EP040
空間にできた隙間から入った世界は、今までとは全く違う雰囲気を持っていた。
この世界の全ては、透明から暗黒までのグラデーションで塗り潰されていた。
天地もない。
前後もない。
左右もない。
見渡す限り明暗のグラデーションだけの形すら分からない空間の世界だった。
僕はそこに立っていたが、地面があるわけでもなく、かと言って、寝ているわけでも、空中に浮いているわけでもないかった。
僕の周りにあるものは明暗のグラデーションだけ。
まるでグラデーションの水の中を浮遊しているような感覚だった。
ただ、水と違って体にかかる圧はない。
抵抗もない。
『宇宙遊泳ってこんな感じなのだろうか…。』
歩こうが、跳ねようが、暴れようが、揺れることも、動くことも、乱れることもない、明暗のグラデーションだけの世界…。
その世界を目を凝らしてよく見るとグラデーションの明るい部分には、この世界のどこからかやってきたのか分からない無数の蔦のようなものが見てとれた。
それがところ狭しと
そして、暗い部分にも目をやると、やはり蔦のようなものが
しかし、明るい部分ほどの密度で
真っ暗なところも見てみると、やはり蔦のようなものはあった。
ただそれらは、数えられる程度の本数しかなかった。
規則性があるわけでもなく奔放に伸び散らかした蔦のようなもの…。
その蔦のようなものにはいろんな色があり、細かったり、太かったり、大きさも長さもまちまちだった。
葉を茂らせているもの、棘をつけているもの、何もない蔦だけのもの、中には花を咲かせているものもあった。
そしてもっと目を凝らして良く見ると、その蔦のようなものには何か蠢くものが見てとれたのだった。
変わった動きをする…、尺取り虫のようなもの…、が、蔦のようなものを這っていた。
蔦のようなものを蠢く尺取り虫のようなものもまた、様々な色をしていた。
きれいな色のものもいれば、毒々しい色のものもいた。
長さも大きさもまちまちだった。
それがうにょうにょと動くのだ。
ジッと見ていると気分が悪くなってきた。
ただ、気持ち悪い思いをしながらもジッと見ていたせいか、尺取り虫のようなものには規則性が見てとれた。
その規則性とは、進む方向がいっしょだったということだった。
尺取り虫のようなものは必ずグラデーションの明るい部分から暗い部分へ向かって進んで行くのだ。
昆虫ならば明るい方へ、明るい方へと進んで行くようなものだが、この尺取り虫のようなものは暗闇の方へ向かって進んで行く。
しかしながら、進む速度はバラバラで、個体によっては動かないものまでいる始末…。
それでも、進み行く方向だけは同じだった。
『この規則性は何なんだ…。』
僕は興味が湧いて気分が悪くならない程度に観察を続けた。
そこで次なる発見をする。
『蔦のようなものは成長している。』
ボーっと見ているだけでは分からなかったと思う。
それは蔦のようなものの上で動かない金色に輝く尺取り虫のようなものを見つけた時だった。
色んな色の尺取り虫のようなものがいたが、金色に輝くそれはその個体しかいなかった。
なんだか変な神々しさもあって動かない金色に輝く尺取り虫のようなものから目が離せなくなっていた。
瞬きも忘れて見入ってしまっていたので、幾分目が乾燥して、ほんの一瞬目をつぶって再度同じ場所を見た時、じっと動かなかった金色に輝く尺取り虫のようなものが僕の視界からいなくなっていたのだ。
僕は眼球を動かして見ていた周辺を探してみた。
しかしその範囲には、金色に輝く尺取り虫のようなものはいなかった。
どうしても見つけたいという思いに駆られ今まで見ていた視点を外してでも金色に輝く尺取り虫のようなものを探すことにした。
それは、呆気なく見つかった。
やはり他にない色合いが、探しものを容易にした。
しかしそれは、僕が思っていたよりも離れた場所で見つかったのだ。
そしてそれは、先ほどと変わることなくジッとしているままだった。
『蔦のようなものは、伸びていたんだ。』
という帰結を僕は得た。
観察すると蔦のようなものの伸びる速度はまちまちだった。
速やいものもあれば、遅いものもある。
全然成長していないものもある。
観察を続けると、蔦のようなものに取り付く尺取り虫のようなものは、一様に蔦のようなもの尖端を目指しているようだった。
それは蔦のようなものが伸びていく先…。
暗黒の部分へと…。
しかし、全部が全部、同じように蔦のようなものの先端を目指しているわけではないようだった。
ある尺取り虫のようなものは、蔦の途中にしがみついてるだけ…。
また、ある尺取り虫のようなものは、蔦のようなものの先端を目指すことをやめていた。
ただ、蔦のようなものはそんなこともお構いなしに伸びていく。
なのにどうしてか、尺取り虫のようなものから全く見向きもされない蔦のようなものもあった。
伸びることをやめている蔦のようなものもあった。
よく見ると、枯れ落ちてしまっている蔦のようなものもあった。
「なぜ?尺取り虫が集まらない蔦があるのだろう…。美味しくないのかなぁ…。」
僕は心の中の疑念を無意識のうちに口に出していた。
「そりゃあそうよ。」
思いもよらないエバからの相づち…。
「えっ…。」
誰も聞いていないと思っていた僕は単純に驚いた。
「美味しくも、面白くもないものに誰が近づくって言うの…。」
「その通りだけどさぁ…。たで食う虫も好きずき、なんてことわざもあることだし…。」
「一匹、二匹しか寄らないものに誰が時間を割くのってことじゃない。」
「分かるけどさぁ…。」
「尺取り虫がいっぱい集まる蔦は、それだけ努力して進化してるってことよ。」
「努力って…、進化って…、大袈裟じゃない。単に運が良かっただけじゃないの?」
「その運を引き寄せるためにいろいろ手段を講じてんのよ。」
「そ、そう…、だね…。」
余りのエバの剣幕に僕は少々たじたじだった。
このは蔦のようなものと尺取り虫のようなものの関係が、僕には初期のインターネットの配信者と視聴者の関係のようににふと思えてしまった。
≪続く≫
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