EP043

僕の頭の中で何が結びついた。

その刹那…、


「カーン。コーン。」

「キーン。コーン。」

「カーン。コーン。」

「キーン。コーン。」


僕の頭の中に教会の鐘が鳴り響いた。


「うるさい!!」

「うるさい!!」

「うるさい!!」

「うるさい!!」

「うるさい!!」


僕は両手で頭を抱え、目を瞑り、大声で怒鳴り散らす。


すると、僕の頭の中で響き渡っていた鐘の音は嘘のように止まった。

そして、大音響から解放された僕の耳は、優しい小鳥のさえずりを聞いたような気がした…。


「…ロ。」

「…ロ。」


その小さな小鳥さえずり声は、あくまでも優しく、癒しを与え、そして何か懐かしくもあった。














僕の頭は、冷めていた。

僕の思考は、落ち着いていた。


僕は、ここで学習した。

僕は、ここで経験した。


そのおかげで、

僕は、僕の脳細胞の欠損を復旧させる手立てを知った。

僕は、僕の脳細胞が元に戻ることを知った。


そして、

僕の脳が、失っていたものを徐々に取り返している事実を知った。

でも、

はしゃぐことなく僕は、落ち着いていた。


それは、

小さな声が、僕に安寧を与えてくれたから…。
















頭を固く抱えた両の手を緩め、固く瞑った両の瞼をゆっくりと開く。


「ジロ…。」

「誰だ。僕の名を呼ぶのは。」


固く瞼を閉じていたせいで焦点の合わない目で僕の名を呼んだ者を探す。

ボケて見えてはいるが、周りは桃色一色の世界だ。


「ジロ…。」

「どこの誰だ。僕を呼ぶのは。」


僕はその場で首を振る。

でも目に入るのは桃色一色だ。


「こっちよ。」

「どっちだよ。」


僕はヤケ気味に首を上下左右に振る。

その時、僕の目に止まったのは足先いるボヤケた薄いカフェオレ色の塊…。


「こっち見て。」

「えっ?!エバなのか?」


僕に語りかけていたのは、そのボヤケた薄いカフェオレ色のエバだった。














僕の足先いるボヤけて見えるエバは、僕に向かって小さな口でしゃべりだした。


「ジロ。分かる?」

「エバだろ。分かるけど、はっきり見えないんだ。」

「じゃあ…。少し戻ったんだ。」

「戻った?何が?」

「本来のジロが。」

「本来の僕?」


本来の僕ってなんだ?

ここにいる僕は僕じゃないのか…。


「さっきまでのあなたも今のあなたもあなたよ。」


僕の思考が手に取るように分かるのか、エバは的確な答を僕に投げかけた。

ただそれは押し問答のような内容で僕にトンチンカンな言葉をはかせる。


「同じ人物なのに、違う人格を持ってるってことかい?」

「当たらずとも遠からず…。」

「意味が分らないよ。」

「じゃあ、これを見れば…。」


そう言うと、エバは立ち上がった。

そして一瞬にして変態した。
















猫だったエバは一瞬にして人間になった。

それも全裸の女性に…。


僕はその姿を見た瞬間、驚きよりも親しみ…、否、何らかの思慕の情を持った。

そして僕の口から思いも寄らぬ言葉が口をつく…。


「ア…、…。ア…、リ…、ス…。」


その言葉が口をついた瞬間、僕の頭の中に暖かな色彩をもった画像が堰を切った大洪水のように流れ出した。

彩りをもった記憶が、僕の両眼から涙を溢れさせる。

僕の頭の中で、失っていた感情が頭蓋骨を圧迫するほどに膨張する。















「ア…。」

「ア…。」

「ア…。」

「思い出した?」


アリスの優しい声が私を発狂させる。

狂おしいほどの愛しさが私の血液を沸騰させる。


「アリス…。」

「アリス…。」

「アリス…。」

「ジロ、ワタシは目の前にいるから、落ち着いて。」

「アリス…。」

「アリス…。」

「アリス…。」

「大丈夫。大丈夫よ、ジロ。」


そう言うと、アリスは私の体を優しく抱きしめた。

アリスの腕の熱が、体の熱が、私の体に伝わる。


『温かい…。』


そう私が感じた瞬間、私は気を失った。





≪続く≫











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