第28話 褒美として爵位と邸を貰う!

王陛下との謁見が終わり、俺とリアは貴賓室に戻り、アルバート様はライオネル王陛下と別室で話し合うため、城の最上階にある王家の住まう区画へと向かった。


二人がどんな話をしているのか気になり、オランに頼んで様子を見てきてもらうと、どうやらリーゼ様が素性の確認と、今後、宝剣をどうするかについて検討しているらしい。


いきなり宝剣が喋りだして自分は王女様だと言っても、何の確証もないもんな。


それから二時間ほど室内で寛ぎならが待っていると、近衛兵が部屋に来て、また謁見の間に案内された。


エルラム、オラン、アリスちゃんの三人には、謁見の間では絶対に騒動を起こさないと約束させ、俺とリアは貴賓室を出て、近衛兵の後に続いて歩いていく。


重厚な扉が開き中へ入ると、玉座に王陛下が座っており、その隣に見知らぬ男性が立っている。

そして広間の中央で、アルバート様がにこやかに微笑んで俺達を待っていた。


俺とリアが片膝を着いて礼の姿勢をとると、玉座の隣にいる男性が俺達に声をかけてくる。


「私はエルランド王国の宰相、ヴィストランだ。『ホラーハウス』の二人に褒賞を授与する。トオルには爵位を、リアには金貨一千枚を与えることとする」


「ちょっと待ってください。どうして俺が爵位でリアが金貨なんですか?」


「ではリアに爵位を与え、トオルが金貨の報酬で良いか?」


「そんなの絶対にイヤよ! 世の中は全てお金なのよ! 私が金貨を貰います!」


爵位を嫌がったリアが両拳を握りしめ抗議の声をあげる。


爵位ということは貴族になるってことだよね。

栄誉なことかもしれないが、そんな面倒臭いこと、俺だってイヤだよ。


揉めている俺達二人を見て、ヴィストラン宰相がゴホンと咳を一つする。


「リア・コウティアスはコウティアス子爵家の息女であろう。よって爵位ではなく金貨を褒美としたのだ。ではトオルには爵位を受けてもらう」


「どうして一介の冒険者である俺が、貴族になる必要があるんですか?」


「宝剣エクリプスのことはエルランド王家の機密事項となった。よって、そのことを知る『ホラーハウス』の二人は王国の管理下に置く必要がある。冒険者は自由に場所を変えるが、爵位があれば、そなた達の居場所を把握できるからな」


巷では、昔にゴブリンの異常発生を討伐したのは英雄王子となっている。

今更、王子ではなく王女殿下でしたとも言えないもんな。


それに王家に連なるリーゼ様が、幽霊となって宝剣に憑りついているなんて、公表できることではない。


王家の秘匿となったのも納得できる話だ。


しかし、だからと言って俺が貴族になって、自由を奪われるのは筋違いのような気がする。


俺が悩ましい表情をしていると、アルバート様は肩を竦めニッコリと微笑む。


「宝剣ことだけではないのだ。トオル達はカルマイン伯爵の暗躍について知ってしまっている。だから、あまり自由に動かれるとマズイのだよ」


カルマイン伯爵といえば、ロックウェル商会のユーリンさんを暗殺しようとした人物だよな。

王宮での権力闘争と関係していると彼女から聞いたような……


必死に思い出そうと頭を捻っていると、エルラムがニコニコと微笑む。


『王宮としても威厳を保つ必要がある。トオルよ、素直に爵位を受け取るがよい。もし逃げたくなれば、ワシが他国へ連れていってやろう』


『そうなのです。アタシが加わった冒険者パーティが、爵位を貰えるなんてスゴイことです。これからも強力な魔獣と戦う時はアタシがトオル様をお守りしますです』


『貴族になるなんてトオルお兄ちゃん、スゴイのー!』


エルラム、オラン、アリスちゃんの三人は、俺が貴族になることに前向きなようだ。

リアは金貨を報酬で貰えるのでご満悦そうだし、俺だけが抵抗していても仕方ないよな。


俺は片膝を着いたまま、深く頭を垂れる。


「わかりました。爵位をいただきます」


「それではトオル・ツモリには、男爵の爵位と王都エルドラに邸を与える」


爵位といっても、名誉称号の準男爵か騎士爵かと思っていたけど、男爵といえば下級だけど立派な貴族じゃないか。


どうしてこうなったと首を傾げていると、ライオネル王陛下がニッコリと微笑む。


「ゴブリンキングからご先祖様を開放してくれた冒険者に、十分な褒賞と爵位を与えよと仰せでな」


なるほど……リーゼ様のお願いであれば、王陛下も叶えるしかないよな。


こうしてライオネル王陛下との謁見は恙なく進み、俺は男爵となった。


王城からアルバート様の王都邸に戻った俺達は、レグルスの街に帰ることもできず、三日後に王宮から与えられた邸へ移動することになった。


アルバート様の邸を訪れた兵士の案内に従い、俺、リア、エルラム、オラン、アリスちゃんの五人は、王都の東側にある繁華街に近い地区へと向かう。

すると外観がボロボロで、いかにも幽霊が現れそうな邸が視えてきた。

どうやらこの建物が俺達の邸のようだ。


兵士の説明では、この地区は元墓場で、そこを開発して繁華街にしたらしい。


そして、この邸は何度も売りに出されているのだが、所有した貴族がすぐに退去をして、今では買い手もつかない物件になっているという。


どう考えても色々な因縁がありそうな邸じゃないか。


俺達を案内した兵士は怯えるように邸の敷地に入る前に、王城へと戻っていった。


悩んでいても仕方ないので、玄関の扉を開けて邸の中へ入っていくと、何もしていないのに、広間の魔道灯の明かりがパッパと点灯する。


これって完全にポルターガイスト現象じゃん。

完全に幽霊がいるよね。


剣を抜いて周囲を警戒していると、真っ白な霧が広間に集まってきて、次々とボンヤリとした輪郭が現れた。


『『『おかえりなさいませ! 新しいご主人様!』』』


目の前にメイド姿の少女が三人、深々と頭を下げている。

でも、足元が薄く消えているから、やっぱり幽霊だろうな。


一人の幽霊メイドが前に進み出て、両拳を唇に沿えて涙目で訴えてくる。


「以前のご主人様達は、私達が家事をしていると、驚いて邸をから逃げていくんです! ご主人様のために、一生懸命に掃除しているだけなのに! どうか私達を捨てないでください!」


何となく、この邸を俺達に押しつけてきた意味がわかったぞ。


邸の中に幽霊達が何体もいて、それがポルターガイスト現象を利用して家事をしていたら、霊に鈍感な者であっても怯えて逃げ出すよな。

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