董卓の望み

風馬

第1話

――夜が明ける前の静寂な時間、洛陽の宮殿に一筋の風が吹き抜けた。

董卓は、昨晩の酒宴の余韻に浸りながら、大きな鼾をかいて寝ていた。その顔には満足げな笑みが浮かび、腹の上に転がる酒瓶が、その豪快な宴の名残を物語っている。


しかし、その静寂を破るように、突然黒い煙が室内に渦を巻いた。煙の中心から、見慣れない異形の者が現れた。鋭い角、赤い目、そして不気味な微笑みを浮かべた悪魔だった。


「董卓様、目覚めの時間ですよ。」悪魔が囁くように言うと、董卓は一瞬むにゃむにゃと寝言を言った後、目を覚ました。

「誰だ!この董卓の寝室に勝手に入り込むとは、ただで済むと思うな!」と怒鳴りながら飛び起きたが、悪魔の姿を見て動きを止めた。


「おっと、ご心配なく。我は地獄の使者、ちょっとした相談役です。董卓様、あなたの望みを叶えるお手伝いをしに参りました。」

「ほう?地獄の使者だと?それで、何の用だ?」


悪魔は董卓を見下ろしながら、にやりと笑った。「地位、権力、名誉……あなたはすでにこの世のすべてを手にしたように見えます。しかし、まだ何か足りないような顔をしている。そうではありませんか?」


董卓は一瞬考えた後、笑い声を上げた。「確かにその通りだ!この董卓に足りないものがあるというなら、それが何か知りたい!」


悪魔は不敵な笑みを浮かべて言った。「では、問いましょう。董卓様、あなたが次に求めるものは何ですか?」



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董卓の欲望


董卓は顎に手を当て、しばらく考え込んだ。「金か?いや、金なら山ほどある。美女か?酒池肉林を完成させた今さら、それも飽きたな……。」

悪魔はその様子を見て、からかうように口を開いた。「では、不老不死はいかがです?永遠に楽しめますよ。」


「不老不死だと?そんなもの退屈で仕方ないだろう!酒が飲めなくなったらどうするんだ!酔わない人生など、この董卓には無意味だ!」

悪魔は思わず吹き出した。「なるほど、確かに董卓様らしいお答えです。それでは、もっと大きな望みを考えてみては?」


「大きな望みか……。では、世界中の酒をすべて手に入れるというのはどうだ?」

悪魔は目を細め、意地悪そうに言った。「董卓様、そんなことをしたら、他の者が飲む酒がなくなってしまいますよ。それはそれで面倒事を生むのでは?」


「ふむ……それもそうだな。」董卓は腕を組み、再び考え込む。



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悪魔の提案


悪魔はここで話題を変えることにした。「それでは、董卓様。この世界だけでなく、あの世の権力も欲しいと思いませんか?」

「ほう、それは面白い。あの世で王になるというのか?」董卓の目が輝いた。


「ええ、地獄の王、いや、宇宙全体の支配者にもなれるでしょう。」

「宇宙だと?」董卓は大声で笑った。「この董卓にそんな壮大な望みが似合うとは思わんが、悪くないな!」


しかし、次の瞬間、董卓の顔が真剣になった。「だが、考えてみれば、俺に必要なのはそんな大それたものではないかもしれん。実は……もっと根本的な望みがある。」


悪魔は興味津々で尋ねた。「根本的な望み?それは一体?」


董卓はニヤリと笑った。「俺はこの世でも地獄でも、何者にも邪魔されず、自由気ままに酒を飲み、暮らしたい。それだけだ!」



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悪魔との取引


悪魔は一瞬黙り込んだが、やがて静かに口を開いた。「なるほど。それなら、こうしてはいかがです?私と一つになることで、董卓様はこの世でも地獄でも、誰にも縛られることなく、永遠に酔いしれる存在となれます。」


「一つになる?どういうことだ?」


悪魔は不気味に笑った。「私と董卓様が一心同体となるのです。私の力をあなたの体に宿し、あなたの意志が私の存在そのものとなる。誰もあなたに逆らえなくなり、永遠に酒を楽しめます。」


董卓は興奮した。「それは良い!酒が飲めて、誰にも邪魔されない――これ以上の望みはない!」


悪魔は静かに手を差し出した。「それでは契約を。」


董卓は迷うことなくその手を握った。その瞬間、悪魔の黒い影が董卓の体に吸い込まれ、彼の瞳は赤く輝いた。力が体中に漲り、笑い声が響き渡る。


「はははは!これが本当の自由というものか!」董卓は酒瓶を掲げ、天井を仰ぎ見て叫んだ。「これからは俺がこの世も地獄も支配する!」


悪魔の声が董卓の心の中から囁く。「ええ、董卓様。私たちは一つです。永遠に酔いしれるために。」


こうして、董卓は悪魔と一心同体となり、誰にも縛られず、永遠に酒と権力の中で生きる存在となった。


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