第17話 黒幕の正体!

泣き崩れる私用人の少女を別室に連れていってから、ユーリンさんはリアと一緒にベッドで、俺はソファにもたれて仮眠を取ることになった。


『トオルお兄ちゃん、起きて』というアリスちゃんの可愛らしい声が聞こえ、目を覚ますと、既に夜は明けており、窓からは朝の日差しが入ってきていた。


目を擦りながら姿勢を整えていると、いつの間にか戻ってきていたオランが目の前で片膝をつく。


『面の男が誰かわかりましたです。 カルマイン伯爵の家臣で、名はペイジ・ヤードマンと言い、伯爵からの汚れ仕事を一手に引き受けている者です』


「 カルマイン伯爵って誰なんだ?」


『忍び込んだクエンオット商会の邸で、オルマンが話していたじゃろうが』


首を傾げる俺に向けて、エルラムが口を挟む。

そういえば、オルマンの後ろ盾になっている貴族だったかな?


うる覚えの記憶を思い出している俺に構わず、オランは話を続ける。


『これまでカルマイン伯爵はクエンオット商会を利用して、ミルキースパイダーの市場を独占していたです。カルマイン伯爵領では、ミルキースパイダーの紡績が盛んに行われ、その生地は貴族の間で高値で取引されているそうです。そしてカルマイン伯爵は王家や、王宮に務める上位貴族にもミルキースパイダーの衣服を献上しているです』


「どこから、そんな詳しい情報を得てきたんだ?」


『街中に潜んでいたペイジに憑依して、記憶の中を覗いてたので情報は確かです』


軽く用事を済ませてきましたみたいに、勝手に他人の頭の中を覗くなよ。

それにしても相手に憑依して、秘められた情報を得るなんて、幽霊にしかできない能力だよな。

まさか、俺の記憶の中に封印している、あれこれの黒歴史も幽霊達に知られていることはないよね?


ジロリと疑いの眼差しを向けると、エルラムがニヤニヤと笑っている。


『今はそれどころではなかろう。このことをユーリンに伝えなくてよいのか?』


「そうだな。アリスちゃん、お姉ちゃん達を起こしてくれないか?」


『はーい。お姉ちゃん達はお寝坊さんなのね。私が起こしてあげるー』


アリスちゃんは元気よくニッコリと笑うと、体を浮遊させてベッドまで飛び、急降下してリアの体の中へと同化する。


すると突然にリアが飛び起き、大声で笑い始めた。


「キャハハハハ! すっごく体中がくすぐったい―! 誰が憑りついてるのー、止めてー! キャハハハハ!」


その笑い声に驚いて、ユーリンさんも目を覚ました。


しばらくアリスちゃんに体を弄ばれたリアは、ソファにグッタリと座り込み、ゼイゼイと息を整えている。


その隣のソファに座り、ユーリンさんは俺に向けてペコリと頭を下げる。


「トオル君、未だに毒に苦しんでいる者達を助けてほしいの」


昨日はリアが倒れたことでドタバタして忘れていたけど、ロックウェル商会の執事さんや使用人達、それに店を警護していた冒険者達も毒に侵されているんだった。


早く治療しないといけないが、ユーリンさんにカルマイン伯爵とクエンオット商会の暗躍について報告しないといけないし、今後の対策を相談する必要がある。


どちらを優先したほうがいいか悩んでいると、エルラムがニヤリを頬を歪める。


『それならワシがリアと共に、倒れている連中を治癒してこよう。その間にトオルはユーリンと話し合えばよい』


「え? え? 何のことなの?」


状況を理解できずに狼狽えるリアの体に、エルラムが霧状となって同化する。

すると、リアの体がスクッと立ち上がり、扉に向かって歩き出した。


「ちょっと、勝手に私の体を動かさないでよ! 事情を説明してくれたら、自分で動くから、まずは説明してよ!」


バタンと扉が閉まり、廊下からリアの悲鳴のような大声が聞こえてくる。

リアの意識だけを残して、エルラムが体だけを操っているようだ。

あのまま街中を歩いたら、また『ホラーハウス』の変な噂が増えるんだろうな。


左右に大きく首を振り、気持ちを切り替えて、俺はクエンオット商会の建物で見た光景と、オランが持ち帰った情報をユーリンさんに伝えた。


話を聞き終わったユーリンさんは、ウンウンと何度も頷く。


「カルマイン伯爵がミルキースパイダーの生地や製品を独占して販売していることは知っているわ。その財で王宮の一部の貴族達を取り込んで、権力を振るっていることも。だからこそ、それを危惧した王宮のとある貴族から、新しい販路を確率するように依頼されたのだもの」


ということは……知らないうちに王宮の権力闘争に巻き込まれたってことかな。

なんだか問題が大事になってきたような気がするぞ。

これって、冒険者に成りたての俺が首を突っ込んでいい話なのだろうか?


原因不明の病で倒れている人達については、エルラムが治癒を施している。

ロックウェル商会の人達や、冒険者達に毒を飲ませた使用人の少女も別室で軟禁してある。

その呪術を付与した毒は、ロマリオが入手したこともわかっている。

ロマリオを操っていた仮面の男が、カルマイン伯爵の配下であることも突き止めた。


全ての情報をユーリさんに伝えたし、俺達への依頼って達成されているような?

今回の件は王宮も絡んでいるようだし、ここからは冒険者の立ち入る話ではないだろう。


想定外に問題が大きかったことで弱気になっていると、俺の手をユーリンさんが両手で握りしめる。


「トオル君とリアちゃんがいなければ、毒のことも、クエンオット商会の悪事もわからなかったわ。それにロマリオとカルマイン伯爵の繋がりも」


「いやいや、冒険者を使って、時間をかけて調べれば、それぐらいのことはわかったと思いますよ」


「賢者エルラムの霊を従えているネクロマンサーだもの。これぐらいのことは簡単なのかもしれないわね。この一件が解決するまで、どうかその力をお借りしたいの」


なんだかユーリンさんに盛大に勘違いされているような。

昔のエルラムは賢者だったかもしれないが、今はただのエロジジィだし。

俺はただの霊感があるだけの冒険者なんですけどね。


「冒険者ができる範囲なんて限られていますけど」


「カルマイン伯爵の悪事を暴きたいの。ペイジとロマリオを捕まえて二人に白状させれば、伯爵を追い込むことができるわ」


ユーリさんは簡単に言うが、なかなか難しい依頼だぞ。

ロマリオを捕まえるのは、ガストンさんの力を借りれば、できるような気がするけど。

街のどこかに潜伏しているペイジを探し出して捕まえるには日数がかかるよね。


ガストンさんの協力を得ようか悩んでいると、ニコニコと笑ってオランとアリスちゃんが手を高くかかげる。


『アタシがペイジを連れてくるです!』


『私も悪者を捕まえるお手伝いをする―!』


そういえばオランはペイジの隠れ家を知ってるんだった。

それに相手に憑依すれば、その体を乗っ取って、ここまで連れてくることもできる。


なんだか幽霊達の力にばかり頼って申し訳ないけど、二人に頼んだほうが良さそうだ。

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