第26話 アルバート様との話し合い!
魔獣や野盗に襲われることもなく、旅は順調に進み、予定通りに領都アルノスに到着した。
城壁都市の中央に見える城がアルバート様の本邸らしい。
高い城壁の中央にある大門で警備兵に呼び止められたが、ヨークさんがニッコリと微笑んで片手をあげると簡単に検閲を通してくれた。
イケメンって何をさせても万能だよな。
俺が対応していたら、警備兵に捕まって尋問されいたかも。
厩舎で馬車を預け、俺、リア、ユーリンさん、ヨークさんの四人は、近衛兵に案内されて城の最上階にあるアルバート様の執務室へ向かうことになった。
もちろん、エルラム、オラン、アリスちゃんの幽霊三人組も俺達と一緒だ。
『閃光の翼』の女性陣は来賓室で休憩するらと言って、俺達とは別行動となった。
近衛兵に扉を開けてもらって室内に入ると、アルバート様が早足で近づいてきて、俺の手を両手でガッチリと握る。
「トオル君、よく来てくれた。アリスちゃんはどこにいるんだい? 早く会わせてくれないか」
『パパ! 私はここよ! 抱っこしてー!』
アルバート様の目の前にアリスちゃんはいるけど、アルバート様は霊感がないから、彼女のことを視認できないんだよね。
そのことに気づいたアリスちゃんが、俺に脚に手を添え、俺の体から魔力を吸収して、徐々に輪郭がハッキリさせていく。
そして実体化を終えたアリスちゃんがアルバート様に飛びついた。
「パパ―!」
「アリスちゃん!」
因みに実体化したことで、アリスちゃんの声は周囲の人々に聞こえるようになるのだ。
親子の感動の再会を見ていると、ヨークさんがジーっと俺に視線を送ってくる。
「あの子は何なんだ? 何もない場所から突然に現れたように見えるけど?」
「彼女はアリスちゃん。アルバート様の愛娘で、訳あって幽霊になっちゃったから『ホラーハウス』で預かってんるんだ」
そう言えば、ヨークさんに、アリスちゃんのことを説明するのを忘れていたよ。
するとユーリンさんが進み出て、恭しくアルバート様に礼をする。
「お久しぶりですわ。バックランド伯爵」
「ロックウェル商会のユーリン氏ではないか。我が領地に来ていたのか」
「はい。ミルキースパイダーの糸の購入、その販路を作るためレグルスの街に滞在しておりましたの。しかし、クエンオット商会と、その後ろ盾をしている人物に邪魔をされまして」
「ふむ、込み入った案件のようだな。ではソファに座って話そうか」
ユーリンさんの言葉に、アルバート様は目を細め、アリスちゃんを抱っこしままソファに座る。
俺達もそれぞれにソファに座ると、ユーリンさんが話を続けた。
「クエンオット商会の手の者により、私の商会の使用人達が毒で危篤状態となり、『ホラーハウス』のお二人に助けていただきましたの。それでクエンオット商会の商会長ロマリオ、カルマイン伯爵の配下であるペイジ、ヤードマンの二人を拿捕しましたわ。今はレグルスの街の地下牢に身柄を拘束しています」
「ユーリン氏は無事だったのだな。それにしてもカルマイン伯爵か……また厄介な貴族が出てきたな」
「私は魔法具を着けておりましたので、何を逃れることができました。それで伯爵の件で、バックランド伯爵のお力を借りしたく、おすがりに参りましたの。もちろん謝礼はいたしますわ」
「ユーリン氏の用件は理解した。後ほど二人でゆっくりと話し合おう」
アルバート様は大きく頷いて、アリスちゃんの髪を優しく撫でる。
そしてヨークさんが背中に負っている宝剣エクリプスを取り出して、テーブルの上に置く。
「レグルス近郊の森でゴブリンの異常発生が起こりました。そこで冒険者ギルドが早期に発見し、『ホラーハウス』の二人に調査を依頼し、森の奥深くにゴブリンの巣窟を発見したそうです」
「ゴブリンの異常発生とは……それが事実であれば、エルランド王国の崩壊もあり得る事態だぞ」
「その心配には及びません。既に『ホラーハウス』の二人が、ゴブリンの巣穴へ潜入し、最下層にいたゴブリンキングを討伐し、宝剣エクリプスを持ち帰った次第です」
宝剣の名を聞いて、アルバート様が驚愕の表情を浮かべる。
「まさか英雄王子が所持していたと言われる宝剣か?」
「私は王子ではありません! その名称には断固として抗議します!」
「これは一体!?」
剣から飛び出した声に反応して、ヨークさんが腰の剣の柄に手をかける。
宝剣から突然に少女の声がしたらビックリするよね。
俺は皆を落ち着かせるように両手を広げてヒラヒラと振る。
「その宝剣エクリプスにはリーゼが憑依してるだ。彼女はエルランド王国の王女様で、今まで英雄王子と呼ばれている者の正体だ」
「まさか、英雄王子が女性だったとは……これはエルランド王国の史実に関わる重大事だぞ」
俺の説明に、アルバート様が難しい表情をする。
厄介事だから上位貴族であるアルバート様に彼女のことを任せたいのだ。
だって一介の冒険者には荷が重すぎる案件だからね。
すると俺達の話を黙ってきいていたアリスちゃんが、アルバート様の服を引っ張る。
「パパ! 難しい話ばかりで詰まんなーい!」
「アリスちゃん、ごめんよ! パパといっぱい遊ぼうね! 私への用件は理解した。後日にどうするか考えよう」
アルバート様はアリスちゃんをギュッと抱きしめて、俺達に向けて『娘と二人にしてくれ』と目で合図を送ってくる。
さすが親バカのアルバート様、ブレることがないよな。
後日にまた話し合うことになった俺達は、アルバート様の城に滞在することになった。
それから数日、アルバート様、ユーリンさん、ヨークさんの三人は協議を繰り返していた。
その間、俺とリアは難しいことに関わりたくなくて、エルラム、オラン、アリスちゃんの幽霊三人組を連れて、領都アルノスの観光をすることにした。
来賓室で寛いでいると、メイドが現れ、アルバート様の執務室へ呼び出された。
エルラムとオランにアリスちゃんを預け、俺とリアが執務室へ向かうと、既に室内にはアルバート様、ユーリンさん、ヨークさんが集まって談義を行っていた。
俺達二人がソファに座ると、アルバート様がにこやかに微笑む。
「今後についての方針が決まった。私は王都エルドラへ赴くことにした。宝剣エクリプスをエルランド王家に返上する必要があるからな。ロックウェル商会の本店も王都にあるので、ユーリン氏も同行する。『ホラーハウス』の二人には王都まで一緒に来てもらいたい」
「王都までの護衛なら『閃光の翼』に依頼すればいいですよ。俺達では実力不足ですし」
「『閃光の翼』にはレグルスの街へ戻ってもらう。冒険者ギルドのガストン氏へ言伝を頼んだのでね」
「それっておかしいでしょ。どう考えても経験豊かな『閃光の翼』に護衛を依頼したほうが、旅も安全じゃないですか」
両手を広げて抗議する俺に、アルバート様は首を大きく左右に振る。
「宝剣エクリプスには英雄王子……リーゼ様が憑依されているのだろう。なので幽霊専門家である『ホラーハウス』の二人にも同行してもらい、不測の事態に対処してもいたい。それにアリスちゃんと一時も離れたくないのだ」
アルバート様はキリッとした表情で、両拳を握りしめる。
せっかく真面目に公務の話をしていたのに、本音が駄々洩れだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます