第22話 □ 黒衣の男の正体

□ 黒衣の男の正体


  


 朝だった。何度も繰り返す朝という曇りの夕日空。


神夜は相変わらず、同じ民家の一階の部屋の布団のなかに丸まって寝ていた。


何度も起きたような朝が続いていたが今回ばかりはかなり異なっていたようだ。


それはまず気絶した状態でベッドに運ばれたのではなく、自らの意思で布団に入ったことだったのと、それともう一つあり、全く眠れていなかった事だった。


神夜は目を覚ましていたのだがベッドから下りようとはせず、昨日の出来事を思い出していたのだ。


あいつ等は旬のことを天然シナプスの欠片と言っていた。


そのことが気になり一睡も出来なかった。


―――またあいつらが襲ってきたら俺にはどうすることもできない……でも、俺の中にいるシナプスなら、あの力があれば……―――。


などと考えている自分と


―――あんな奴くらいどうにかして神夜の力で倒してやる……―――。


などと、力の無い神夜はそんな事を考えていた。


「おはよーだよ! お兄ちゃん‼ おっはよーう! おっはよーう!」


 旬のテイションは相変らず高く声も高い、でも何と無くだが神夜に気を使っているように感じた。


 その理由とは些細なことだが、神夜の上に乗ったりしなくなっていた所という点だ。


そんなこともあり、神夜はまだ寝ていられると感じ再び目を閉じた。。


「……」


 旬は何も言わず、ただ神夜が起きるのを待っているのか、それとももうどこかに行ったのか分からないが、布団の中で丸まっている神夜にはそんな事を知る手段は限られている。


この状況下で機能しているのだとしたら聴覚のみである。


耳を染ませても何一つ聞こえない。廊下を足で踏んだ時に聞こえるであろう軋む音や何か台所で行く音もだ。


「……」


 神夜はいつしか、その事だけが気になってしょうがなくなっていた。


こんなに静かな朝はこの世界に来てめったに無かった事だが、いざ静かになってみると気になって逆に落ち着かない。


そんな、神夜はそっと布団から出て旬の姿でも確認しようとしたのだ。


数分位は時が計かしただろうか、布団にじっと息を潜めている神夜。


そんな時間の経過が曖昧になっていた時間帯を確かめるべく、布団から出ることを決意しょうとしていた神夜。


まさに今くらいが丁度いいだろう。


そう思った神夜は……布団から覗き見るような形でドアを見た。


―――……いないな……―――。


 さすがにかなり時間がたったのか旬の姿は無く物音もしなかった。


安心した神夜は何気なく寝返りをするように横を見る。


「……」


 そこには凄く近くに旬の顔があった。


「‼・・・」


 神夜は直ぐに布団の中に潜った。


 そして直ぐに現状を理解した。


そう、目の前に居たのだ。


その距離はとても近い。


余りにもビックリしたのか神夜は声も出なかった。


恐らく神夜が起きるのを待ってたのであろう。


でも旬は神夜が出て来た事に気づいていなかったようだ。


何も起きない。


恐らく待っているうちに眠たくなって寝てしまったのだろう。


神夜はそう思いながら旬の寝顔を間近に見るため布団からまた出て見る事にした。


やはり寝ていたようだった。


神夜は旬の寝顔を見ると安心したのか今更ながらに眠気が襲ってきてしまい、うとうとしていた。


その時に旬の目がはっと開いた。


「わっ!」


 神夜は眠気なんて吹っ飛んでしまいそのままの勢いでベッドから落ちてしまった。


「イテ……テ……テ~~」


神夜はそこですぐさま「スッ」と立ち上がり、旬に文句を言おうとしていた。


だが、旬の姿を見た神夜はそれどころじゃないことに気づいた。


旬の様子を見た時にそう思えたのだ。


「じゅ……旬……どうしたんだ。その目……」


 神夜が見たのは旬の目が黒色から金色に変わっていくのが見えたのだ。


「わぁ~……あれ……」


 旬が目を覚ましたようだ。


 目を覚ました状態の寝起きからとっさに神夜を驚かせようとしたようだ。


だが神夜はそんなことよりももっと凄い、いや、不思議な驚きをしていたため全く驚かなかった。それを見た旬は納得がいかないようなのか、いきなり神夜に直に走ってきてベッド上で飛び跳ねた。


当然狙いは神夜だった。


 ドーンと、神夜もろとも倒れてしまいその時に頭を軽く打った。 


その衝撃なのか旬を見た時には普通の瞳の色に戻っていたのだ。


「――痛いな~神夜何だこの痛みは――まさか敵か! 敵なのか⁉」


 ある意味では敵になるのかもしれない。


 頭を打った衝撃で神夜とシナプスの意識が入れ替わったらしい。


「お兄ちゃん驚いた⁉」


 神夜の上に乗って足踏みしてくる旬。


 地味に痛い……。


「その上から下りてくれないか」


 と、冷静に言う。


もし神夜蒼麻の意識であれば今度こそ驚いてあげて場を終わらせることができたはずだ。だが運悪く意識はシナプスに代わっていたため優しい言葉をかけることはできない。


旬はその言葉の意味を理解したのか渋々神夜の上から下りようとしている。


その時だった。


「あっ……」


 霧咲に見られた。


「あ……」


神夜の体で意識はシナプス。


とっさに立ち上がり、その時に使うその手は旬の頭の上に乗せた。


立ち上がると同時に出したただの手だったのだが、どうやらその姿は暴力を奮っているような姿に見えたらしい。


旬の頭を抑え込んでいる姿に……。


そう、神夜が旬をいじめている様な感じに見えたかもしれない、そんな光景を見た霧咲はやはり凄い怖い顔をして神夜を睨んだ。


だがその視線は、シナプスに向けられているもののはずだが、姿形はどう見ても神夜、神夜だった。


「最初は見間違いだと思ってたけど、もしかして見間違いじゃなかったって事かしら……⁉」


 霧咲は声を震わせながらそう言うと、神夜の顔目掛けて強烈なビンタを浴びせた。


言わなくても分かるように神夜はそのあと何だか気まずく過ごしていた。


 神夜はその時にはシナプスと意識を入れ替わり過ごしていたわけだが、何だか体がだるいため、ベッドに横になる事にした。


その時神夜は気づいた。


意識はチェンジしていても裏になっている意識は表とさほど変わらないのだという事に、ただいつもはシナプスが寝ているため、表しか意識が無いように見えるだけの様だ。


疲れも多分その影響だろう。


神夜はそんな事を考えながら横になっていたそんな時だった。


窓の外の空に何か飛んで来る物があるのに気づいた。


神夜は余り気にせず「ボー」と、その物体を見ていたがどんどんこちらに近くなっているような気がした。いや、近づいていたのだ。


そのことに気づいた神夜はその物体をもっとしっかりとベッドから身を乗り出し見てみた。


「あれは……もしかして……ロケット……?」


 その通りロケットだ。


 初めは星くらいに小さかったが、今ではもう月位に大きくなって見えていた。と言うことはかなり近づいたと思われる。


そのロケットは急激に大きくなっているような気がした。


「えっ……あ~……これって、何の冗談⁉」


 神夜がそう思うのも無理も無い……。


なぜならそのロケットは人より大きく、動物の像より大きく、恐らくその程度だろう。


だが少しすると思ってたよりも遥かに大きく、倍ぐらい、いや、恐らくもっとだろう。


そのロケットが近くなるたびに神夜の予想はどんどん代わって言った。


だが確かなのはこの家くらいは余裕であるみたいだった。


「えっと~……何かやばいよな、この状況……」


 神夜はそう思うと直ぐにでも霧咲と旬に知らせてここから逃げようとした。


だがその手間は省けたようだ。


旬はベッドのしたに居たらしく「ぴょこっ!」と、顔だけを出して出てきて、効果音が付きそうな登場だった。


「お兄ちゃん見っけ!」


 見つけたじゃないのだ。こんな状況はあり得ないが、こんなことをしている余裕は無いのは確かだった。


そして、霧咲は「そんな事はとっくにしっていたわよ」と言わんばかりの表情で、神夜の少し後ろで腕を組み立っていた。


「これ……追尾ロケット……」


 霧咲は冷静にロケットの主な機能を追尾だと見抜くと窓枠に足を載せた。


その間にもロケットはどんどん本来の大きさに見えてきてこっちに向かってきていた。


そんなロケットを見ながら霧咲は神夜と旬に話した。


「これ、追尾ロケットだわ。逃げても追ってきてそのまま終わりよ。誰を狙ってるのか分からないからここを動かないで」


「動かなかったら誰が狙われているか分からないし、ここにいたら死んじゃうぞ俺達!」


「そうね、でもここから逃げても追われてるターゲットが死ぬのよ。もし、彼方が狙いじゃなかったら逃げれるけどね、他は見捨てて逃げちゃうの?」


 霧咲の言う通りだ。


もし神夜が狙われていないとしたら神夜だけ逃げればいい、でもそんなことまでして助かろうとは思えない……いや、思わない。


そう、神夜が一人で逃げるという選択しは、無かったのだ。


「そんなことするかよ! 見捨てていけるかよ! いくらこの世界で無能な俺でもそんなことまではしたくない!」


「ふふ……神夜くんならそう言うと思ってたよ!」


 霧咲はこの時、満面の笑顔で神夜を見て笑った。


その笑顔は凄く綺麗で、自然に出てきた笑顔。


愛おしい表情ではあったが、ふと見せる角度では、幼げで、直ぐにでもプレッシャーに潰されてしまうような表情がかいまみえた。そんな、儚い表情。


神夜は、そんな霧咲の一瞬の笑顔に、数秒見惚れてしまっていた。


 神夜は、我に返ると、霧咲の表情が変化していることに気づいた。


「この位なら私の蹴りで、どうにかなるかも知れないわね」


 霧咲はそう言うと、脚から青白い粒子を放ち、窓の縁を踏み台にした。


追尾ロケット目掛けて、高さもスピードを常人とは思えないレベルで、ロケットまで飛んでいった。


その姿はまさに小さいロケットのようだった。


「お姉ちゃん‼」


「霧咲‼」


 神夜と旬は、その行動に驚く余り大声で呼んでしまった。


でもその判断はどう見ても正しいと思えた。


なぜならこんな馬鹿デカイロケットを霧咲一人でどうこうできるものではないと思ったからだ。だが霧咲はもう遠い空にいる。


もう何を言ってもそう簡単には霧咲一人の力で戻って来れないだろう。そんな心配も多分届きはしないだろう。空に居る霧咲には恐らく。


「タァ――――――‼」


 遠くの空の方で、霧咲の蹴りは見事狙っていたと思われる、先端部分に当たり、ロケットは大きく方向を変え飛んでいた。


「やったぞ‼」


「やった‼ お姉ちゃん凄い‼」


 神夜と旬はそれでもう終わりだと思った。


だがそんな簡単なことではなかったようだ。


なぜならそのロケットは追尾機能を備えているのだ。


体制を立て直し、凄まじい追尾強制システムで、コチラの方向に再び飛んでくる。


「‼⁉」


 神夜と旬は、さきほど喜びの笑みを浮かべていたのだが、その光景を見た途端に表情が一変。


絶望感あふれる表情に変化した。


ロケットと神夜達が居る民家までの距離はすぐそこまで。


霧咲の蹴りで、どうにかするという方法が、あの状況での一番いい方法だと思われたが、冷静に考えると、そんなの不可能に決まってる。


なにせ、相手は、追尾してくるロケットだ。


だが、霧咲は諦めなかった。


「タァ――‼ タァ――‼ タァ――‼ タァ――‼ ハァァ‼ ヤァ‼」


 霧咲は、か細い脚で微量な空の光をなんとか階段に変化させ、その階段をジャンプ台として、利用し、飛びかかり何度も何度もロケットをけり続けていたのだ。


その力でロケットは方向を変えて、右にどんどんと、ずらしていった。そしてそのまま、窓の枠からはみ出し見えなくなった。


神夜はとっさに窓枠からはみ出したロケットと、霧咲の姿を見るために、窓から身を投出すような形で少し遠くの空を見た。


旬もそれを見て、真似をしようとしたが、怖いらしく、あまり外に身を出せずにいた。


その場で、旬は空をじっと見ていた。


「霧咲とロケットは……どこにいったんだ⁉」


「どこだ⁉」


 神夜の見ている方向から爆発が起きた。


「ドーン」


と、音を立て直ぐに真っ赤な炎がメラメラと立ち上り、やがて黒い煙が黙々と天空へと上って行くのが見えた。


「霧咲!」


「きり……さき……きりさき……きりさき……霧咲は⁉」


 旬は余り状況が分かっていないのか、神夜の真似をすることで理解できるらしい。


そうして情報を自分なりに知った旬は何かに気付いた。


「あっ、お兄ちゃんあれ何⁉」


 外を一緒に眺めていた旬が、人差し指で空の高く、遠くの方を指した。


神夜はその時、霧咲が無事かと言うことで、頭が一杯。


なかなか、旬の指を指していた方向を見れないでいる神夜。


「お兄ちゃん、何かさっきのと、似たようなのがこっちに来るよ!」


 霧咲とロケット探しに夢中だった神夜は、旬のその言葉が少し耳に入り「ゾッ」とした。


―――もしかしたら……。この感は当たってほしくないのだけれどなぁ……。もう一つ、追尾ロケットがあるかもしれない……―――。


と言う想いが頭一杯によぎったからだ。


そう思った神夜は、見るのが何と無く怖くて意識はもう旬の言葉にあったが、まだ霧咲とロケットを探す「フリ」をしてしまった。


額に冷や汗をかき始める神夜。


自分の想定が外れていることを願う。


「ねぇ~お兄ちゃん聞いてるの? お兄ちゃん⁉ お兄ちゃん?? あれ何個~!」


「‼??」


 神夜の脳裏に、電撃のような衝撃が走る。


旬の言葉を聴いた神夜は絶句した。


旬が言った言葉で、神夜の頭に引っかかったのは「あれ何個」と言う言葉だった。


―――あれ何個だと……あれって何だよ……冗談じゃない……まさか、さっきみたいなロケットが、何個もあるって事じゃないよな…………―――。


 神夜はそう考えながら、そうではないことを願い旬の言った空を見てみた。


だが、そんな願いもかなわず、予想通りだった。


でも、それ以上だったのかもしれない。


「何だよ……この数は…………‼」


 神夜は絶句したまま何も出来ないでいた。


それもそのはずだ、霧咲があんなに苦労して方向を変えたロケットが、見た空一面に突如として出現していた。


数え切れないほどの数のロケットが、こっちの民家目掛けて、向かって飛んできていたのだから……。


一つも方向が違ったロケットなど「パッ」と見てもどこにもない……。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん⁉……お兄ちゃん……‼」


 旬は混乱したようで、言葉に出てくるのはいろんな感情が込められた「お兄ちゃん」だけだった。


 神夜でさえ、どうすれば良いのかも分からないでいる。旬が混乱するのも無理は無い。


そんな時に神夜は窓の外に人影を見つけた。その人影は、霧咲のものだと最初は思ったたが、よく見ると全くの別人であった。


……男だ。


「‼……お前は……」


 神夜はその男を見て、直ぐにその男の正体が分かった。


その男は一回だけ指で音を鳴らして言った。


「今、指を鳴らした……次に二回鳴らすとこの場所にあの無数のロケットが落ちてきて…………お前達は跡形も無くドーン、だ……」


 空に合ったロケットは指を鳴らした時に全てが空中で停止している状態だった。


そしてそれを操っている思われる男が神夜の知っていてもっとも仲がよかった高校での同期、玄芳暁斗だったのだ。


「暁斗……お前がこれを動かしてんのか……」


「そうだ」


「じゃあ、最初に飛んできたロケットも、お前がやったロケットなのか……」


「そうだよ、凄いだろ、神夜、あっ、あとな、あの何度も蹴り入れてた女が居たけど、あいつ多分死んだな」


「……」


「でも目的の物を見つけちゃったから、早く取りにいかなきゃ、先に取られちゃうからね……それに…………」


 暁斗は、神夜がどんな状況で、どう思っているのかも気にせず、淡々と「普通だよね」見たいな顔で話し続けていた。


「ふざけんな……ふざけんなよ……暁斗」


「俺がふざけてる? 馬鹿いうなよ、俺は真面目に話しているじゃないか……どうした、何だ⁉」


 暁斗は両手を肩まで上げて、分かりませんと、言わんばかりの格好で、オーバーリアクションを取った。


「だから……お前のその態度だよ……お前、どうしちまったんだ……」


「俺は、今も前も何も変わっていないぜ、変わったのはお前だと思うけどな……蒼麻」


「……⁉」


「そんな顔で誤魔化しても無駄だぜ~お前だけじゃない。俺もその腹の中に居る黒い球、見えてんだぜ……」


「‼」




   ◇




回収:天然シナプス




 神夜は驚いた。


神夜しか見えていないと思っていた、この黒い球体(シナプス)は暁斗にも見えるらしい。


 そしてこんなタイミングで神夜とシナプスは意識をチェンジした。


恐らくシナプスが自ら意識を入れ替えたのであろう。


ここは俺に任せろ、といったような感じで、神夜には少なくともそう感じた。


「……」


「おっと、ここで黒い球の方の御出ましですか…………陰の闇……シナプス」


「ほぉ~私が見えていたのか、大した小僧だな……。だが、見えたからと言って何が出来るのだ……」


「それもそうだな、彼方の本体が見えたからと言ってどうにもならない……。でも、目的がシナプスの意識を器から、剥がすだけの目的……だったら」


「⁉」


「悪いが、蒼麻と陰のシナプスを放して、回収するのが目的なんでね……」


 そう言うと暁斗はシナプスと神夜を剥がし、回収しようと仕掛けてきた。


「悪いが、シナプスを剥がさせてもらう」


「お前にそれほどの力があるのか?」


 そう言うと、約とは、黒い剣を想像して、切りかかってきた。


「ぬるいなぁ」


 神夜の体を借りているシナプスはそう言うと、片手で、剣の軌道を変えた。


「⁉」


 暁斗は一瞬驚いたが、気にせず、剣をかわされた勢いで、片足を上げ回転蹴りに移行した。


 それを難なく、交わすシナプス。


 だが、更に暁斗の攻撃は続く。


 剣を持っていなかった片手に剣を想像し再び斬りかかる。


 新たに想像した剣をシナプスは勢いに合わせて、手を使い、剣を弾き飛ばした。


「⁉」


 シナプスが弾き飛ばしたはずのけんが中で方向転換し、シナプスに向かって飛んできており、更に、残っていた剣を使いハサミうちに切り裂きた。


「がぁ!」


 シナプスは、回転しながら倒れると、すぐに立ち上がろうとしたが立てない。


「悪いなぁ封印でぐるぐるにしてるんで」


 と暁斗が発言した。


 よく見ると黒いテープのようなものがぐるぐる体に巻き付いており、赤い字で封印の暗号が書かれているようだった。


 その封印を解こうとしたが、なかなか解けない。


「じゃぁ。あとは、引き抜かせてもらうぞ」


 そう行って近寄ろうとしたときだった。


「体が動けない!」


 シナプスの眼光が鋭く暁斗を睨みつける。


それだけで動けないのはおかしいのだが、気迫がものすごく。足を踏み出すことができなくなっていた。


 そう、旬がさらわれそうになったときの№Ⅲと№Ⅳが逃げていったあの気迫だ。


「思っていたよりも相当な力を持っているようだなぁ」


「やっと気づいたか少年」


「だが、あいにくそれは目を見なければ使えないようだな」


 そう言うと神夜は目をそらしながら、シナプスを取り出そうと手を近づけてきた。


「ビリッ!」


 その瞬間を狙い、シナプスはいとも簡単に封印を破り、暁斗の顔面を殴ろうとした。


 だが、それのことを予測していたからか、対応がスムーズで、なおかつ手を伸ばすふりをして実は、しゃがみ蹴り回転を食らわしてきた。


 足を狙われたシナプスは体制を崩し地面に倒れた。


「俺は、力が弱いが能力が強い。でも頼りすぎるとこういったときに対処が送れる」


「つまり、体術もある程度鍛えているということか……」


「そうだ」


 そう言うと、暁斗は至近距離で、大量のロケットを上空に出現させた。


「おっとっ……危ない……ロケットだと、火力調整が難しいし、木っ端微塵になり、回収できなくなるなぁ・・・」


そんな独り言をつぶやくと、暁斗は、大量のロケットを大量の弓矢に変化させた。


大量の矢が、シナプスだけに突き刺さる。本体の神夜ではなく、シナプスだけにダメージを与える「矢」らしい。


 暁斗はその後再びロケットを大量に生成するが、今までよりも小ぶりで火力の調整ができているロケットを無数に生成した。


「ぐあぁぁ!」


(―――少年、私を武器にして使うんだ。そうすれば、強い力が手に入る―――)


「武器になれるのか⁉」


 神夜の言葉を聞いてしまった暁斗が反応した。


「させるか!」


 神夜の手に武器が生成されようとした瞬間暁斗の矢が、神夜の手に刺さる。先程まで、青白く光っていたシナプスの力が消えていく。


今度は、とっさの判断だったため、神夜にもダメージを与えた。


「がぁ!」


「そろそろおとなしくしてくれ」


 そう言うと暁斗は三つほど青白い丸い球を投げつけてきた。


その大きさは、拳位の大きさで、それが三つ神夜に向かって投げられたのだ。


「グア―――‼(ぐぁ―――‼)」


途端にその丸い球体からは、電流が走り、神夜の体の周りに三角形の形で、空中で停止し、神夜を囲む。


神夜とシナプスは痛みを感じ大声で叫んだ。


続いて、更に三個の球体を投げつけると、神夜の体を囲むように電流が流れ、六つの球体がクルクルと空中でゆっくりと回り始めた。


神夜の体でシナプスはもがいたが、その、六つの球体は、神夜を起点に、電流の壁を形成した。その電流の壁はどこに触れても、消えず触ると電流が流れ激痛が走る。


「この六角形の結界は、彼方達を捕獲するだけのために作ったデータシステムなんで、簡単には抜け出せない使用になっている。どうあがいても抜け出せないよ……」


 暁斗は黒い特殊な手袋をすると、電流の壁を通過し、神夜の頭を左手で持ち、右手で腹の中にある黒い球をゆっくりと強制的に切り離し抜き取った。




―――ズキンッ!―――。


 


その時、体も、電流の中に入っていたが、身に纏う黒衣が手袋と同じ効果があるようだ。


シナプスをとり囲むように、電流の壁はシナプスを中心として均等に浮遊していた。


取られた途端に神夜の意識は、元の体に戻り痛みも感じなくなり、六つの黒い球から出された。その後、神夜だけは電流の壁から電気が少し走ったが抜け出せた。


「そいつを捕獲してどうするつもりだ暁斗‼」


「こいつか? 決まってるだろ、霧咲様に渡すのさ」


「霧咲様だと……」


「そうだ、霧咲様がこれを使い、この世界をもっと広げようとしているのだ……そのためには人口シナプスでは足りない、だからこうして天然シナプスを回収し、霧咲様に渡せばこの世界はもっと良いものになる……解るか⁉ 蒼麻……」


「何言ってんお前、この世界はデータの世界だぞ、この嘘の世界を大きくして、何になるんだよ……。それに、そいつは今どこに居るんだよ……居場所を教えろ‼ 暁斗‼」


 暁斗は先程まで、穏やかだった表情を一変させた。


神夜の言葉にいら立ったのか、急に表情が代わり、怒りを抑えきれず、感情を爆発させ神夜に言葉をぶつける。


「嘘の世界と言ったな~……お前が居た世界が、この世界よりも人口も広さも、小さくなったらどうだ……いや、もしそうなったらお前が居た世界は、霧咲様が消してしまうかもな……」


「⁉」


「そうなったら、どっちが本物でどっちが偽物になるのかな⁉」


「お前もしかして……」


「まぁ~お前が本物だと思っていた世界が、ただ消えるだけの事だよ……。こっちの世界がやがて本物になる……いや、違うな、世界は一つでいいのかもしれない」


 暁斗は、語る口調から、自分に言い聞かせる口調へと喋り方を変えた。


「あんな世界はいらない……あんな世界なんて…………それよりも、もっと良い世界を霧咲様が創造主となって作り上げてくれるんだよ。飯もいらないし、金も要らない、悪人だって殺せるし、大人になりたくなかったらならなくていいんだ……。毎日が楽しくなるに違いない……なぁ~蒼麻。良いだろ……。そんな世界になったら‼」


 やはり、神夜が知っている暁斗ではもはやない。だが、本物の暁斗。


神夜には暁斗だが、暁斗じゃないもうひとりの人格が宿っているように感じた。


「……」


「そうだよ……あんな世界、あんな奴ら、居なくなった方がいいんだ……この世界なら俺は……俺は自由だ……はは」


 暁斗は過去に何かあったのだろう、神夜は暁斗の話から少なくとも、それを感じる事が出来た。


「暁斗……お前……」


「蒼麻、お前は向こうの世界で、悪い奴じゃなかった……。俺もお前を出来れば殺したくない……。お前も神夜達と一緒に来ないか、俺の知り合いだと言えば、霧咲様も悪いようにはしないだろう……こっちに来るなら、このロケットをこのボロ家に落とすのを止めてやる。それにその女の子の命も助けてやろう」


 大量の矢の後に生成した無数の小ぶりのロケットを示している。


 狙いは恐らく旬の回収なのであろう。


「本当だな……」


「あぁ~でも条件が一つだけある。その力の欠片を俺によこせ、そいつも微弱だが、天然のシナプスの力があるんだよ」


「……」


「どうだ、悪くない話だろ」


「無理だ……」


「……無理……⁉」


「旬は渡せないし、俺もお前と行く気はない……それに、そいつも返してもらうぞ……暁斗」


「やっぱり、そう言うと思ったよ……。じゃあ~ここでお前は本当に死ぬことになるな……その欠片もな~……怨むなら自分を怨むんだな……蒼麻……知っていると思うがリアルワールドから来た人間はここで死ぬと本当に死ぬからな」


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