第33話 マグリニス子爵邸へ突入!
夜が訪れ、空には二つの月が光り輝いている。
その月明りに照らされながら、ペイジ達は馬を走らせる。
街道沿いの街や村に到着しても、馬を休ませるだけ。
どうやら奴等は宿に泊まるつもりはなく、真っ直ぐにマグリニス子爵の領地を目指しているようだ。
俺に憑依しているオランは、俺の体を操って奴等の後を追跡する。
彼女に体を預けている状態なので、眠気に負けた俺は馬に乗りながら意識を手放した。
グッスリと熟睡して目を覚ますと、オランはまだ馬を操って走り続けていた。
「おはようさん。ペイジ達は何をしている?」
《何回か馬を休ませるために街で休憩したです。その時に霊体になって連中の様子を伺いてきたです。もうすぐマグリニス子爵の領地らしいです》
「そろそろ喉も乾いてきたし、お腹も空いてから早く食事をしたいよな」
《ステーキを食べたいです! 鳥のモモ焼きも欲しいです!》
オランの念話から、彼女がすごく空腹であることが伝わってくる。
俺が眠っている間も、オランは馬を走らせてくれていたからな。
少しぐらい彼女のワガママを利いてあげてもいいよね。
それからもペイジ達は旅を続け、昼過ぎにマグリニス子爵領の領都マグナスに到着した。
連中は領都にあるカタルジナ商会の支店へと入っていった。
どうやらカタルジナ商会はエルランド王国の各地に支店を持っているようだな。
それだけカルマイン伯爵の情報網が広がっているということか。
馬を降りて俺とオランはカタルジナ商会の支店へと忍び込んだ。
屋根裏からペイジ達の動向を探っていると、奴等は夜を待ってからマグリニス子爵の邸を強襲する計画のようだ。
夜まで時間があるので、俺とオランは支店を抜け出して、街で宿で休憩をすることにした。
大通りにある安宿で、個室を頼み、一階にある食堂で食事をすることに。
宿の使用人に運んできたステーキと鳥のモモ焼きを、オランは俺の体を操って嬉しそうに頬張る。
《とても美味しいです! お肉はやっぱり最高です!》
食堂に来てから、体の全てをオランに預けているから、俺の味覚は彼女の意識が専有している。
だから俺は腹が満たされていくだけで、全く味がわからないんだけどね。
今回はオランに頼ってばかりだから、これぐらいのご褒美があってもいい。
満腹になった俺達は、二階の個室で仮眠を取ることにした。
ベッドでスヤスヤと眠っていると、突然に頭の中にオランの念話が飛び込んできた。
《ペイジ達が動き出したです! 早く準備を整えるです!》
その声で飛び起きて部屋の中を見回すと、窓の外はすっかり暗くなっていた。
幽霊であるオランは眠ることがない。
なので俺が寝ている間に彼女に霊体に戻ってもらって、ペイジ達を監視していたのだ。
急いで武装を整えた俺は、一階へ降りて宿代を清算して宿を出る。
そして霊体のまま俺を誘導するオランの背中を追って、街中を走った。
街の北側にある大きな邸の近くに辿り着くと、オランが俺の体に憑依して茂みの中へ隠れた。
この建物がマグリニス子爵の邸らしい。
茂みから顔を覗かせて見ると門が開け放たれている。
既にペイジ達は邸内に潜り込んだようだ。
オランが掴んできた情報では、マグリニス子爵の配下にもペイジ達の仲間がいる。
エルラムが子爵の近くに潜んでいるはずだから心配ないと思うが、俺達も早く突入したほうが良さそうだ。
「オラン頼む、邸の中へ突入してくれ」
《アタシに任せるです!》
オランが俺の体に憑依し、瞬く間に開いている門を駆け抜け、邸の中へと突入する。
すると「ドゴォーン!」という轟音が邸の上の階から鳴り響いた。
それを聞いた俺は咄嗟に指示をだす。
「上の階だ!」
《了解です!》
俺の体とは思えないほどの俊敏な動きで、オランが階段を駆けあがっていく。
するとまた頭上から「ドゴォーン!」という音が鳴り渡る。
最上階まで上がっていくと、通路の一番奥の部屋の扉が破壊されており、通路にペイジ達が倒れていた。
恐る恐る廊下を歩いて部屋を覗き込むと、壮年の男性が剣を握って立っている。
そして俺を見てニヤリと微笑んだ。
「トオルよ、遅いぞ。不審者は全員、倒しておいたぞい」
「その口調はエルラムか?」
「そうじゃ。アルバートの記憶を探ってすぐに、こちらに来たのじゃ」
自慢気に言い放つエルラムを見て、俺は頭を両手で抱える。
エルラムが憑依している男性って、どう見てもマグリニス子爵ご本人だよな。
子爵の近くへ忍び込むとは聞いていたけど、子爵自身の体を乗っ取るなんて聞いてないぞ。
子爵といえば、男爵の俺よりも爵位が上だ。
下手をすれば、不敬罪で俺が処罰されるぞ。
俺が苦悩していると、エルラムが憑依したマグリニス子爵が肩を竦める。
「ペイジ達が子爵を襲うことはわかっておった。よって子爵の家族や邸の者達を逃がす必要があったのじゃ。そのためには子爵の体を借りるのが、一番効率が良いからのう」
そういえば、邸の中に入ってから、護衛の兵士達や使用人達を姿を一人も見ていない。
被害を最小限に抑えるために、エルラムが仕組んだのか。
そこまで考えて俺は首を傾げる。
「だったら、俺とオランが居なくてもよかっただろ?」
「冒険者の気分が味わえて良かったであろう。それに事態を収めてもらわんとのう。ではトオルよ、後のことは任せたぞ」
エルラムは剣を鞘に戻すと、マグリニス子爵の体から抜け出した。
すると子爵はフラフラと頭を左右に振り、片手で頭を抱える。
「いったい俺はどうしたんだ?」
そしてゆっくりと廊下で倒れているペイジ達を見て、それから俺に視線を移す。
「お前は誰だ? この邸で何をしている?」
「マグリニス子爵ですよね。何も覚えておられないのですか?」
「この状況はいったい? 私の家族はどこへ行った? 返答によっては許さぬぞ」
俺のことを不審者と勘違いしたマグリニス子爵は、鞘から剣を抜いて身構える。
あれ? 俺の体にエルラムやオランが憑依しても、俺の意識はキチンとあったんだけどな。
俺が焦っていると、空中を浮遊するエルラムが間抜けた表情をする。
《そういえば、今回の件を説明するのが面倒で、子爵の魂を心の奥へ押し込めて、強引を意識を乗っ取ったんじゃった》
それだとマグリニス子爵は何も覚えていないってこと?
こんな状況で後始末しろと言われても、どうすればいいんだよ!
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