EP014
とある会社の株を、大量に購入したことなど記憶の片隅にもなくなっていた…。
そんなある日…。
ピンポン…。
ピンポン…。
回収後のゴミ捨て場の掃除をしていると、自宅の門扉のチャイムが鳴る音が聞こえた…。
慌てて自宅の門扉に戻ると、そこには数人の黒いスーツ姿の若い男女が立っていた…。
「な…、何か…、ご用…、ですか…?」
過去の訪問詐欺業者のこともあり、おずおずと尋ねてみる…。
「高橋次郎様で御座いますか?」
「えっ…、ええ…、は…、はい…。」
数人の若者たちの中の一人、小柄な女性が私に向かって聞いてきた…。
私は返事に迷いながらも素直に応えてしまう。
「不躾に申し訳ございません。」
彼女はこう言うときれいに頭を下げた…。
『若いのに礼儀を
「私どもはこういう者です。」
その若い女性は、すかさず私に名刺を差し出した。
『慣れた仕草だ…。』
貰った名刺を見て、私がアルファベットばかりの印字に首をかしげて、読み淀んでいると…。
「私どもは、株式会社ニーンセファロンから参りました。」
と、気を効かせて、率先して身分を証してくれた。
「は…、ぁ…。」
私にはそう自己紹介されても、聞いたこともない会社名も、若い彼らのことも、知る由もない。
「この度の弊社株式の大量なるご購入、誠にありがとう御座いました。」
と言うと、この場にいた若人全員が、一斉に私に向かって頭を下げた。
「い…、いえ…、いえ…。」
意味も分からないまま、顔の前で右手を左右に振り
「高橋様があの時点で弊社の株式を大量に取得していただいたおかげで、弊社の開発中だったAIシステム【ニューロ】は完遂でき、完成発表披露まで辿り着くことができました。」
「は…、はい…。」
株と聞いて、先日の行動を、ふと思い出した…。
『ああ…。宝くじが当たった時に…、アリスに言われて買った株の…。』
ただ、見知らぬ若者たちに感謝の意を述べられても、私にはいまいち分かっていなかった…。
全ては、アリスの言う通りにやったこと…。
「本日は、大株主様であらせられる高橋様に、御礼と事業報告のため、勝手に訪れせていただきました。」
「は…、あ…。」
とにかく、道端での立ち話は、目立ち過ぎる…。
周辺の人の目もある…。
近所迷惑にもなりかねない…。
私は彼らを自宅に招き入れることにした…。
若人らは自宅の室内に驚いていた…。
外観からは想像できない、余りにも進んだスマートホーム状態に…。
「これは…、どなたが設計なされたのでしょうか…?」
先程の小柄な女性が先陣をきって質問してくる…。
「う…、ん…。ん…。ん…。ん…。」
大袈裟に首を傾げることしかできない今の私…。
私の知るところを話すと面倒なことになる気がして、その場を濁す…。
そんな場面に、クッションフロアを転がりながらアリスが現れた。
そして、皆の前で静止したソフトボールのような球体は、
「イラッシャイマセ。」
と、唐突に、来客たちに挨拶を述べた。
『バッドタイミング…。』
「た、高橋様。これは…?」
「…。ス…、ス…、スマート…、スピーカー…。」
ここでも事実を避けてお茶を濁す…。
「は、初めて見ました。こんなタイプの物は…。」
「そう…。」
「こちらは、Wi−Fiでネットワーク接続を…。」
「うん…。」
今まで一言も口を開いていなかった群れの中の一人の男性が、咄嗟に聞きてきた…。
「それで…、スマート家電の管理を…。」
「うん…。」
私はとにかく、知らぬ振りを貫く…。
「これは…、AIとの連携は可能なんですかねぇ…。」
群れの中の違う男性が、たまらず尋ねてくる…。
「ん…。…。…。…。」
私が本当に答えに窮していると…。
「可能。」
と、アリスが淀むことなく、皆に向かって返答した。
「た、高橋様。もし宜しければ、このスマートスピーカーのAI連携に弊社のニューロをお使いいただけないでしょうか?」
「えっと…。」
「弊社のニューロは、単なるAIの学習アルゴリズムではなく、人間の脳神経回路を模倣したいわば【人工の脳】のような存在なのです。」
「はあ…。」
「この技術によって、AIは感情を理解し、共感し、さらには創造性を育むことができるようになっていて…。」
「はあ…。」
「作業用人工知能としてではなく、人間との共存に基礎を置いたプロジェクトで…。」
と、株式会社ニーンセファロンの若者たちの力説が続く中…。
「連携方法、教唆。」
アリスの機械的な人工音声が、熱弁を遮った。
≪続く≫
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