【書籍化決定】墜星の最強魔道士 ~亡命王族の俺は可憐な嫁を手に入れて、昼も夜も蹂躙無双~
雪見サルサ(旧PN:サルサの腰)
第一章 初陣編
第1話 婚約破棄される俺
父に呼び出された。
侯爵家の長男として生まれてはや十二年、ついにこの時が来たのかと俺は胸を高鳴らせ、勝手知ったるオルテナトリス城内を歩く。
これからのことを思うと、自然と足取りが弾んだ。
噴水のある裏庭を横目に、西の渡り廊下を進み、大きなステンドグラスのある広いエントランスから大階段を駆け上がる。
二階の渡り廊下を百メートルほど進むと、父オルテノス侯爵の執務室だ。
俺はノックをして入室する。
「父様、シャルカです。ただいま参上いたしました」
「来たかシャルカ、ソファにかけなさい」
「はい」
ラドナーク・ド・オルテノス、三十五歳。
テーブルを挟んで目の前に腰を下ろしたその壮年の男性は、少しつかれた様子でため息を付いた。
父の様子から何か問題の解決に頭を悩ませていることを察する。
「シャルカ、お前ももう十三になるな。オルテノス侯爵家の長男に生まれたとはいえ側室の子であるから、家督を譲ることはできないのは当然知っているな?」
いきなりのヘヴィーなカミングアウトかと思いきや、そうではない。
「はい、それはもう耳にタコが出来るほど聞き及んでおります。私のような者が城内をうろついてしまうと、ネーヴィリムの愚か者どもが騒ぎ立てるのではないかとヒヤヒヤしている次第です」
オルテノス侯爵家の長男であるにも関わらず、俺がオルテノス侯爵を継承できないことは周知の事実である。
だからといって腹に一物など抱えておりませんよと、
「かまわん。ネーヴィリム男爵にそのような気概はなかろうて。シャルカ、お前も、お前の祖父のように外の戦争にでも出して武功を立てさせてやりたいのは山々なのだが、そうなるとラーネッキ伯爵家を抑えるのが難しくなる。あの家は少しでもお前を上に祭り上げようとするならば、すぐにでもエルミアを実家に戻せなどと言いかねんところがあるからな」
ラーネッキ伯爵家、オルテノス地方で最も力を持つ貴族で、父の正妻の実家だ。
父の言うことが本当であれば、俺がこれから武人として生きるようなルートはないのだろう。
「父様のご苦労お察しします」
「ところで、そろそろ初陣に出してやろうと思うのだが、何か希望はあるか?」
「いえ、特には……」
この歳まで、戦争に出ることなく過ごしてきたが、お祖父様が若い女の子にチヤホヤされている姿を見ると、羨ましいと思うことがある。
このままだと俺は、貴族としてはあるまじきモヤシっ子に育ってしまうかもしれない。
モヤシっ子は総じてこの時代ではモテないので、なんとかしなければとは思うのだが、先に父が言ったように俺は家督の問題であまり目立つわけにはいかない。
「はぁ、シャルカよ、お前はそれでいいのか?」
「それでいいのか、と申しますと?」
「仮にもオルテノス侯爵家に生まれた長男なのだぞ。なぜお前はそれほどに野心を持たないのか、と聞いておるのだ」
野心と問われても、父の疲弊する姿を見て、「俺こそ次期当主だ!」と思えるほどの気概も覇気も俺にははない。
しかし父はそんな俺が不可解なのだろう。
「いえ、私は良いのです。エルミアた……、いえ、正妻の娘であるエルミア様に継承権があるのは当然のことでしょう。それでいてどうして野心など持てましょうか。この十二年、何不自由なく暮らしてこられたのも全てオルテノス家のお陰でございます。ただでさえ混乱した家中に一体どうして不和などもたらせましょうか」
「全く、お前さえその気があるのなら、ラーネッキを抑えてつけてでも家督を譲ることを考えてもよいのだぞ」
父はどうしてか真剣な表情を俺に向け、謎の期待を寄せる。
色々と思い当たるフシはあるのだが、家族以外からの評判はからっきしなので、周囲の意見を聞くタイプの父はやはり思い切った決断はできないだろう。
「不要です、そのようなお気遣いはなさいませんようお願いいたします」
「そうか……」
俺が断りの言葉を述べると、父は少し落胆した様子だった。
だけど、俺だって家族と相続争いなんてしたくないのだ。
侯爵家とはいえ色々しがらみがあることは知っているし、オルテノス家に限って言えば他の貴族家なんかよりもずっとグロテスクなドロドロした背景を抱えている。
それこそ体制にメスを入れようなどとは決して思えないほどの深い闇だ。
(というかそろそろ本題に入ってほしいんだけどなぁ……)
俺は少し空気を変えたいと思い、んん、と咳払いをする。
「……時にシャルカよ、お主にちょうど、良い縁談が届いておったのだが……」
キタキタキタキター!それだよそれ!
数ヶ月前、父から俺の縁談を進めてくれているという話があったのだ。
その結果がどうなったのか、今日まで気になって気になって夜も眠れなかった。
父に呼び出された時、これは縁談の話だと俺は確信していた。
「待ってました、父様」
「……どうしたシャルカよ?急に身を乗り出して」
「教えて下さい、その相手は私が知っている娘ですか?」
「いや、知らない娘のはずだ」
知らない娘、ということはオルテノス地方の外の娘の可能性が高い。
俺、ゆうてオルテノス侯爵長男だし、手堅い娘を選んでくれるはずだよねぇ。
普通に考えたら貴族の娘としてしっかり教育された、由緒正しき可憐な娘が選ばれるはずなのだ。うん、そうだと信じよう。
姿絵だけでも見せてもらえないだろうか。
「それで父様、その娘は可愛いですか?」
「ふむ、シャルカも婚約者候補が気になるのだな、まぁ無駄骨だったが姿絵くらいは拝ませてやろう」
俺がキリッとした表情で父に問いかけると、父は一枚の絵を俺に見せてくれた。
(んん、可憐だ……)
姿絵の少女は、女性貴族がなかなか着ないはずのロングスカートのきらびやかなドレスを身にまとい、初雪を淡い
俺と同年代くらいの花も恥じらう乙女の姿がそこにあった。
雪のように白い肌に赤い
(この可憐な少女が俺の婚約者……これは、人生勝ち組ですわ……!)
顔立ちはまだ幼いがハッとするほど美しく、将来は相当な美人に育つだろう。
俺はまだ見ぬ少女に光源氏計画を企て、妄想を膨らませた。
「父様、さっそくお見合いいたしましょう。当然入り
この婚約でより一層、オルテノス家を盛り立てていこう、と俺は決意を新たに……
「それがな、直前で破談になったのだ」
無情にも、父の返す刀が俺の心をずたずたに引き裂いた。
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