第45話 □ 薬学の魂と別次元
□ 薬学の魂と別次元
その後、消滅した薬学は、データ情報は消滅したが、魂だけが別次元のどこかに飛ばされた。
そう、魂の入れ物になる器をたった今なくしたのだ。
魂だけが、異次元に飛ばされた薬学は、次元の狭間で自分が自分である事を魂だけになった薬学が自らを認識した。
認識したのと同時に、かつての自分の容姿を思い出し、薬学の容姿に変化していった。
思念体のため、物体ではなく、あくまでも、想像で作り出された模造体である。
その証拠に半透明で、青白い光を放っていた。
だが、データの青白い粒子ではなく、精神で想像された光。
認識した瞬間景色が一変する。
――――――。
――――――。
――――――。
青空が広がっている。
空を認識した瞬間に、地面という認識が新たに作り出された。
その地面になっている自らの器も意識の思念で作り上げた。
その思念体の足で地面を踏みしめている実感があった。
だが、その足元にどんな地面が作られたのか気になった薬学は足元を確認するとそこには宇宙が広がっている……。
「⁉」
先程まで、重力を感じてその場で立っていた感覚が一瞬のうちに無重力に変化していった。
その宇宙を見渡すと目の前には、大きな月が目に止まり、その上に人が一人たっていた。
「‼……美彩」
そう、薬学の思念から、生み出された祇那の姉の霧咲美彩(きりさきみさ)が、月の上にたっていたのだ。
創作された薬学の世界とはいえ、無意識に美彩を想像してしまったのだろう。
かつての自分の行いを悔いるように美彩の視線は冷たく冷めた視線のように薬学には感じられた。
「よくもまぁ、私の前に出てくれるわね。 あんた……」
「美彩……私は愛していたのだ……愛ゆえに……」
「愛の形が殺害とはね……呆れた……」
「そんなつもりは……」
その冷たい視線と月の静けさが相まって薬学には精神的ダメージを食らっていた。
かつての薬学ならそんな感情が生まれることすらなかったが、今の薬学は素体をなくしたことで、かつての自分の精神を破壊した薬品の副作用が消えていて、もとの薬学に戻っていたのだ。
「美彩……本当に済まなかった。あのときの私の行動は許されないことだ。当然死んだ所で償うことなどできない……」
「じゃ、地獄に落ちれば少し許せるかもしれないわね」
口元の広角が少し上がった様に見えた。
「地獄⁉」
「ほら、迎えが来たよ。お父さん」
「⁉」
薬学は背後にゾッとする気配を感じた。
恐る恐る振り向くとそこには大きな鉄の門が出現していた。
その門のデザインは「ロダンの地獄の門」のデザインに良く似ているが、少し異なっており、人の部分が死神になっているデザインになっていた。
その地獄の門が、ゆっくりと扉が開き、その中から、自分が作り上げた黒い魔の手のような手が無数に飛び出してきた。
その腕は、薬学の作り出した腕によく似ていたが、超巨大。
地獄の門も異常に大きく圧倒されるほどの門の上に、飛び出してきた無数の手は、一つ一つが門よりも大きい。
「⁉⁉⁉……」
薬学は、とんでもない圧迫感を感じ、声が出したくても出ない状態。
完全にその場の雰囲気を支配してしまった。
その腕は、薬学に襲いかかり、とてつもない力で、体を圧迫してくる。
あまりの、圧迫で、声が出ないどころか、意識が朦朧とする。
そんなとき、自らが作り出した黒い魔の手をこの世界でも想像し、作り出し、なんとか腕から抜けられた。
「やめてくれ! 私を許してはくれないか! 美彩!」
「・・・」
美彩は関係ないと言わんばかりに不表情で、月に座りながら、薬学を見下ろしている。
地獄の黒い手は薬学を掴みに再び伸びて薬学の胴体を掴みかけたが、先程創作した黒い魔の手で地獄の門から出てくる黒い手を弾き飛ばした。
「私も似たようなことはできるのだよ。なめてもらっては困るなぁ……」
その言葉が聞こえたかはわからないが、次に黒いては門の中に消えてった。
「やったぞ! 異世界の手に私の手が勝った! 美彩! みたか……私は人類生命体の頂点にたったようだなぁ……ははぁ」
「そこから出てきた黒い手は、現実世界では、蚊と同レベルよ」
美彩が言葉を発したが、その言葉を聞いた薬学は理解が及ばなかった。
「蚊って虫の蚊か?? とんでもない、さっきのは異世界の強大な力を持つなにかではないのか?」
「後ろ。今度は、属性を持った蚊レベルの手が来たわよ」
「⁉ なんだね。 この大きな丸いものは・・・」
薬学は上を見る。
「⁉」
薬学が後ろを振り向き、上を見ると、先程の黒い手の何十倍の大きさになる赤い手が薬学の後ろにあった。
はじめに認識できた丸いものは大きな手の一部で、小指であった。
「これが、人間界の蚊……門の向こうは化け物以上だなぁ」
薬学は、目の光が、そこで完全に消えた。
死を覚悟した目だ。
「嫌だ、死になくない……死にたくないよ! ……助けてくれ! 美彩!」
「・・・」
赤いてはよく見るとグツグツと沸騰しているようで、泡ができては破裂するを繰り返していた。
その腕からは高温な熱が放たれており、薬学の近くに寄っただけで服が萌え始める。
実は、その手は高温で灼熱の熱気を放つマグマの手だ。
このマグマの手は薬学の肌を焦がし、薬学の服をもやし、薬学を扉の向こう側にゆっくりと移動する。
「いやだ……し…に……たく……」
薬学は原型を留められず、黒いメタルスライム状態に変化する。
とっさに自分の体をメタルスライム化して、逃げ切ろうとしたよだが、既に時遅し。
黒いメタルスライムになったことにより、更に溶け始め、ドロドロに溶けてゆく。
「あぁ……がぁあああぁああぁあぁあああぁ……ぶぐぅ」
スライムの状態でもごき苦しみ、自分の一部だけでも逃れようと、複数体の一部を飛ばして逃げるが、無数のマグマの手に行く手を幅割れ、地獄門へと消えていった。
「……私は……家族……を……あい……」
「ドーンッ‼」
門の中に薬学は連れて行かれた。
◇◇◇
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