残虐な王の物語

藍無

残虐な王の物語

雪が、空から舞い降りる。

去年とは正反対ともいえる王都の景色を見て、俺はため息をつく。

王様は、変わってしまった。

それも無理はないのかもしれない。

去年、最愛の妃様が亡くなったのだから。

あれ以来、王様は狂ってしまわれた。

唯一の形見ともいえる王子と王女の二人を殺害し、国民を奴隷のように働かせて絶望をさせたかと思えば、急に民の苦しい生活を思って給付金をばらまき、希望を見せる。絶望と、希望の繰り返し。

きっと、この国はもうじき滅びるだろう。

それも無理はない。

この国の王はもう、人の心をとっくに無くしてしまっているのだから。

国民が、王を殺して滅びをとめることは不可能だ。

それに、他の貴族もみな王に殺されている。

権力を持つものなど誰一人としていない。

しかも、王には史上最強最悪の者と言われている魔術師がついているのだ。

その魔術師はなぜかその王の狂気に惚れているようで、王のことを絶対に裏切ったりしない。国民が一致団結し、歯向かおうとしたところで敗北は目に見えている。

私たち国民ができることは、滅びの時を待つだけなのだ。

雪が、頭の上に積もり、冷たい。

この雪はきっと、近いうちに血で染められるだろう。

私はそんなことを考えながら、何もなく、廃墟のような街を歩く。

すると、向こう側から一人の少女が歩いてくるのが見えた。

ぼろぼろの着物ドレスのようなものを着ている少女だった。

しかし、その白銀の髪と雪を溶かしたような色の目はとても美しかった。一度見たら、二度と忘れられないほどに。

というか、この少女、どこかで見た気がする。

俺が、少しの間見とれていると、

「どうか、しましたか?」

と、不思議そうに尋ねてきた。

「あ、いや。その服、最近じゃ見ないなー、と思って。」

本当の事である。

平民は最近、重労働を課せられて、給料は一切なく、時々ばらまかれる給付金で生きることもやっとなのだ。以前は、冒険者たちがさまざまなおしゃれな衣装を着ていたりしたが、今はその冒険者も他国へ逃げたり、逃げられずに平民と同じように重労働を課せられるものがほとんどであるため、無駄にプライドの高い冒険者などの中では、廃人のようになる者も後を絶たない。

「ああ、この服ですか。最近、買ったんです。」

「へえ、それほどのお金があるのかい。」

「ええ、冒険者だったころに少し貯めていたお金があったので。」

「そうか。ところで、どこに行くんだい?」

こんな幼い少女が雪の降っている日に一人でいったいどこへ向かうというのか。

俺は気になってそう聞いてみた。

「王様の所です。」

「あんた、死にたいのかい?」

「いいえ。」

「じゃあ行くことはやめたほうが良いよ。」

「いえ、大丈夫です。きっと。」

そう言って、少女はまた歩き出した。

俺は、その背中をずっと見つめていた。

見えなくなっても、見つめていた。

―――――

私は、道を歩いていたら男に王のところへ行くのをやめろ、と言われた。

しかし、私はやめるつもりはない。

でも、嘘をついてしまって少し悪い気もした。

私は、冒険者ではあったが、この今着ている服は自分でためたお金で買ったものではないのだ。友人に、誕生日プレゼントとしてもらったもの。

でも、この時代にはきっとこの服は売っていないんだろうな。

歴史上で『時の暗殺者』と呼ばれている少女がいた。なぜそう呼ばれているのかというと、その少女は、はるか1000年前にいた暴君を暗殺したとされていて、一部の国民からは伝説だと言われて崇められていたのだ。しかも、300年前にこの国を襲った災厄を滅ぼしたのも彼女だという。そう言った感じで、歴史の中にたびたび登場し、活躍する暗殺者なので、いろんな時を旅しているのではないか、と噂され、時の暗殺者、と呼ばれている。しかも、その少女を見たものは、その少女が人間だった、と言っているのだから、不思議なものだ。うわさによると、人間なのに、少なくとも700年以上は生きていることになるのだ。

そして、その『時の暗殺者』と呼ばれているのは、私の姉である。

なぜそんなことがわかるのか、それは姉が私の15の誕生日の日にやってきて、そのことを教えてくれたからなのである。最初こそ、嘘だと思っていたが、調べれば調べるほど姉であることが確信できた。

自分の姉のことだけど、妹の私でもどうして時を旅をしているのか理解できない。

そして、姉は去年、この国の王妃を暗殺してしまった。

なぜなのかはわからない。

もしかしたら、国にとって良くない未来があることを知っていたからそれを防ごうとして暗殺したのかもしれない。

しかし、この国の王妃を殺したことで、この国はもう崩壊寸前である。

そして、その狂った王をいさめられるほどの実力者はこの国にはもういない。

と、するならば、過去から来た私はこの国を守るために、王を殺そうと思った。

私ならば確実にこの国の王を殺すことができるだろう。

この国の王にはとても強い魔術師が付いているそうだが、私ならきっと倒せる。

だって、私は一応特級のSランクの冒険者だから。

そんなことを考えていると、王城についた。

予想通り、兵がたくさんいる。

きっと、正面突破は難しいだろう。

私は、瞬間移動のスキルを使い、王の目の前に転移した。

王様は、とても空虚な目でこちらを見つめている。

驚きもしないのか。

いや、驚く心がないのか?

「おやおや、どうやってこの結界を通ったのでしょうか?」

私に少しだけ驚いたような様子で魔術師がそう言った。

「さあね?」

私は少しとぼけた様子で、魔法を発動する。

『無限暗黒牢獄』

「おや、禁じられた魔法を使えるものがこの時代にまだ残っていたとは。」

その魔術師は驚いた様子でそう言った。

禁じられた?どういうことだ?

私の生きていた『過去』にはまだ魔法はあった。

あの後、魔法は封じられたのか?

でも、こいつは魔術を使うらしいから魔術は禁じられていない?

私は必死で考える。

いや、そんなことは今は関係ないか。

そう思い、私は魔術師の方を見る。

私の発動した魔法による黒い空間の『隙間』は、その魔術師がふさいでいた。

「へえ、思ったより強いのね。」

私はそう言って、刀を抜いてを構える。

そして、魔法『高速移動』を使い、素早く魔術師ののど元に刀を突きつける。

「最後に言いたいことはあるかしら?」

「ふふっ、小娘が。いや、もしかして貴様が時の暗殺者か_?」

「いいえ、私は時の暗殺者の妹よ。」

そう言って私はその魔術師の首を切り落とした。

そして、王の方を見る。

きっと焦りの表情を浮かべているだろう、と期待して。

しかし、王は、無表情だった。

何も感じていないようだった。

「あなたは、何も感じないの_?」

「私にもう心はない。もう疲れた。早く我の妻に会いたい。」

「――そう。」

私は、黒いローブを取った。

次の瞬間、王の目が見開かれる。

「私ね、会いに来たのよ。あなたに。」

「あ、あぁ。我妻わがつまよ。今までどこへ行っていたのだ?」

「私は、姉に殺されたの。でもね、姉のことは恨まなかったわ。姉は、国のためだ、と言って私を殺したから。私は、姉の言ったことが本当だと信じていた。けれど、この国は今や崩壊の方へ向かっている。そこで私は気が付いたの、姉は国のためだ、と言ったけれどこの国、とは一言も言っていなかったのよ。だから、きっと姉は他の国のために私を殺してこの国を滅ぼそうとのかもしれない。それなら、私はこの国を守らなければならないわ。だから、一番最初にあなたに会った姿で最愛のあなたに会いに来た。」

「そうか、そうなのか。だが、もう良い。我は疲れた。」

そう言って王が――最愛の人が、私に抱き着く。

「ええ、私も疲れたわ。」

そう言って、私は刺した。

最愛の人を。

そして私の体は、はらはらと崩れ始める。

「良かった、最後にあの人を苦しめずに殺せて。私の手で、殺すのはつらいけど、きっとこれであの人は救われた。まあ、私はきっと人を二人殺したから地獄行きね。」

雪雲が消え去った青空へ向かって私はそう呟いた。

―――――

次の日、国中に朗報が届いた。

あの残虐で残酷の限りを尽くした狂気の王が殺されたそうなのだ。

そして、あの極悪非道の魔術師も。

国民はそのことを知り、歓喜した。

しかし、俺は少し不思議なことに気が付いた。

一体誰が国王と魔術師を殺したのだろうか?、と。

この国にはそれほどの力を持つ者はいないはずだ。

それに、噂によるとその場には王と魔術師の死体、それにぼろぼろの着物ドレスが残されていたそうだ。

着物ドレス_?

まさか、あの少女が関わっているのか_?

いや、そんなことはあり得ないか。

そう思い、自由になった青空の下へ飛び出し、友に会いに行った。

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