に、揉め事を起こしている連中を見つけ割って入ったのがその時だ。
そこにいたのがマーチさんことビルゴ(乙女座)の勇者だった。
だが、その場所にいたのはとても冒険者とは思えないきゃしゃなお姉さんだった。
「おい、何をしている?」
「チッ」「兵士だ」
ならず者達とお姉さんの間に入って庇う様に立つ。
「おい、兵士と言ってもたった二人だ。やっちまえ。おまけに1人は女だ。
儲けもんだぞ」
俺達が持つ武器は硬質木と言われ鉄よりも硬く、しなりが強い物だ。その硬質木の剣を出して構える。
最初はダリアも頑張っていたが流石に入隊間もないダリアには数が多すぎた。
ダリアをかばい、お姉さんをかばっての戦闘は、お互いに拮抗する形になってしまった。
その時だ、マーチさんが武器を取りだした。
俺にはそう見えた。その瞬間、10人はいたならず者達が一瞬で全員失神していた。
そして理由がわからないが何故か、地面も少しえぐれて大きな穴が出来た。その事を今でも覚えている。
それは音もなくおきた。ならず者が失神していて、大きな穴が空いていた。不可思議な出来事だった。
そのお姉さんは顔を隠していて顔はハッキリとは覚えてはいない。
その後、まだ千人兵長だったルージさんが駆けつけてならず者を捕らえ、他の兵士達が連れていった。
その時はルージさんとお姉さんと一緒に帰って行ったのは覚えていた。
だがそれがマーチさんだったとは。さっきのマーチさんを守る為に集まった冒険者達が何を恐れたのか少しわかる気がした。
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