第13話 漆黒のカードと次の依頼!

受付嬢に案内されて、広間に奥にある階段を登って最上階へ向かう。

そして廊下と奥のある部屋の前で立ち止まり、受付嬢が軽く扉をノックした。


すると部屋の中から「入っていいぞ」という言葉が聞こえ、受付嬢が扉を開けてくれて部屋の中に入ると、頬に大きな傷のある大男が、重厚なデスクに座って鋭い目つきで俺達を迎える。


「お前達が『ホラーハウス』の二人か。冒険者達の間で噂になっているから、どんな連中かと思えば、こんなひ弱そうな奴等だとはな。まあソファに座れ。話はそれからだ」


筋肉隆々な大男からすれば、俺もリアも貧弱にみえるよね。


俺とリアがソファに座ると、ギルドマスターも移動してきて、対面のソファにドカッ座った。


「俺はレグルスの街の冒険者ギルドを束ねているギルドマスター、ガストン・キッフェルだ。これでも現役の頃はAランク冒険者だったんだぜ」


「ガストンさんの数々ある偉業は、私も聞いたことがあります」


「そうだろ、そうだろ。だったら俺が怒り狂うような騒動は起こすなよ」


「もちろんです。ガストンさん」


厳めしい表情で威圧をかけてくるガストンさんに向けて、リアがコクコクを大きく頷く。

しかし、俺達の後ろに立っている、オランとアリスちゃんが不穏なことを呟く。


『アタシが冒険者だった頃、あんなにひ弱だったガストンが偉そうなことを言ってるです。昔は臆病で『メルロムの樹海』に行くのも嫌がった癖に。少しお仕置きしたほうがいいかもですね』


『アタシ、このおじちゃん、嫌い! パパに言って、懲らしめてもらうの!』


どうやらオランは冒険者になったばかりのガストンのことを知ってるようだな。

でも今はこんな立派な脳筋になって、ギルドマスターになってるんだから褒めてあげようよ。


アリスちゃんは俺とリアがイジメられていると勘違いしているみたいだけど、アルバート様に報告するのは止めようね。


あの親バカな領主様なら、アリスちゃんのために兵を動かすぐらいのことはやりそうだ。


二人の言葉に不安を募らせていると、エルラムがニコニコと微笑む。


『二人とも落ち着くのじゃ。雑魚の態度に怒っても仕方なかろう。いざとなれば、ワシが建物ごと灰にしてやろう』


一番ヤバいことを言ってるのはエルラムだよ!

どうか俺の心の安定のために、三人は大人しくしていてくれ。


俺はぎこちない動きで、 ガストンさんへ笑顔を向ける。


「それで、今日はどんなご用でしょうか?」


「それだがな。一つはアルバート様から預かったいた依頼完了の報酬を渡すためと、もう一つはお前達の冒険者ランクが上がったことを伝えるためだ」


ガストンさんはソファから立ち上がると、重厚なデスクの上にあった革袋と金属製の漆黒カード二枚を手に取り、またソファに座り直してテーブルの上に投げ出す。


リアは嬉しそうに革袋を持ち上げ、さっそく袋の中を確認する。

俺はカードが気になり、手を伸ばした。


これは冒険者カードとは違うような?


俺が首を傾げていると、 ガストンがニヤリと表情を歪める。


「俺も持っているが、そのカードは特別なモノだ。肌身離さず大事にしろよ」


「というのは?」


「これは普通の冒険者カードじゃねー。このカードを持つ者は、エルランド王国が身元を保証する冒険者を意味する。簡単に言えば、バックランド伯爵家がお前達二人の後ろ盾になるってことだ。領主様が、今回の一件を解決したことを喜ばれて、冒険者ギルドに用意させたのさ」


うぅ……アルバート様のアリスちゃんへの愛が重い。


そこまで話をして、ガストンさんが手の平でバンとテーブルを叩く。


「お前達、この意味がわかるか?」


「領主様に感謝しろと?」


「そういうことを言ってるんじゃねーよ。これからお前達は、領主様、エルランド王国のために働かなくちゃならねーってことだ。今までのように気楽なその日暮らしは通用しないってこった」


そういうことか……領主様が身元を保証するということは、逆に考えると恩義のある領主様からの頼み事を断れない。


お貴族様はエルランド王国の忠臣という名目だから、俺達も王国の手足となって働くことになる。


まだ冒険者になって一ヵ月も経ってないのに、何だか大変なことに巻き込まれたような気がするんだけど。


すると、金属製のカードの意味を理解したリアが、顔色を青くして慌てだす。


「ちょっと待ってください。私はまだDランク、トオルに至っては底辺のGランクなんですよ。王国のための仕事なんてできるはずないですよ」


「そういうと思って、お前達二人の冒険者ランクをCランクに上げておいた。喜べ」


GからCって、どれだけ一気に冒険者ランクを上げてんだよ。


他の冒険者から、絶対にズルい行為をしたと思われるだろ!

それにCランクになっても、それだけの実力なんてないぞ!


俺とリアがオロオロしていると、ガストンさんが余裕の笑みを浮かべて脚を組み直す。


「冒険者達の噂でお前達の実力は把握している。それに見合った依頼を回してやるから安心しろ」


「ちょっと待ってください。冒険者の噂は全て嘘ですから。僕はまだ一人で低級魔獣を倒す力もないんですよ」


「つべこべ言うな。お前に実力がなくても、お前には千を超える幽霊が配下にいるんだろ。ネクロマンサーなら使役する霊もお前の力だ」


千を超える幽霊の軍勢って……冒険者達の噂が、いつのまにか肥大化してるよ。

実際に俺と一緒にいる幽霊はエルラム、オラン、アリスちゃんの三人しかいないのに……


俺がガックリと項垂れているのを気にせず、ガストンさんは話を続ける。


「お前達の仕事を用意した。今、この街にロックウェル商会の会長が来ている。その会長の身辺で不可解なことが多発していてな。その原因の調査して、この問題を解決してこい」


「それって冒険者の仕事じゃないですよね?」


「この漆黒カードを持つ者は、冒険者達が気軽に冒険を楽しめるように、ギルドの裏方に徹する者が持つカードだ。というわけでサッサと依頼を終わらせて来い。依頼完了の報酬は一般の冒険者よりも弾んでやる」


「さっそく行ってきます!」


報酬が上乗せされるとわかり、リアはウキウキした表情を浮かべて頷く。


現金に目が眩むのは仕方ないけど、そんなに簡単に引き受けていい依頼なのかな?

なんだかイヤな予感がするのは俺だけだろうか?

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